~EtherVary~ポストアポカリプス転生闘争記
西城文岳
序章 亡国の兵士達
第1話 寝起きの空気は最悪
空が紫色に包まれた日を忘れることは無い。
この地理や魔術文化からして地球では無いこの世界、アンヘルで再び生を受けて十八年。
南の温暖なホワイト諸島から北のそびえ立つ世界一大きいグランマ山脈まで続く第二の故郷、島国スペド。その一つの島の屋敷から見た景色を今も憶えている。
本島の大半を構成する北に伸びるグランマ山脈の麓にある南の繫栄した長閑な南国景色の王都。人間、エルフ、ドワーフ、獣人など多種多様な種族が暮らすこの島は、伝統的な魔術工芸品と、南に広がる諸島から本島の北に延々と延びるグランマ山脈の中流を駆け上るサメ程にでかい鮭が特産品だった。
きっと、そんな光景は二度と訪れないだろう。
突如始まった世界大戦で俺は第二の故郷を失った。その瞬間は今でも憶えている。
その時は突然だった。押し寄せる敵国の軍艦、ハーティス帝国の大群に応戦していた時だった。
空が紫色に包まれたかと思うと本島グランマ山脈の方角から凄まじい風が吹く。
それと同時に紫の閃光が視界を覆う。
防衛拠点の砲台から見たのは、王都があった所にいくつもの紫色の半円型の爆発に包まれていた。それと同時に通信機からの連絡は途絶える。拠点は慌ただしく通信をしようと何度も連絡用装置を動かしている。ただ俺は、その場で王都があった場所を見つめることしか出来ない。
少しづつ膨らんで消えた紫色のドームがあった場所にあるはずの王都は何処にも無かった。それよりも爆発による紫の輝く津波が押し寄せる。
艦隊が押し流され島に当たり砕けていく。全てを破壊する波が俺を飲み込む。
当時、海戦最強だった我が国、スペド王国は遥かに発展したハーティス帝国の撃ち込んだ、たった一つの爆弾で崩壊したのだ。
これが世界の破滅の第一歩。この世界最大の失敗の始まりだった。
♠
「ガハッ!……ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!」
「起きたか!この馬鹿!さっさと動け!」
「ここは……?」
「早く!うわぁぁぁ!」
目を覚ました時、目の前に広がるのは砂煙と共に吹き飛ぶ人々。巨大な土塊が俺の前に立っていた人々を吹き飛ばす。勢いそのままに壁に叩きつけられその人は意識を失ってしまう。起き上がり土塊が飛んできた方に目を向ける。
土のう袋や瓦礫でバリケードを築いた人々がそれの背に隠れ、こちらに向かってくる化物たち。赤茶けたジャングルの木々を搔き分け、人より大きいカマキリや、地面を掘り起こし投げつける猿のような毛深い巨人、八本足の蜘蛛のような体した恐竜、果ては流動する肉塊のような不定形のよく分からない存在など、化物共の大行進が俺の目の前にあった。
「早く隠れて!」
言われるがまま近くの瓦礫に隠れる。
継ぎ接ぎのスクラップで作られた銃を手に、ボロ切れのローブを纏った兵士達の銃撃は前に立つ怪物たちを倒していく。だがその後ろからまた新たな化物が屍を乗り越え、取り込み、勢いは衰えを見せない。
俺のそばにいた全身に爬虫類の鱗のようなモノが生えた女性が叫ぶ。
「ねぇ!大砲はまだなの!」
「チャージまであと二分だ!」
壁の上に立つドワーフは呼びそう叫ぶと壁の上に建てられた幾つものコードや配管に繋がれたメカメカしい見た目の装置を動かしている。
「分かった!ほら早く撃って!」
下で戦う俺たちは瓦礫のバリケードを上手く使い、何度か土塊がぶつかり砕ける。
傍に落ちていた愛用のリボルバーマグナムを拾いなおし、身体を起こし銃撃に加わる。
大口径のマグナムは非常に強力な一発で猿の巨人、ビッグフットをひるませるには十分な火力で、ひるんだ所を彼女のサブマシンガンに蜂の巣にされる。
だがそれだけでは行進は止められない。不定形の化物が近づいてくるが、
「これでもくらえ!」
俺たちから少し離れたところに居たセイウチの巨漢が火炎瓶が投げる。化物の足元で割れた瓶から出た炎が化物の足元で飛び散り、瞬く間に火だるまにしてしまう。飛び散った後の炎はまだそこに残り、化物の何匹かはその炎より先に進めずに立ち止まってしまう。
「エーテル変換率、100%!照準よし!撃つぞ!」
「伏せろ!」
その掛け声が聞こえると同時に熱を持ったオレンジ色の光線が放射される。まばらに、断続的に乱射される光線が迫り来る怪物全てを焼き殺していく。
その後ろの木々を貫きながら全てを灰に還していく。
魔素、エーテル。
それを発見したのが誰かは解らないが、それは魔術と言う触媒を通すことで熱、電気、水、肥料等ありとあらゆるエネルギーに変換できる、紫色の結晶で出来た究極の資源である。それはつまりエーテルと言う資源には莫大なエネルギーが秘められている。
この世界はエーテル魔法技術と言う革新的魔法技術が普及した。それは才があろうが無かろうが関係ない、設計者の能力に批准するその誰もが使える強力な、夢のような道具は世界を大いに変えたのだ。
「まだ生き残りがいるぞ!」
そう叫ぶ男たちの方を見ると焼け焦げた戦場から何匹かの不定形の怪物が起き上がる。俺はその声を聞いた瞬間、ベルトに挿した注射器アンプルを首に打ち込む。紫の内容物が身体に染み渡る。
首周りの刺青の魔法陣が紫に輝くと同時に、視界のふちが鮮やかに朦朧に虹色が広がり、全てが透けて見えるような感覚が俺を襲う。世界がゆっくりと進み全てがスローモーションになる。
化物達が瞬く間に周囲の人間を飲み込もうとするよりも早く、リボルバーを引き抜き化物の体の中に透けて見える脈動する部位を正確に撃ち抜いた。
弾丸が化物の体を貫通すると同時に世界は元に戻り、化物は力無く倒れていく。
「全て急所を撃ち抜かれている……あの早撃ち、あいつが、スペドの悪魔か」
「あいつが噂の!?デイモン・ストロングバードだって言うのか!?大戦中、僅か十五歳で拳銃とナイフ一つで帝国の一個小隊を壊滅させたと言う!?」
「あの入れ墨をみろ。魔術師だ」
夢のような資源と技術。だがデメリットは勿論ある。エーテル魔法技術が普及する前、エーテルというのは忌み嫌われていた。
先程も言ったがエーテルはどんなエネルギーにも変換出来る夢のような資源。
エーテルと言う資源には莫大なエネルギーが秘められている。
生物の体内に蓄積したエーテルが許容範囲を大きく超えた時、エネルギーの逃げ場を求めたエーテルが、生物を変異させるのだ。
当時の魔術師というのはそれを身体に取り込み、魔法陣を経由して魔術を行うのだ。いつ爆発するか解らない爆弾を忌み嫌うのも当然の話と言えるだろう。
魔法技術が普及したのに何故、魔術師がまだいるか?
俺は後ろでの騒がしい喧騒を放って、俺は光線がなぎ倒した木々の向こうを見る。
エーテルに汚染され紫に輝く海に浮かぶ我が故郷スペドは、遠くから見て分かる程に島全体が紫のエーテルの結晶や霧に覆われている。
あの帝国のエーテル核爆弾が落とされ三年が経った。
高濃度のエーテルが凝縮されたそれの影響は大きく、理性無き化物とそれに変異させる高濃度のエーテル霧が蔓延し、誰もその拡大を止められなかった。
たった三年で故郷は、いや世界は滅んだのだ。
そんな世界を生き残るには、自らを破滅へ足を踏み入れなければならなかった人間も居るのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます