第20話
「えっと、読むね。ドラン鉱山に住み着いたフェンリル掃討……ねえリシュリューさん、何でこんなの持ってきたの?」
依頼書を読んだ師匠が呆れたような口調でリシュリューを問い詰めていた。
「エリック様なら丁度良いかと思いまして」
「いくらエリックが強くても体は一つなんだからね?限度を考えようか。これ多分50人単位でやらないといけないやつだよ?」
「ねえ二人とも、どういうこと?」
「ドラン鉱山に居るフェンリルってのは昨日倒したソードドラゴンの10倍で収まらないレベルで強くて、それが100匹以上いるって話なんだ」
「フェンリルってあの狼みたいな奴?」
日本でたまに見る聖獣みたいな扱いをされるアレかな?
「うん。サイズも強さも全然違うけどね」
「それをどうして倒さないといけないの?」
基本的にフェンリルって正義の味方みたいな印象があるんだけど。
「そりゃあ危ないからだよ。魔獣なんだから人を見たら襲ってくるんだし」
「そっか」
この世界のフェンリルはちょっと違うっぽい。
「で、とにかく私は反対だよ。一対一なら勝てると思うけど、その数を相手するのは流石に無茶だよ」
「そうですかね?どう思います?」
「って言われてもよく分からないんだよね……」
ソードドラゴンの10倍以上強いって言ってもソードドラゴン自体が大したことなかったし……
「エリックが分からないって言っているのに行くのはちょっと……」
「まあやれるだけやってみませんか?いざという時は私の転移魔法でここまで戻って来れますし」
師匠が渋っている中、マリアがそんな提案をしてきた。
「転移魔法?」
「はい。パーティの時にも見せたアレですよ」
「そんな長距離の移動って出来るものなの?」
「勿論です。ただ帰る場所に魔法陣を設置しておかないといけませんけどね」
魔法って便利だなあ。事前準備が必要と言っても一瞬で帰れるなんて……
「じゃあお願いしても良い?」
「分かりました。では早速ドラン鉱山に行きましょうか」
「準備は?」
「昨日使わなかったので要りませんよ」
「え?」
「魔法で帰れますよと言いましたが、エリック様が聞く耳を持ってくれませんでしたので……」
「……とりあえず行こうか」
昨日の事は何も無かった。良いね?
行きに関しては転移魔法が使えないらしいので今まで通り俺が無心で運んだ。
「ここがドラン鉱山……」
鉱山と言っても最後に採掘で使われたのは相当昔なのか、人工物の大半は壊れているか錆びて使い物にならなくなっていた。
詳しく聞いていなかったが、この鉱山が使えなくなったのはかなり前っぽい。
「たった5年でここまで酷くなるものなんですね……」
と思ったらマリアの感想に否定された。
「5年?」
「はい。結構大きなニュースになったではないですか」
「ああ、そうだったね」
5年前は転生していないので全く知らないが、とりあえずマリアに合わせておこう。ダイエットがバレても転生の方はバレると色々不味いのでね。
「この国でも割と新しい鉱山なのですが、一体何があったのでしょうか」
5年放置していれば金属が錆びてくること自体はおかしくないんだけど、一部が錆びる位で、この鉱山の鉄道みたいに隅から隅まで錆びている状態になることは普通あり得ない。
フェンリルがやったと考えるのが妥当だけど、フェンリルってそんなダークサイド寄りの能力使わないよね。
むしろ美しいとか神々しいとかが似合いますよね。
「早速おでましですね」
なんてことを考えていると、外敵の巡回をしていたらしい敵に遭遇した。
「あれがフェンリル?」
「はい」
状況証拠的にもリシュリューの判断的にも確実にフェンリルなのだが、目の前に居るのがフェンリルにはどうしても見えないんだけど。
『アオオオオオオン!!!』
頭が一つなだけでケルベロスみたいなんですけど。神々しいというよりは禍々しいよアレ。絶対地獄だったら門番やっているよ。頭一つだけど。
しかもさっきの雄叫びのせいでわらわら湧いてきたし。威厳皆無だよもう。100匹はやりすぎです。
「とりあえず片付けていくね」
「はい!」「うん!」「お手伝いします」
マリアと師匠は俺の後ろに立ち、リシュリューは俺の横に立ち、臨戦態勢になる。
「じゃあ行こうか!」
俺は剣を構え、フェンリルの群れの中央に突っ込む。
『ガルルァ……』
フェンリルは様子見の為か一瞬だけ距離を取り、その後俺に向かって突っ込んできた。
すばしっこそうなイメージがあったから寧ろありがたい。
俺は剣を構え、腰を低くして攻撃に備えた。
「……今だね」
ギリギリまで引き付けてから、横薙ぎに剣を振るう。
「あ」
思いっきり失敗した。
ギリギリまで引き付けてから横薙ぎ一閃で殲滅って最高にカッコいいじゃんってノリでやってみたけど半分位しか倒せなかった。
そりゃそうじゃん。人と違ってフェンリルは縦に大きくないし飛ぶんだから。
あれは飛ばないし身長が丁度いい人間相手だから出来るわけで、四足歩行の生物でやることではないわ。しかも360度って。せめて刀でやれよ俺。
その結果、
「エリック!?」
「エリック様!?大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫」
当たりすらしなかった半分である5頭のフェンリルにしっかりと噛みつかれた。
まあ痛くないんだけど。正直チート無しで犬の甘噛みを受けた方が痛いと思う。
「よっと」
俺は冷静にフェンリルの頭を丁寧に叩いて倒した。
別に大したことは無さそう。ただ、
「服が……」
この肉体がいくら丈夫とは言っても服は丈夫では無いので噛まれた部分が綺麗に引きちぎられていた。
そしてその周囲はフェンリルのよだれで汚れている。
……よだれという液体まみれで服がボロボロの140kgのデブ男。
痩せればイケメンだけど今の俺に需要なんて無いんですよ。
「エリック様!!!!!!!!」
「やめて」
いたわ。あのマリアさんが。目をキラキラさせてこちらを見ている。恥ずかしいので見ないでください。そう、師匠みたいに顔を逸らすか、リシュリューみたいに完全にスルーして。嫌な物からは目を背けるんだ。
しかし見るのを辞めてくれないマリアさん。知っていたよ。
「さっさと倒さないと……」
カッコつけずただひたすら敵に接近し、切る。それを繰り返すこと10数分。
「終わり!」
とりあえず最初の遠吠えで寄ってきたフェンリルは全て倒した。
「そうですね。ただそれよりも先に着替えてください」
「ありがとう」
リシュリューは背後から服を差し出してきた。俺の服結構大きいのにどこにしまっていたんだろうか。
ただそれよりも着替えの方が今は重要だったので急いで茂みに逃げて着替えた。
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