第7話 ゴブリン討伐。オーバーキルで地形が変わる
戦艦三隻から発進したいくつものシャトルが大気圏に突入し、真っ赤に発熱している様子が屋敷の窓から見える。それらはイグナイトの社員を乗せて、ゴブリン出現地点へ降り立ったはずだ。
「投下完了したようです。私たちも行きましょう、セリカ先生、アリスデルさん。お二人に向かってもらうポイントは端末に送信しておきました」
「よし。戦力が増えたお陰で、私はアリスデルの背に乗って移動できる。楽ちんだ」
「あら。天下のセリカ・ヴォルフォードが、そんなズボラなことを人前で言っていいんですかぁ?」
アリスデルがニタリと笑う。
「いいんだよ。私は舐められるのが嫌いだが、神聖視されたいのでもない。長い時間を一緒に過ごす人には、こういう私を知っておいて欲しい」
「ちぇ。素のマスターは、私だけのマスターでいて欲しいのに……」
「贅沢を言うな。ほら、屋敷の外に出るぞ」
セリカはアリスデルの背中を押して、先に出たブリジットを追いかける。
ブリジットは乗ってきたシャトルで上昇していく。宇宙まで行かず、途中で滑空して目的地に向かうのだ。
一方、セリカとアリスデルがここに降りるのに使ったシャトルは、とっくに宇宙ステーションに戻っている。今から呼び出してもいいが、それよりアリスデルを頼ったほうが早い。
「へーんしん!」
アリスデルが間延びした口調で言うと、彼女の体が光に包まれた。
次の瞬間メイドの姿はどこにもなく、代わりに屋敷の庭に白いドラゴンが出現した。
頭から尻尾の先まで十メートルはあろうかという巨体。
四本の足で地面を踏みしめ翼を広げる姿は、正体がアリスデルだと知っていても迫力があった。
「こ、これは何事ですか!? アリスデルさんが、ドラゴンに……!」
「ああ、モーリスは知らないんだな。こいつは人間じゃない。こっちが本当の姿だ」
「あんまり怖がらないでくださーい。悲しくて泣いちゃいますよー」
体が大きくなっても、その声はアリスデルのままだ。
それでもモーリスはドラゴンを見上げたまま固まっている。
そんな家令を放置して、セリカは風魔法を操り浮遊。ドラゴンの背に跨がった。
「それでは出発します。快適な空の旅をどうぞ!」
アリスデルは羽ばたき、一気に雲の上まで上昇した。
これほどの巨体が、翼の力だけで飛べるわけがない。まして今のは、最終的に音速を超えていた。それを可能にしたのは、魔法による重力制御である。
お陰で完全にではないにせよ、セリカにかかる強烈な慣性が軽減されている。携帯端末を操作する程度の余裕はあった。
セリカは方角を指示し、指定された場所に向かわせる。
途中、イグナイトの社員たちがゴブリンの群れを焼き払っているのを目撃した。
「おや、あれはブリジットだな」
「ほほう、盛大ですねぇ」
百メートル近い高さの火柱。
まるで噴火でも始まったかという迫力だ。感じる魔力の気配はブリジットに間違いない。在学中より確実に成長している。教え子が修行をサボっていなかったのを確認できて、セリカは嬉しかった。
「私たちの担当はあの山の麓だ」
「なるほど。洞窟の周りにゴブリンがウヨウヨしていますね。私のブレスで消滅させちゃいましょう」
「こらこら。ここまで気持ちよく飛んできた上に、ゴブリン退治までやるつもりか? それは強欲だろう。私にも仕事をさせろ」
「仕方ないですねぇ。ではマスターに譲って差し上げましょう」
「偉そうに。さて、ゴブリンども、私の領主就任記念だ。慈悲深く、恐怖を感じる間もなくオーバーキルしてやろう」
セリカは巻き込まぬよう人間の気配がないのを確かめてから、右腕を天に突き出す。
その上空に直径五十メートルを超える、巨大な魔法陣が広がった。
魔法陣から光線が伸びる。何本も。何千本も。
それらは山の麓に降り注ぎ、瞬く間にゴブリンの群れを消滅させ、次に洞窟を消滅させる。真っ白な光が世界を包んでいく。それが晴れたあと、地形が変わっていた。
なだらかだった山の斜面は穴だらけで、まるで流星群が落ちてきたかのようだ。近くにあった池は蒸発し、森が抉れている。
それを目撃したイグナイトの社員はのちに語る。「あれは人間に出せる規模の魔法陣じゃない」と。
近隣に住む領民たちは語る。「世界が終わるかと思った」と。
「討伐完了。帰還するぞ、アリスデル」
「あいあいさー」
セリカもアリスデルも平然としている。
この程度の魔法、本気には程遠いのだ。
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