魔物に殺された俺が不死者《アンデッド》になった話

しろいろ。

第一節 迷宮脱出編

001.不死者《アンデッド》になりました。


俺は冒険者だ。迷宮探査を生業とする、死亡率No. 1の、低賃金の不遇職についていた男だ。これまでも何度か迷宮の探査に乗り出し、ある程度の技量は身につけたと思っていた。


だがもちろん、それは自惚れだった。こうして今、腹が空いて、且つ死にかけている俺は、今更ながら後悔していた。


「ああ……。」


俺が幼い頃に死んでしまった両親。その後は孤児院に押し込まれ、成人と共に追い出された。結果何も教養がないままこの職に就くことになったが、優しい人達に助けられて、護身用にと幾つかの魔法と、ある程度剣を使えるようになった。


それで調子に乗って、自分の実力でそこまでなら安全に行けると教えてもらった30層よりさらに下層の50層まで行ってしまったのが間違いだった。


30層だってギリギリだったのに、なぜ50層まで来てしまったのだろう。死にたくないと思っていた、当初の俺はどこへ行ったのだろう。


俺は1週間前、きっかり3週間分の食料を持って50層を目指すことにしていた。一日目は良かったのだ、一気に15層まで潜れたから。ただ、それで誤解してしまった訳だ、自分が強くなったんだと。


そして一週間後の今、俺の食糧はゼロ。魔物に襲われて、せっかく持ってきた食糧は、俺の右腕と共に消えた。そんな中、この50層の敵はかなり強敵だ。こんな敵がこの先50層も続くなんて信じられない。


「今から戻れば、命だけは助かるかな……?」


俺はこの迷路のようになっている50層で迷ってしまった。上層に上がることもできず、ここで死ぬのかもしれない。止血はしていても、空腹でだ。


「グルァ!」


さっき俺の右腕と食料を持っていった熊の魔物が現れてしまった。……俺の血だけではないのかもしれないが、血だらけだ。真っ赤で正直いつもより怖く感じる。


次の瞬間、俺は必死に走った。ほんの数刻前まであった右手の喪失感に耐えながら、隠れられる場所を探して、全力で走った。


だが、たかが人間、それも低ランクの冒険者如きが魔物を振り切れる速度を出せるわけがない。しかも怪我をしているのだから、なお無理だ。


「ガアアアアアアア!!」


せっかく教わった魔法も、俺の記憶からするりと抜け落ちていた。ギルドマスターからもらった剣は、既に熊の魔物に突き刺さっている。だが、全く効いていないのは一目でわかる。


「……。」


熊にしては異様に発達した爪で真っ二つ。


『⬛︎⬛︎⬛︎の死亡を確認。⬛︎⬛︎⬛︎の生命を変化させます。』


何か言ってるのか?でも誰だろう、声が呼んでいるのは……。


そして俺の意識は途絶えた。

















目が覚めた。


そこは、目を閉じる前と同じところだった。……あれ、死んでない?


一つの違和感。体の感覚がないということ。


「あれ……。なんで……。!」


右手は、何故かあった。だが、だが。


「腐ってる……。」


まるで不死者アンデッドのような風貌だ。でも、そこには腕なんて無かったはずなのに。


もしかして……。


俺は体を見た。……ところどころ、腐って骨が出ていた。


「え……。」


だが、痛みは何も感じない。この体はやはり、俺は不死者アンデッドになったのだろうか。


「ステータスは……。」


俺の現在の状態をしっかりと把握するには、ステータス画面を呼び出す必要がある。


「【能力開示ステータス】」


ヴォン、と音がして自分の状態を表す画面が現れる。……魔物アンデッドなのに、ステータス見れるんだな……。



名称: なし

種族: 低位不死者ライトアンデッド

レベル:1

能力スキル: 魂食ジール・プランドゥル

   相手を絶命させた時、その魂と一部の能力を手に入れることが出来る。

   魔力操作ウォーロック

   魔力を直接操ることが可能になる。

筋力: 100(スキル補正なし)

魔力: 200(スキル補正なし)

知力: 200(スキル補正なし)

防御: なし(スキル補正なし・特性補正あり)

敏捷: 200(スキル補正なし)

特性: 「不死者」

   聖属性の魔法・日光以外を無効化。魔力が尽きない限り体を再生させる。



……。


多分生前より圧倒的に強いな。冒険者の平均がレベル50程度で、それぞれの能力値の平均値が300程度。それに比べてこの体はレベル1なのを加味すると、この体は人間以上のポテンシャルを秘めているのかもしれない。それに知力も上がってる。防御……は聖属性の魔法以外無効化って書いてあるし、それを喰らったら即死なんだろう。日光に当たらないというのは人間としてならばどうかと思っていたが、この体ではどうも思わない。むしろ暗い方が好きだ。


能力の欄。魂食ジール・プランドゥル魔力操作ウォーロック、説明があるが意味が分からない。ここを出る前に確認しよう。


最後に一つ、気になることがある。


「名前……。俺の名前。俺は……誰だ……。」


さっきまであった、俺の名前。俺の記憶から無くなった、俺の名前。一体どこに……。


「グルァアアアアアア!」


さっきの熊だ。死んだ肉は食べないという意味不明な奴だが、動いているのなら不死者アンデッドも食べるのか?


「どうにかして殺さないと……。」


考えた。考えて考えて、俺は一か八かの賭けに出た。













俺は熊の攻撃を受けることにした。この体ならば、痛覚はないはず。そして、背中に刺さった剣を引き抜き、今度こそ急所に当てるのだ。


「グラァ!」


爪で真っ二つ。上半身が吹っ飛んだ。予想通り意識はある。が、痛みはやはりない。急いで下半身を動かして、上半身のところへ。


「くっついた……。」


なんとか上半身と下半身を這わせて断面をくっつけたら、魔力で体がつながった。もしかして、魔物は魔力の塊なのか…?


もし熊の魔物もそうだとしたら、今のままでは倒せない気がしてきた。


だが、熊を殺せなければ俺が死ぬのだ。せっかくこうして意識があるのだから、死ぬのは御免だ。今度こそ、剣で奴を。魔力操作ウォーロックを発動し、剣に魔力を纏わせ振り回した。








魔力というものは意外と尽きない物である。人間であった頃は、魔力は魔法を打つものとしか考えていなかったため減りも早かったが、この体になってからは剣に使っているため、減りがほぼないし、そもそも母数が多いので気にせず使っていられる。そして、魔法を使えるのか確認したい……と言っても、魔法を使える気はしないし、使えたとしても今は熊に殺されないようにするのが先だが。


「セイッ!」


この体の調子にも慣れてきたので、体を流れる魔力を早く回す。すると体の動きが良くなるので、所謂【身体強化エンハンス】と同等の力を発揮できるようだ。


「グラァァアアアアア!」


次第に熊の体にも傷が増える。俺の魔力は、そろそろ限界だった。


「うおおおおおおおお!」


最後だ。これで決着させる。


俺は全神経を集中させ、今の自分が放てる最大出力、最大の攻撃を繰り出した。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」


俺は自分の体に強化を施し。熊は爪に魔力を込め。一瞬、二つの影が交錯した。


『ドサッ』


何かが倒れる音。俺は振り返ると、熊から発せられた魔力がなくなっていることに気がつく。


勝った。生き残った。ただそれだけのことだ。でも俺は、これまでに生前に経験がないほどの満足感を得ることができた。


そして、俺は熊の亡骸のもとへ歩いて行く。


「……。勝ったん、だよな。」


すると突然、声が聞こえた。


『ブラッドベアの討伐確認。討伐報酬を選択してください。』


「うぉっ!?」


ステータスプレートのような何かが現れた。魂食ジール・プランドゥルの効果だろうか?


『ブラッドベアの魔爪

 ブラッドベアの毛皮

 夜目ナイトアイ


この三つから選べ、という事だろうか?


「じゃあ、夜目ナイトアイで。」


『レベルアップによる魂の強化を終了、現在のレベルは20です。

魂食ジール・プランドゥルの効果により、魂を捕食。進化に必要な素材を確認。中位不死者ジェネラル・アンデッドへの進化を行います。』


声が告げる進化とはなんなのか。


「なんだ、それ、は……。」


俺の意識は遠のいた。死んだ時とは違うような遠のきだと、俺は思った。

 







————後書き————

はじめまして、しろいろ。です。

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