第21話

「では、中に入って敵の殲滅をしましょう……」


 着替えたことで露骨にがっかりしたマリアがそう促した。そんなに良いものじゃないでしょ。


「そうですね」


 そして俺たちは洞窟の中に入る。


「光を灯しますね」


 人が5年も使っていない鉱山なので当然中は真っ暗。というわけでマリアが魔法で光を灯した。便利ですね魔法って。俺も使いたいです。




「……いませんね」


「そうだね」


 それから歩くこと20分。フェンリルどころかコウモリ一匹すら出くわすことなく最深部に辿り着いた。


「あれだけだったんだね」


 一回の遠吠えで全員が来ちゃっていたんですね。まあ100匹は結構な量だったもんね。


「ねえ、エリック」


「うん。これじゃあ無理かな」


 あと1000匹位いればワンチャンあったけど、あの程度では痩せられるわけが無い。


 結果的に何もダイエット結果を得られずの帰宅となった。


 ちなみに今日のフェンリル掃討と昨日のソードドラゴン討伐のお陰で冒険者ランクがSになったらしいです。


 ちょろすぎませんかね。



 翌日、冒険者ギルドにて。


「まあなんとなくそんな気はしていたよ。ただ冒険者をやるだけじゃリックにとって大した運動にならないってこと」


「え?」


「だって幹部倒した時、全く体が疲れてなかったしね」


「じゃあどうしてこんなことを?」


 ダイエット効果が無いのならわざわざ遠出する必要って……


「凄く申し訳ない話なんだけど、私とマリア様のレベル上げの為だね」


「レベル上げ?」


「うん。私は当然弱いし、マリア様もマリア様で魔法使いとしては優秀だけどやっぱりお若いからね。強敵の範囲攻撃を食らったら一瞬でお陀仏だよ」


「確かにそうかも」


「だけど、昨日のフェンリル討伐で異常な数討伐したからね。一発の範囲攻撃で死なない程度には強くなったと思う」


「確かにそうですね。私とリザ様はレベルだけで言えばこの国でトップクラスに入りましたし」


「そうなの?」


 100匹しか倒してないよ?いくら強いって言ったって……


「流石に最上級ドラゴンに匹敵する魔獣を100匹も倒しましたから。小さな国であれば英雄ともてはやされてもおかしくありませんよ?」


 とリシュリューが事の凄さをドラゴンで説明してくれた。確かに最上級ドラゴンなら超偉業ですね。ただなんでそんなのが鉱山に100匹もたむろっていたんですかね。だったらもう少し少なくあれ。


 そして気になる事が1つ出来た。


「あれリシュリューも余裕で倒しまくっていたよね?なんならアンジェだって最後らへんになったら何体か……」


「メイドの嗜みですよ」


「魔法は得意ですので」


「ええ……」


 この人たちおかしくないかな?チート無しですよ?


「師匠……」


 最後の希望を残して師匠を見る。


「私はそこまでじゃないけど、ソードドラゴンなら倒せると思うよ」


「駄目だこりゃ……」


 メイドならともかく、美人な所以外一般的な町娘がドラゴンを倒す世界があってたまるか。



「とりあえず本題に戻るよ。私達が次に倒すべき相手は……これだよ」


 師匠は受付から依頼書を直接貰って戻ってきた。


「……正気で言ってる?」


「うん。こうでもしなきゃ痩せないでしょ?」


 依頼主は国。そして目的地は海を跨いだその先。


 そんな大変な移動を経てまで戦う相手は、魔王であった。


「ダイエットのために魔王を倒しに行くって魔王の事を何だと思っているのさ」


 魔王ってのはさ、しっかりと武器のトレーニングを積み、大量のモンスターと戦って強くなってから万を持して挑む超重大イベントなんですよ。


 そんな隣町にドライブに行こうぜみたいなノリで戦うものじゃないんですよ。


「そこそこ強い運動相手」


 扱いが友達だよ。


「そっか……二人はどうかな?」


 師匠がこんなことをのたまっているが、ちゃんとこの世界で最強と名高い相手である。


 流石に付いてこれないよね……


「問題ありません」


「どれだけ強い相手でもリック様が守ってくださるのであればどこへでも」


「良いんだ……」


 俺に対する信頼度高すぎませんかね。いくら強いって言っても相手は魔王ですよ?


「でもどうやって行くのですか?魔王城のある大陸に船を出してくれる方なんていませんよ?」


「えっと、そこはリックが海を走ってくれれば……」


「師匠、何を言ってるのかな?」


 海を走るなんて人間には無理だよ?常識の範囲内で話をしてくれるかな?


「出来ないんですか?」


 リシュリューさん、そんな当然出来ると思っていましたみたいな顔をしないでくれるかな。出来ないから。


「流石に海を走ることが出来るかは怪しいですが、やるだけやってみましょうよ。どうせ濡れるだけですし。冒険者をやるための時間はまだまだ沢山ありますから」


 今回はマリアが一番常識的だった。うん、そうだよね。人が海を走るなんてね……


「では海に早速行きましょう!」


 ただ、一番海に行きたがっているのはマリアだった。



「さあ!どうでしょうか!」


 そして海にやってきたマリアは目にも止まらぬ早着替えで水着になった。


「何で準備しているのさ」


「冒険者は様々な場所を巡り巡る者。だからあらゆる状況を想定して準備しておくべきと本に書いてありましたので」


「でも水着は要らないよね?」


「必要に決まっているじゃないですか!あっ、もしかして普通の服が濡れて透ける様がお好みでしたか……?」


「エリック、流石にそれは悪趣味じゃないかな……」


「失望しました。そんな変態だとは……」


 マリアの意味不明な回答に呆れていると、それを後押しする発言が背後から飛んできた。


「違うよ!そもそも濡れないでしょ皆は!」


 と否定しつつ振り返ると、2人まで水着姿になっていた。


 どうやら俺とマリアが話している隙に俺の背後で着替えていたらしい。


 水着を持っていない方が少数派なのかよ……


「で、感想はいかがでしょうか?」


「感想?」


「水着の感想ですよ。当然じゃないですか」


「ああ、そう……」


 冒険しに来た筈なのに何故か水着を持っているという謎状況に驚いていて気にしてなかったよ。

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