ちょこれーと

埴輪モナカ

2月14日

 僕はこの日が嫌いだ。

 友達は毎年飽きずに貰ったチョコの数を聞いてくるし、帰ったら貰ってないことを当然のように母親がチョコを渡してくれるせいで、余計惨めに感じる。

 よく考えてもみろ、そもそもバレンタインデーとはお菓子会社の作った記念日であり、何かの宗教の大切な日でも、世界に印象を与えた事件のあった日だったりもしないのだ。

 だというのに、もらえない者が惨めな思いをする日を作り、それだけに飽き足らずホワイトデーなんて日も作ったお菓子会社が、僕は心底恨めしい。

 

 別にもらったことが無いわけではない。小学生のころは幼馴染や友達から結構な数をもらっていた。まぁ、高校生になった今、僕に渡してくれるのは親くらいなものなのだが。

 だというのに、幼馴染兼腐れ縁のこいつは、毎年なん十個ももらって、食べきれないからと僕に分けてくるのだ。食べきれない量を受け取るなと一度言ったが、「気持ちを込めて作ったものを受け取らないとか、それこそ悪いだろ。」と言われてしまい、ぐうの音も出なかった。それでも僕が食べるのは、一度彼がすべてのチョコを食べようとして、途中で鼻から血を吹き出したからである。(これだけ紳士ならそりゃモテるか)


 彼にもらったチョコの数を聞かれるのは腹が立つけれど、彼の本当のイケメンさに驚かされる日でもあるのだ。

 そんな日に、彼は分けるためのチョコではなく同じクラスの女の子を連れてきた。

「このこ、お前に用があるんだってさ。」

「僕に?今日?誰かのいたずら?」

「お前なぁ、顔見れば本気だってわかるだろ。嘘でも本気の子の前でそう言うこと言うんじゃねぇよ。」

「ん、気が動転してた。ごめんね、いきなり疑ってかかっちゃって。」

 女の子は落ち着かない様子で早口だけれど受け答えはできそうだった。

「い、いえ、わ、私なんかじゃ疑われても仕方ないって言うか・・・。」

 どうやら自己肯定感の低い子のようだ。気持ちは分かるぞ、比にならないやつが隣にいるからな。

「そんなことないよ。さすがにバカじゃないから要件は分かってる。そんな風に勇気を出してくれただけで、君はすごいよ。」

 せめて、この場所だけでも成功するように祈っておこう。その勇気が無駄じゃなかったと思ってもらえるように。

「ありがとう。ございます。私、あなたにチョコが渡したくて、それで・・・こ、これ、受け取ってください!」

 よかった。ちゃんと言えたね。

「うん、ありがたく頂くよ。実は、高校生になってから始めてもらったんだ。本当にありがとね。」

「い、いえ、その、うけとってもらえてよかったですううううううう‼‼」

 言い残して走り去ってしまった。今だけは、ホワイトデーという日に感謝しなければならないかもしれない。

「ねぇ、あの子の名前教えてくれない?じゃなきゃお返しも出来ないから。」

「うん、あの子はね・・・。」


 帰宅後、きれいに包装された箱を開けると、多少形が崩れてるものの、それでも何を作りたかったのかわかる程度で、一緒に手紙も入っていた(若干チョコついてたけど)。


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ちょこれーと 埴輪モナカ @macaron0925

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