第17話
そして翌朝。
「じゃあ冒険者ギルドに行こうか」
「そうだね」
当初の予定通り、痩せられそうなレベルの強さのモンスターの情報を得つつ金を稼ぐために冒険者ギルドへ。
「ここが冒険者ギルド?」
冒険者ギルドとしての受付や、依頼を見る為の掲示板等、一般的にイメージされる冒険者ギルドそのものみたいな設備はしっかりと存在する。
しかし、建物内の7割くらいの面積を酒場が占めていた。流石食べ物に関連する職に就いている人の割合が7割を超える街だ。意味が分からない。
「多分そうだと思う。受付って書いてあるし」
師匠も流石にこんな状態だとは知らなかったらしく、若干苦笑いである。
リシュリュー以外の3人は冒険者として登録していない為、とりあえず受付の元へ。
「すいません」
「はい、注文でしょうか?注文でしたらあちらの方で承っておりますよ」
俺の声に気付き、やってきた受付嬢は一切の躊躇いもなくそう言い切った。
「違います。冒険者登録です」
いくら俺が太っているからといって食事に来た人だと断定しないでくれ。
そういう所から差別が始まっていくって俺は思うんだ。良くないと思う。
まあ俺が受付嬢の立場でも同じこと言うけど。
「あっ、失礼しました。登録は4名様で間違いないでしょうか?」
「いえ、こちらのリシュリューだけは登録済ですので3人です」
「そうですか、3名様のご登録ですね。それではこの用紙に必要事項をお書きください」
「はい」
一応公的な用紙だが、必要事項はたったの3つ。
それは名前、主な攻撃手段、そして好きな食べ物だ。
名前はこの街に入る際に使ったリック。主な攻撃手段は剣。
そして好きな食べ物は当然二郎系ラーメン。
最後のは確実に要らないと思うが、単に空欄が大きすぎて寂しかったから置かれていたのだろう。やたら欄が大きいし。
「じゃあお願いします」
3人共書き終わったので、そのまま受付嬢に提出する。
「承りました。えっと、二郎系ラーメンとは何でしょうか?」
受付嬢が内容を確認していると、二郎系ラーメンが目に入ったらしく、どんなものか質問してきた。
「世界一美味しい食べ物です」
「そうですか。ありがとうございます」
ちょっと反応薄くない……?世界一美味しいんですけど?じゃあ何で聞いたんですか!?
「何故好きな食べ物が必要事項だったんですか?」
反応が薄いならせめてそこだけは聞き出しておかなければ。
「美味しそうな食べ物や、人気な食べ物はそこの酒場で提供するからですが」
「ちょっと待ってください。書き直します。ごめん、ちょっとだけ待ってて」
それならば話が違う。二郎系ラーメンをこの世界に布教できる素晴らしいチャンスではないか。是非とも酒場のメニューに導入させなければ。
俺は師匠達に軽く謝罪して、好きな食べ物欄に二郎系ラーメンの全てを詰め込めるだけ詰め込んだ。
「お願いします」
二郎系ラーメンの魅力を伝えきるにはこんな小さな欄じゃ足りないが、十分に魅力は伝わってくれるはず。
この世界で二郎系ラーメンを作る場合の材料や製法も事細かに記載してあるので、作れないということもない。後はギルド側の判断次第だ……
「あ、はい。ありがとうございます」
しかし俺の熱意は受付嬢に伝わることは無く、受付嬢に苦笑いされながら処理された。
そんな……
「エリックはその二郎系ラーメンって奴がそんなに好きなんだ」
俺が絶望に打ちひしがれている中、師匠が興味津々に聞いてきた。
「うん」
「ならリシュリューさんに作ってもらったら?作り方教えれば何でも作れるでしょ。ね、リシュリューさん?」
「まあそうですね。伝説の食材とか、毒を使えという話になれば別ですが、そうでないのであれば基本的にどんな食べ物でも作れますね」
「え!!!お願いします!!!」
この世界で、あの二郎系ラーメンを口にすることが出来る!?!?
俺は感謝の土下座をしそうになったが、昨日の土下座を思い出してギリギリで踏みとどまった。
「声が大きいです。実家に帰ったら食材を教えてください。作ってあげますから静かにしてください」
「分かりました」
俺は敬礼し、静かになった。
この世界の神様はどうやらリシュリュー様だったみたいだ……
「というわけで冒険者カードです」
そんな俺たちの会話を完全にスルーして登録を進めていた受付嬢が3枚のカードを渡してきた。
「何も書いていないんですが」
しかしそのカードには個人情報どころか文字1つ書かれておらず、何もない真っ白な板だった。
「『情報開示』と念じてみてください」
「はい」
『情報開示』
念じて何になるのだと思いつつも言われた通りに念じてみると、カードに文字が浮かび上がった。
冒険者ギルド ランクF
冒険者コード4895-5697-8574-3565
リック
何だろうこのクレジットカード感。金色のICチップが入っている所みたいな模様とか完璧にそれでしょ。狙ってるんですかね。
「見えましたか?」
「はい」
「それが皆さまの登録情報となります。そのカードは依頼の受注、依頼報酬の受け取りに必要ですので紛失なさらないようお願いします」
「分かりました」
「これで登録は以上となりますが、何か質問事項はございますか?」
「私たちの冒険者ランクはEですが、別にC級とかB級の依頼を受けても問題無いですよね?」
受付嬢に対して質問したのは師匠。すると受付嬢の表情が分かりやすく苦いものになった。
「ルール上は可能です。ですが我々としてはE級の依頼から受けていただくことを推奨しております」
言葉は優しいものだが、多分初心者は黙ってE級の依頼でも受けろとか思っている気がする。心なしか背中からオーラが出てるし。
「分かりました。じゃあこれを4人で受けますね」
そう言って師匠が掲示板から持ってきた依頼は『ソードドラゴンの討伐』。推奨ランクはAである。
「話を聞いていましたか?」
依頼を見た受付嬢のオーラは先程の数倍に増し、額には青筋が浮かんでいる。
「はい。聞いていたからこそのこれなんですけどね」
しかし師匠はそんなことは関係ないと言わんばかりに平常運転だった。
「そうですか。皆さんはこれで本当に良いんですか?」
師匠に話が通じないと思ったのか、俺たちの方に問いかけてきた。
「はい」
「勿論です」
しかし、マリアとリシュリューも即答である。
「……分かりました。冒険者カードをお貸しください」
「「「「はい」」」」
もう知らないと言わんばかりの呆れた表情で依頼を受理する受付嬢。
「少々お待ちを」
そう言って受付嬢は受付から離れ、奥の部屋に入っていった。
「ソードドラゴンとはどんな生き物なんでしょうか?」
受付嬢が去ったタイミングで師匠に質問するマリア。知らなかったのに即答したのかよ。
「分からない」
「じゃあなんで選んだの!?」
「強そうな名前だったから」
「ええ……」
もう少し真面目に選んでくれないかな。一応初めての依頼だよ?
「一応説明しますね。ソードドラゴンは羽がと尻尾が鋭利な刃になっているドラゴンのことです。他のドラゴンに比べてやや小柄ですが、動きが俊敏で刃の切れ味が高いため、ドラゴンの中でも上位に位置する強さを誇っています」
唯一知っていたリシュリューが説明してくれた。
「説明ありがとう。止められるのも納得だね」
ドラゴンの中でも上位って。下手したらこの間の魔族よりも強いんじゃないですかね。
「まあどんな相手でもリック様なら余裕でしょうし。気にするほどじゃありませんよ」
と盲目な信頼を寄せているマリアさん。あなたはもう少し気にしてくれませんか。貴族なんですよ。もっといのちだいじにでお願いします。
そしてそこの師匠も。そうだそうだみたいな顔で頷くんじゃないよ。
「受理が完了しました。それでは頑張ってください」
このパーティの未来を憂いていると、手続きが終わった受付嬢が戻ってきた。
「ありがとうございます」
冒険者カードを受け取りながら表情を伺うと、先程までの怒りが綺麗さっぱり消えていた。ちょっと怖い。
「じゃあ行きましょうか」
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