13 嘘つき

 嘘をつかない人は、嘘つきの目には、

あまりに無防備に見える。

 嘘つきは、みんなもおんなじように、嘘をつくものだと思っているので、ときどき、嘘をつかない人の涙や怒りに心底驚く。

 でも嘘つきは、涙や怒りもうまく呼び起こすことができるので、まあもしかしたら、俺も騙されているのだろうかとぼんやり思う。

 嘘つきは、よく、嘘をつかない人は、清潔だから嘘をつかないのか、それとも、たまたま嘘をつかずに済んだ人なのか、と考える。

 嘘つきは、人を信じたことがない。

 人を騙すことは簡単だと知っているから、嘘つきは人を信じない。

 簡単に人を信じる人は、嘘つきの目には、あまりに無防備に見える。

 その無防備さは、ときどき嘘つきの心を半分打って、もう半分の心は、なるほどこうやるのかと眺めている。

 心を打つ無防備さも、嘘ではないことにはならない。

 嘘つきの目には、

 あるときには世界じゅうの誰もが無防備に見え、あるときには世界でいちばん自分が無防備のようにも見えた。

 嘘つきはときどき騙されそうになる自分を恥じていた。べつのときには、信じきれない自分を恥じた。

 嘘つきは、世界がおそろしい。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る