第24話
それからマリアが指差した方向に進むこと30分。
「これかな?」
目の前に現れたのは禍々しいオーラを放った巨大なお城。どうみても魔王城だ。
「そうですね。ここに強い魔力を感じますね」
「じゃあ本当にそうだね。どうやって入る?」
「裏から城を破壊して入りましょう」
提案したのはリシュリュー。いかにも忍者っぽい案である。
「破壊したら敵が大量に集まってこない?」
が、魔王城の素材は肉眼で確認した限りだと何かしらの金属。恐らくこの世界でも相当に硬い何かだと思われる。
そんなものを破壊したら爆弾並みの騒音が響き渡ると思うんですが。
「それは殴り飛ばそうとしているからです。もう少し考えてください」
「どうするつもりなの?」
殴り飛ばす以外に開け方を思いつかないんだけど。
「その剣はお飾りですか。切断するんですよ」
「あっ」
その手があったか。完全に頭から外れていたよ。
「早くお願いします」
「うん。じゃあ三人共ちょっと離れておいて」
「うん」「分かりました」「はい」
「はっ!」
俺はそこそこの力を込めて剣を振るった。
すると、
パキンという音と共に剣が粉々になった。
「えっと、リシュリューさん……」
斬れって言いましたよね?傷一つ入っていない上に剣無くなりましたよ?
「もしかしてなんですけど、剣に魔力を込めていらっしゃらないんですか?」
俺がリシュリューに疑惑の目を向けていると、マリアが恐る恐る聞いてきた。
「どういうこと?」
剣に魔力って何?剣なんだからただ愚直に振り下ろすだけでしょ?
「普通剣士の方々は自身の魔力を剣に込めて強度や切れ味を上げたり、属性を付与して攻撃力を上げたりしているんですよ」
「そうなの?」
何それ。初めて聞いたんですけど。
「エリック、まさか知らなかったの?」
すると師匠が信じられないものを見る目でそう聞いてきた。
「うん。知らなかった」
ここで誤魔化してもどうにもならないので正直に答えた。
そもそもそんなカッコいい技を知っているならガンガン使っているんですよ。
「……まあエリック様はINTが限りなく低いですし、使えなかったとしてもおかしくはないのかもしれません」
「ですね」
「だね」
リシュリューの言葉に納得するマリアと師匠。嘘でしょ。
「えっと、魔法が使えないINTってことですよね?まさか俺が馬鹿ってことではないですよね?」
後者だったら泣くよ。涙目とかじゃなくて地面に寝転がって駄々をこねる赤子のように泣くからね?見苦しい様を10数分くらい見せつけるよ?
「壁を斬るという手段が使えなくなったので、やはり騒音覚悟で破壊するしかありませんね」
「スルーはやめてくれない?」
これ今後に関わる結構大事な話だからね。
「本当に聞きたいんですか?」
リシュリューは俺に覚悟を迫るかのように聞いてきた。
「やめときます」
なんか聞くのが怖くなった。多分前者だとは思うけど、そうじゃなかった時が怖いです。
「というわけで壁を破壊してください。出来る限り音を立てないようにお願いします」
そして再び壁の破壊をすることに。
「音を立てないようにって言われてもなあ……」
出来ることって全力パンチくらいしかないしなあ。
手加減して殴る?
いや、それでも結局破壊するのに十分な威力が必要だからうるさいと思う。
ってことは全力でもそうでなくてもあんまり変わらないよね。
じゃあ殴り方を工夫する?貫手とか。
ってそれじゃん!穴開けるだけだから破壊しないじゃん!
「じゃあ行きます」
俺は手の指をまっすぐ伸ばし、扉に向かって連続で突き刺す。
「あっ」
良い発想だと思ったのだけれど、工事現場のドリル並の音が鳴った。
「もうどうにでもなれ!!」
音が出てしまったのだから仕方がない。とりあえず高速でこじ開けることに注力した。
「じゃあ集まってくる前に急いで中に入るよ!」
それから10秒足らずで壁をくり抜き、中に入った。
「いたぞ!人間だ!!」
すると早速両側から魔族達が集まってきており、俺たちを見つけるなり迷いなく魔法で攻撃してきた。
「危ない!」
俺は皆の前に立ち、飛んできた魔法を防御する。魔王城に居る魔族とは言っても四天王や幹部レベルではないからかダメージは無い。
「私達で右側を相手しますので、エリック様は左側をお願いします!」
「分かった!」
俺はマリアの言葉を信じ、左側に居る敵を倒すことに集中する。
左側の敵は50人程。圧倒的な物量だが、相手の攻撃は大したことが無い上、狭い通路だから纏めて吹き飛ばせる。
というわけで、
「ふんっ!!」
俺は正面から突っ込み、一番前に居る魔族の腹を全力でぶん殴る。
すると、その魔族の後ろにいた魔族を巻き込み、凄い勢いで吹き飛んでいった。
「ひいっ!なんだお前!」
「ダイエット中の貴族です!」
俺は巻き添えを食わなかった魔族をぶん殴り、それぞれ同じように吹き飛ばした。
「皆大丈夫!?」
こちらが終わったので、戦っている3人の方に加勢しようと後ろを見ると、
「お疲れ様ですエリック様!」
「こっちも終わったよ!」
「大したことはありませんでしたね」
倒された魔族が山のように積みあがっていた。
「なんで!?」
俺と同じ速度で魔族を片付けられるくらい強かったっけ?数は同じだったよね!?
「私達、思ったより強くなっていたみたい。このくらいの魔族なら簡単だったよ」
と語るのはダチョウ位の強さしかないオオトベンバードすら倒せなかった筈の師匠。
「フェンリル100匹は相当大きかったみたいです」
なるほど。あのフェンリル単体でもかなり強かったらしいしね。そんなのを100匹も倒したら魔王城に居る魔族でも倒せるようになっておかしくないのか。
「そうなんだ。頼りになるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ行こうか。多分上に行く階段はこっちにあると思う」
「そうなんだ。じゃあそっちに行こう」
戦っている間に師匠が道を探してくれていたらしい。
「付いてきて!」
俺たちは師匠の案内に従って魔王城内を進む。
「はっ!」
「えいっ!」
道中も大量の魔族に遭遇したものの、前を走る師匠と遠距離攻撃が出来るマリアが全て片付けてくれていた。
そして2階3階と進み、
「ここが魔王の間だね」
目的地に辿り着いた。ただ、
「四天王とか幹部はどこに行ったの?」
今まで一度も四天王とか幹部みたいな高位の方々に遭遇していなかった。
「恐らく全員この部屋に居ます」
「え?」
流石にそれは不味くない?つまり10人以上居るってことでしょ?
いくら俺が強くても相手は魔王だよ?基本的に4対1、最悪でも1対1で頑張って倒すような敵だからね?
こっちの方が少ないのは不味くない?
「エリック様の強さがあれば問題ないでしょう」
「ほら、リシュリューさんも言っているんだからさっさと行くよ!」
「そんな簡単な問題!?」
と軽く抗議をしている間に師匠が扉を開けてしまった。せめて5分くらい心の準備をさせてよ!!!
開けてしまった以上は引き返せないのでそのまま中に入る。
扉の先は、ただただ広い部屋に玉座が一つ。そこに魔族が1人座っており、その前に20人程の魔族が立っている。
「よく来たな、人間よ。どうやら勇者とやらではないようだな」
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