第12話 君の残してくれたもの
アルカさんの城が幾度もの魔王の復活を生き延びてあの地に存在しつづけるところから、「魔王に自身の体と誤認させる効果を持つ、闇の力を纏わせた障壁で防衛する」という発想を得たところで、まだ解決しなければならない問題がある。
まず、闇の力を扱う技術について現状知識が不十分であることだ。
「黒魔道士」という名前に反し、闇の力を用いる魔法は僕たちの専門外だ。
少なくとも現時点で僕に扱えるものは何一つない。世の中の大半の黒魔道士だってそのはずだ。
このような不十分な知識で無理に魔法を使用すれば、闇の魔法でも普通の魔法でもどうなることかわかったものではない。
今僕達のいるこの城の蔵書庫、あるいは母校にならヒントになるようなものもあるかもしれないが……。
次に、教会勢力の理解を得にくいであろうことだ。
この防衛方法は「闇の力は魔物の領分」「人間が手を出せば破滅する」と教えに説く教会を敵に回す可能性が極めて高いのだ。
「魔王討伐が最終目的で、後のことはどうだってかまわない」
そういう思考に吹っ切れることもできれば、思い切ったこともできるのだろう。
だけど僕にとってそれは不可能な相談だった。
魔王の討伐は確かに大目的だ。これを果たすためには道を外れることもやむ無しだろう。
ただ、それはあくまでも「魔王の脅威が去った世界」をドロテア達に手向けるためであり、勝ち取った未来に余計な禍根や戦乱の種になるようなものを残さない方がいい
だから、「闇の障壁作戦」を決行するのであれば、関係各所に納得のいく説明が必要だ。
「考え事しだすと長いんですのね、ダン様は」
アルカさんの一言で、はっと目が覚めたような心地になる。
「もともと闇の力は私達吸血鬼や魔王のような闇の眷属の技術体系。といっても今やここにいる一族はその扱い方さえ学んでいない私のみ。ですがこれで何もかもがお終いというわけではありませんことよ。」
アルカさんが手にしているのは何冊かの書籍だ。
いずれも正規の課題や魔道士の研究会に提出するものではないからか、記名はされていない。
それでも、羊皮紙の上に刻まれた文字に懐かしさを感じる。
ドロテアの字だ。
彼女は元々、「この知識が必要だ」と考えたら、それが禁忌だろうと調べずに入られない気質だった。
一昨年の冬頃は、人間の精神を不可逆的に変質させる魔法の調べものなんかをメイ先生に内緒でしていた。
ドロテアが退学になれば碌なことにならないだろうから、黙っていたけれど。
思わず僕はページをめくる。
「ドロテア様はほかの勇者様と共にこの城で最後の休憩をとった際、私に闇の魔術についてのご自身の研究記録を残されたのです。
『この魔導書も保管しておいてほしいの。きっと、ダンにこれが必要になるから。発表はしないでよ。内容が内容だから、さ。』と。
私には書かれた内容が理解できませんでしたが、ドロテア様が名指しで必要になるとおっしゃられたダン様であれば、あるいはと。」
論文は「闇の魔力の発生方法」「闇の魔力と通常の魔力の違い」「闇の魔力の危険性と対策」「簡易的な闇の魔術の応用例」の4冊に分かれていた。
「アルカさん!ありがとうございます。」
少なくとも、これで数ある問題の一つ「闇の力に対する知識不足」は解消できそうだ。
扱う知識の内容と反対に、脳の曇りが晴れるような心地がした。
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