第4-15話 姉妹と魔術師
「ロルモッド魔術学校の人が来るって話は聞いてたんだけど、まさかイグニたちだとは思わなかったよ」
「俺もまさかユーリがここにいるなんて思わなかった」
3人で机を囲みながら、ロルモッド魔術学校の生徒たちが語り合う。
エラは食事の準備だ。
「ここがボクの村なんだよ」
ユーリはそう言って照れくさそうに笑った。
「ユーリは
エリーナは初めて知ったのか少し驚きながら言う。そういえば、この2人は出身の話をしていないからエリーナはユーリの出身について知らないのか。
「うん。そういえばエリーナさんにはまだ言ってなかったね」
「しかしユーリがここに居るなら話は早い。鉱山について詳しいことを聞いていないか?」
尋ねたのはイグニ。
今回イグニたちが、この辺境までやってきたのはセッタから依頼されたクエストだからである。友人話に花を咲かせるのも良いが、まずは
「うーん。ボクがどこまで知ってるか分からないから、とりあえず分かってることだけ話すよ」
「頼む」
「まず、今回の事件が発生したのは1か月前。鉱山で働いていた1人の頭が潰された状態で見つかったんだ」
「……頭が」
「うん。でも、最初は事故だって思われたんだよ。落石、とかね」
「なるほど」
「でも違ったんだ。当時、そこにいた冒険者が見たところ潰された頭は、明らかに何者かの手によって潰されたんだよ」
「手?」
イグニが聞き返す。
ユーリはこくりと頷いた。
「うん。手だよ。こう、ぐちゃっと」
こう、と言いながらユーリは手で何かを握り締めるような仕草を取る。
エリーナがそれを見て嫌そうな顔をしていたのが特徴的だった。
「それで冒険者たちが鉱山の探索を行ったんだけど『霊視石』に反応は無いし、他のめぼしいモンスターも見つけられない……。だから、また鉱山を動かしたんだけどね。それから、しばらくしたころかな。また死体が見つかってね」
「ふむ」
「今度は何者かに、潰された圧死体だったそうだよ。流石にこのまま放置はできないと思ったんだろうね。冒険者たちは原因を見つけるまで、徹底的に鉱山内を探索した。それで、2人を残して全滅した」
「……その2人ってのが“
イグニが吐き出した言葉にユーリが頷いた。
エリーナもセッタから名前だけは聞いていたのか、『なるほど……』と納得の行った顔をしていた。
「それで、イグニたちが来た。分かってるのはこれだけだよ」
「ふーむ。なるほど」
イグニは席に深く腰を掛けて考える。
「そのモンスターについての情報は無いか? 聞いたことでも良いんだけど」
「それなら、ボクよりも彼女たちに聞いた方が良いんじゃないか?」
「彼女たち?」
「うん。“
「あぁ……」
イグニは全てを吐き出すように言葉を紡いだ。
現に戦った相手がいるのだから、確かにその張本人に聞くのが一番だ。
「それで、“
「鉱山の近くの小屋に泊まってるよ。今日はもう遅いから明日にしよう」
「そっか。なら、そうしよう」
ということで、その日のうちに話をすることを諦めたイグニは、雑談することにした。
「そういえばユーリ。どうして女の子の格好してるんだ?」
「ん……っとね。いろいろあってさ」
ユーリが言いづらそうにしたので、イグニはその話題を切り上げることにした。どうにも趣味というわけではなさそうだし。
「そ、そうか。そうだ。ユーリは今回の件に参加するのか? 鉱山のモンスター討伐」
「ううん。ボクはやめておくよ。足を引っ張るだけだろうし」
「そうか? ユーリの補助魔法は優秀だと思うが」
そう言ったのはエリーナ。
「ううん。あんなに狭い場所だと、ボクの魔術も邪魔になるだけだよ」
そう言うユーリは少し悲しそうに見えた。
――――――――――――
「イグニ。朝だよ。起きて」
「……ん。あれ、もう朝?」
と、いつもの様にユーリに起こされたので、イグニは今いる場所がロルモッド魔術学校の寮かと勘違いした。
「あれ……。今日は男の服着てるんだな」
「うん。順番だからね」
「順番……?」
はて、何の話だろうかとイグニは首を傾げる。
「イグニ! 朝ごはんをエラが作ってくれたぞ!!」
食卓の方からエリーナの声が聞こえてきたので、イグニは身体を起こして服をささっと着替える。ユーリに出してもらった水で顔を洗うと、半分眠っていた脳を覚醒させて食卓に向かった。
そこで朝食を食べると、3人で鉱山に向かう。
正確には鉱山の近くにある小屋、なのだが。
「ここか」
「うん。普段はもうちょっと人がいるんだけどね」
確かに鉱山の周りには多くの建物が建っており、道もかなり整備されていた。だが、建物の多さと道の整い具合に比べて人がほとんどいない。
「今は鉱山を休ませてるんだよ。問題が解決するまで、鉱山の中にいたら危ないからね」
「だからこんなに静かなのか」
「うん。あ、見えてきたよ」
ユーリがそう言って指さしたのは、確かに鉱山の入り口近くにある木で出来た小屋だった。
「今日はまだいると思うけど」
そう言ってユーリが扉をノック。
「どうぞ~」
部屋の奥から聞こえて来たのは、イグニにとっても聞き覚えのある声。これは姉の方だな……と、記憶を探りながらイグニは答えを導きだす。
「入るね」
と、
「お久しぶりです。ユーリさん。後ろのお二方が増援ですね。よろしくお願い……あれ? どこかで会ったことが?」
妹の方が丁寧に頭を下げようとしたときにイグニを見てから静止する。
「妹ちゃん! あれだよ!! 公国のときの!!」
「ああっ! 思い出しました! 変態みたいな『ファイアボール』使う人!!」
変態って……。それはじいちゃんだろ、とイグニは心の中でつっこんだ。
自分を棚に上げるのはイグニの悪い癖である。
そして、変態の意味を勘違いしたままイグニは返事をした。
「変態みたいなは失礼だな。俺は『
と、イグニはどや顔。
「え、何ですかそれ……」
「初めて聞いた! かっこいいね! 私は“姉”のラニア! よろしく!!」
バン! と、前に出てきてイグニに握手を求めるラニア。
(悪い人じゃないのかもな)
と、一瞬で心が動くイグニ。チョロい男である。
「わ、私は妹のニエです」
「2人合わせて」
「「“
ばーん!!
と、呼吸をぴったり合わせて自己紹介が終わる。
「ね、姉さま。これは毎回やらなきゃダメなんですか……?」
と、小声でニエが尋ねる。
「じゃないと名前覚えてもらえないよ!!」
それに元気に返している姉がなんとも対照的であった。
ちなみにだが、初めて2人を見るエリーナは「何これ……」という顔でイグニと姉妹を何度も繰り返しながら見ていた。
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