異世界オルタレーション ~勇者パーティから追放されたレベル999の支援系チート魔術師が追放者同士で最強Sランク冒険者パーティを組むそうだが俺だけが有能だと気づいているのでざまぁされる前に連れ戻したい~

多部栄次(エージ)

第一章 元パーティに戻って来いとか許してほしいとか言われてももう遅い

プロローグ.叶わぬ夢

 生まれたときから負け犬だった。

 物心ついたときには親も家も金もなかった。人間の権利や尊厳なんてありゃしない。逃げて、殴って、生きるだけで精一杯。そこらのごみを漁る野ネズミと変わりない日々だった。


 そんなクソッタレな人生でただひとつ、この汚く冷たい手に温もりを感じていたことだけははっきり覚えている。くまなく痛めつけられた骨身に、熱く、麻痺した皮膚、耳鳴りと共に手放しかけた意識の最中、こんなにも強く手を握ってもらえたことは初めてだった。


「ごめんなさい」

 最初の一言は謝罪だった。汚れ荒み切った俺の世界にはない……憧れに過ぎない澄み切った空のように美しい声。あどけなくも、慈しみに満ちたそれは、自分を責めているようで。


「幼い私では、あなた様を救う力すらありません。これだけのことしかできない無力な私をお許しください。ですが、いつか必ず……民も、そしてあなた様も苦しむことのない国を作りますから」


 花のように柔らかな香り。俯き垂れる白銀しろがねの髪から覗く、夜明けのようにやさしく輝く紅玉の瞳。

 あれは夢だったのかもしれない。でも、この目と、手に残った感覚はいまでも覚えている。たったこれだけの出会いで、たったこれだけのやりとりで、俺の人生はひとつしか考えられなくなった。


 夢が、できたんだ。バカげた夢だ。

 でも、どうやらそれは叶わなさそうだ。


 メイン、シルディア、プリエラ……そしてブレイブ。

 おまえらとの約束も果たせそうにない。無茶した俺を許してくれ。

 この命をかけて繋いだ一瞬が、勝利の導きになることを祈る。


 おまえらなら、必ず"魔王"を倒せる。この戦いでようやく、すべてが終わるんだ。それで失う命なら、俺は誇らしいよ。

 魔王討伐の瞬間を共に見れねぇのは惜しいけど、俺は先にいかせてもらうぜ。


 じゃあなおまえら。あとは託した。

 この国を、世界を。そしてあの人の未来を。

 救ってくれ。

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