第3話 実家に帰ることにした
どこからかの勧誘の電話かと思ったが、端末に登録されている番号だ。
それはセリカの実家、ヴォルフォード男爵領からだった。
長いこと帰っていないので、いい加減に顔を見せろと父親が痺れを切らしたのかもしれない。
仕事を失って暇だし、故郷の星に行くのもいいだろう、と軽い気持ちで電話に出た。
ところが電話の相手は父親ではなく、聞き覚えのない男の声だった。
彼はモーリスと名乗る。ヴォルフォード男爵家の家令として、領地運営を執り行っているらしい。
「セリカ様。大変申し上げにくいのですが……フレッド様とハドリー様がお亡くなりになりました」
「な、に?」
フレッドはセリカの父親。ハドリーは兄だ。
母親はセリカを産んですぐに死んでいるので、二人はセリカに残された最後の血縁者だった。
「お二人が乗っていた宇宙クルーザーが爆発いたしまして……その、私がいながら事故を防げず、本当に申し訳ありません……」
「いや……お前のミスで事故が起きたのではないのだろう? ならば謝る必要はない。それにしても……父上は昔から宇宙クルーザーを飛ばすのが趣味だったが、まさか兄上と一緒に死んでしまうとは……爆発の原因は?」
「まだ調査中です……宇宙クルーザーの損傷が激しく、破片の回収すらままならない状況でして」
「そうなると、遺体の回収も絶望的だな」
「なんと言ってよいのやら……二人とも、聡明なお方でした。実に惜しい方々を亡くしました……」
二人が聡明だったかどうかは意見が分かれるが、セリカとて肉親を失えば、それ相応に悲しみを覚える。
特に仲がよかったわけではないが、嫌っていたのでもない。
セリカは大きく息を吐き、三秒ほど目を閉じた。
「しかしセリカ様。領地に関しては心配無用です。今まで領地運営の大半は、このモーリスが行っていました。安心してお任せください。セリカ様はこれまで同様、エルトミラ学園の教師としての役目を果たしてください。きっと天国のフレッド様とハドリー様も、それを望むでしょう」
「まあ待て。とにかく一度、そちらに帰る。細かい話はそれからだ」
「お、お帰りになられるのですか!? ですが、セリカ様はお忙しいのでは……」
「お前、私をなんだと思っている? 救いがたいワーカホリックか? 親と兄弟を亡くしたら、葬儀に出るのが当然だ。それに忙しくはないよ。エルトミラ学園は辞めた」
「学園を辞めた!? するとサイラス殿下との婚約は……」
「もちろん破棄だ。サイラス殿下は私を捨てて、若い女に乗り換えた。そのうち公式発表があるだろう」
「そ、そんな……! 殿下との婚約を破棄……」
モーリスはやけに狼狽していた。
無理もない。
当事者なのに平然としているセリカがおかしいのだ。
「とにかく、そういうことだ。続きは直接会って話そう」
セリカは電話を切り、背もたれに体重を預けた。
するとアリスデルが隣に来て、手を握ってくれた。
「大変なことになりましたね……」
「ああ。それにしても、父上と兄上のことなんて滅多に思い出さないのに、こうして死んだと聞くと、それなりにショックなものだ」
ふとセリカは、幼少の記憶を思い出す。
父の操縦する宇宙クルーザーが人工衛星を猛スピードでかすめ、震え上がった思い出。
兄がセリカの皿に自分のピーマンを全て移し、抗議したら強引に口に突っ込まれた思い出。
ろくな記憶ではないのでショックが和らいできた。
「新しいメールが増えてきたな」
学園の生徒たちからだった。
セリカが辞めるなら、自分たちも自主退学して行動を共にする、と過激なことが書いてある。
「本当に慕われてるんですね、マスター」
「それはありがたいが、私のせいで退学されては困る」
セリカは生徒たちを説得した。
今の状態でついてこられるよりも、ちゃんと学園を卒業し、社会に出て経験を積み、なにかの技術や地位を得てくれたほうがセリカの役に立つこと。
またセリカは貴族であり、実家に帰れば食うに困らない程度の財産があるはずだから心配しなくていいとメールを返す。
そして借りていた家を引き払い、何十年か振りに故郷の星へと出発した。
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