第15話 歯医者編←2023.4.4
分かっちゃいる。でも先送りしてしまう。
そんな
カテゴリA.
①郵送②電話③メール④SNS⑤オンラインフォーム⑥手旗信号⑦モールス信号
カテゴリB.
⑧不在者事前投票⑨オーケストラ⑩集合的無意識⑪ダイイングメッセージ⑫コミケ⑬ロックフェス
カテゴリC.
⑭口寄せ⑮ダイレクトテレポーテーション⑯念話⑰神降ろし⑱伝書鳩⑲伝書人⑳伝書ケンタウロス
カテゴリD.
㉑狼煙㉒矢文㉓壁画㉔ラップ現象㉕ミステリーサークル㉖ピラミッド建設㉗始祖創造㉘泰山府君祭
カテゴリ■.■■覧jfなおbほはっdghghかねおgybhlんhywktrg08gんtd809hのえ4tgぽsgん0wpせ、mr;qk3えjgh「おいsj;k(中略)
と、ありとあらゆる手段をもって行われるのであり――いや、まあ、とにかくその結果のトップ10入りするであろう。
それが、歯医者というものである。
春子が歯に違和感を覚えてからしばらく経つが、別に痛いというわけではなく、どうしても危機感が湧いてこないのだ。
単に、左下の奥から3番目の歯を舌でなぞると一部無くなっているに過ぎない。一部というのも、舌の感覚では歯の1/4以下。
大した大きさでもないし。
痛いわけでもないし。
歯が無くなるのは虫歯だけでもないし。
何かと
何しろ時間がかかる。それも、一度に長時間ではなく、長くとも半時間程度を何度か通わなければならない。
日常という苛烈な洗浄を、あ間違えた戦場をくぐり抜ける春子にそんな暇は――っとそういえばメネスの入れ歯と3軒向こうにある在日本−南のネズミ花火銀河連絡協議会代表大使館の外壁の洗浄がまだだった。後でソ●ラン・チーズ臭ハイパーEXうっふんをぶっかけておこう。
1エーカーの範囲内に乱立するオベリスクと竪穴式住居と猫脚の生えた飛べない宇宙船(※集合住宅としてリユース中)たちを、どの順で処理していくのが最適かを脳内でシュミレーションしながら、春子は
トリミングの2.2倍(当社比)の勢いで嫌がられるので、入れ歯を抜くと悟られないことが肝要だ。後は気配を出さずに、ただ素早く。
出し抜かれて激しくスタンピングを繰り返すメネスを尻目に、春子は次の家事作業工程を思案し始める。そして直前に考えていたことをすっかり忘れ――ようとするその刹那、歯の欠けに舌があたって思い出す。
何気に、これを繰り返しているのだ。
一日3回朝昼晩、掛けることの三十日掛けることの二十一ヶ月ほど。流石にそれだけ繰り返せば、気にならないとは言えなくもない心境になってきた気がしても仕方がないような気がそこはかとなく漂う気分である。
まあ、要するに歯医者に行かねばならない、ということだ。
人間何事にも諦めが肝心。いや待てよまだワンチャン残ってるんじゃなかろうかとか頭を巡らそうとしたその頭へと、テントウムシがダイブしてきた。
テントウムシの色は黒一色。
神様いわく「とっとと諦めろ」だそうだ。
虫の知らせに大きくため息を付いて従うことにし、春子は神棚から半紙とフリクション毛玉筆ペン(硬い)を取り出した。
うやうやしく掲げること1分18秒兎の刻限α+、意を決したように筆を運び始める。
零壱零零壱壱壱零壱零壱零零零壱零壱壱零澪壱零壱壱壱蛇零零壱零壱零壱零雲壱零零壱零壱壺零零零……
古式ゆかしい
言語の「格」としては上級下位に当たるため依頼文には不足はない。が、
その上、一文字あたりの画数が桁違いなので、時間もかかってしまう。
伝統は大切だが、盲信するのも正しいとは言えないなぁと、こういうときに春子は痛感する。時代に沿うことも必然なのだ。
まあ、多少の誤字があっても許される寛容さには非常に助けられるのだが。
少々間違っても気にしない精神で徐々にペースアップし、半紙79枚を書ききって背を伸ばす春子。ここまでで19分53秒、なかなかの記録である。
その79枚を持って、畳のある部屋へと移って適当に畳返し。その畳の裏面のおみくじに従って壺庭に行き待つこと3分、チーンという分かりやすい音とともに壺庭の床がパカッと開いた。
もうもうと上がる湯気の中から現れたのは家庭用プリンター複合機。たっぷりとお湯を吸ったらしく、つやっつやでふっくらした
スキャンした内容は即座にデジタル処理され、PDFへと変換される。
まあ、加工担当の電子の妖精さんが随分とご高齢なため、震える手で書き写された文字がどうしても超達筆へと進化してしまうのだが、読める以上は問題はない。
おじいさんが書き写すのを黄紫マーブル烏龍茶と
それにしても、最近のスマホは進化したものだ。メモリのソケットをディスプレイにメリっとねじ込んだらデータを勝手に読み取ってくれるとは。
もっとも、スマホがビチビチと跳ね回ろうとするのを固定するのには辟易とするんだけれども。まるで無理やり押し込んでいるみたいな心境になるからやめてほしいところである。別にゲテモノを食わせているわけでもあるまいし。ねえ。
何とかデータを
こーんこーんこーん、こここここーん、こここここっここここーん。
『カアカア!』
相変わらず省略版で最後を「カラスの勝手でしょ」で切り上げたが、こちらも相変わらず合いの手を入れて現れるカラスのマリア。
現れる、といってもディスプレイに表示されるだけなのだが。
以前
ありとあらゆる生命体にITプラグのインプラント手術が行なわれるようになって久しく、まあ、個
が、春子としては、
表示されるマリアの足が3本になっているあたり、もう手遅れなのかもしれないけれど。
とにかく送信先アドレスを手話で伝えると、メールアイコンを3本足でしっかと掴んで、マリアがディスプレイ外へとスライドアウトしていった――と思いきやその反対からメールアイコンだけがスライドインしてくる。
アイコンをタップすると本文が展開。内容は一言のみ。
「15分後に」
早い。早すぎる。これはちょっと予想外だ。
隣の向こう側の区画にある歯医者に空きと予約の相談を、まあ、何時でもいいので空いてる時間を確かに問い合わせたのだが、そこまで直近を言われるとは思ってもいなかった。
隣の区画までなら徒歩5分程度で十分着くが、その向こう側となると歩きではいつ到着できるか分かったものではないのだ。
何しろ道が繋がってないどころか空間が繋がってないのだから、訪問するにはそれなりの手続きが必要になる。
春子は大急ぎで中学のころのジャージに着替え、台所で湯を沸かし、茶筅と茶杓と茶碗を並べて、正座する。作法に則って厳かに茶を一服点てて、誰も居ないテーブルにそっと置いた。
すると、向こうの席からすっと手が現れ――じゃなかった伸びてきて、茶碗を手に取り、口へと運んだ。
飲み終わって満面の笑みを浮かべた妖怪ちゃぶ台返しが、両手を掲げる。
間髪入れずに春子がテーブルに乗る。
閃く妖怪ちゃぶ台返しの手。
返されるテーブル。
枕返しの遠縁たる彼は、一族郎党の例に漏れず何かをひっくり返すことを生業としているのだが、コレまた一族郎党の例に漏れず天地を返すことで世界をひっくり返すことも請け負っている。これはある意味概念的なカテゴライズを恣意的に用いることで物質的事象を概念という非実在によって象徴及び固定化するプロセスを経て任意に翻訳を行い――
――
というわけで春子宅の向こう側へ到着。
来てしまえば話は早かったりする。向こう側は空間の距離が10分の1しかないので、移動に時間はかからないからだ。
ただし、物体の大きさは変わらないので注意を要する。
物体がミクロ的には分子構造がスカスカなのを利用することで、存在が重複することを許容しているのだが、混ざってしまわないように気をつけなければならない。
イメージだけで言えば、青色の霧と赤色の霧がそれぞれ意思をもって交差点でぶつかり、お互いを透過してすり抜けていく感じだろうか。
決して紫の霧になってはいけないのである。
うっかりブレンドして新しい生命体へと変容してしまわないよう注意しながら一直線に爆進し、予約時刻ちょうどに歯医者へ到着。
全身全霊をもって岩戸――神話的なモノではなく、純粋にただの岩石である――をスライドさせて入り込むと、中には熊が待っていた。
誤字ではない。
熊である。
紛れもなく。
二足歩行はしているけれども、超リアルに熊。
生物学的に一点の瑕疵もなく熊な彼ではあるが、熊田さん(※
確かに、歯科医師試験は天賦の才能が必須となる冷酷無情な選別試験ではあるが、
だから、冬眠明ける直前という
そう自分に言い聞かせて、春子は軽く頭を下げる。眼前の熊田さんは鼻息荒くよだれを垂れ流しつつの無言。
熊だけに言語が違うため会話は成立しない。
目からも感情は窺えない。ただじっと見つめられている。
うん、やっぱりちょっと怖いや。
言い聞かせるのを笑顔で諦め、熊田さんが指し示す椅子へとおとなしく座る春子。
背もたれが後ろへと倒れていき、背後から熊田さんが覗き込む構図になる。
至近距離に熊田さんのアップ。
というか、目の前に熊。
よだれがダラダラ。
わお。
安全装置なしの体験型サファリパークでの(野生)動物とのふれあい、と春子は思うことにした。
なお、思ったところでどうにもならないのは百も承知である。
とにかく診てもらわなければ話にならないので、思い切り口を開く。
熊田さんがさらに近づく。
何かこう、土のにおいというか何と言うか、とっても自然を感じさせる香りを強烈に放ちながら、しばし凝視してくる熊田さん。
正直、何だか居心地が悪いなあと思いつつも、
そのうちに、すぐに、熊田さんは液晶ディスプレイを爪で手繰り寄せて春子へと向けた。
ディスプレイは春子の虫歯を映しており、爪で軽くタップされるごとにズームされていく。倍率200倍のところでやつらの姿が確認できた。
無数にうごめく、
もちろん、不法滞在である。春子は認可した覚えは粉末状漢方薬の一粒分すら無い。
しかし、このピクトさんたちはなかなかに厄介な種族なのだ。
まず、何しろ記号であるが故に、殺虫剤やら殺菌剤やらの類は一切無効である。薬で一網打尽、という訳にはいかない。
その上、単純分裂で増殖してしまうため、文字通りねずみ算的に数が増える。
そして、情緒レベルは小学生低学年程度だというのに、知能レベルは非常に高い。IQなら平均166.38741811559はあるとの研究結果もある(「●婦の友」1912年公式アンケート調査結果より)。
そして何気に念話により意思疎通が出来てしまうため、論戦になると意外と手強いのだ。
例えて言うならば、異常なほど討論に強いガキンチョ相手に、不毛な論戦を繰り広げなければならないようなもの、だろうか。
冗談のように博覧強記で勘弁してほしい程に頭の回転が速いクソガキを論破しなければならない。何しろ相手は記号、物理攻撃は無効化されるのだから。
そんなピクトさんたちに対しての特攻キャラ――もとい十二分に対抗できると認められた者たちこそが歯科医師なのだ。
ディスプレイの中ではピクトさんの大群が、せっせせっせと、
ざっと見ただけでも、集合住宅に美術館に役所に野球場にショッピングモールに刑務所に剣闘場にと、随分と発展しているものだ。あ、カジノやら怪しいオークションをするホールまで。ちょっとちょっと、大麻の栽培農園とかは止めてもらいたいなぁ、人の口の中で勝手に何を作ってんの。
我が物顔で幅を利かす不法滞在者達に、自然と眉をしかめる春子。しかし、もう無法者に手をこまねくことはない。
ここには
「グオオオオオオオオオオオオッ!!!」
吠えた。
それはもう、ものすごぉぉぉく吠えた。
眼前で。
熊が。
ぅわあお。
響き渡る音圧で圧迫され、思わずつま先がビクッと跳ねてしまった春子。眼の前で炸裂する野生は、やはり迫力が違う。
つか怖いわマジで。
それはピクトさんたちも同様だったようで、ディスプレイの中に
いいのである。勝利手段が知性でなくても。野生という武器を知性が効果的に使用したのであり、つまりは知性の勝利なのだ。
うん、そういうことでいこう。
春子が自分の中でオチを付けていると、横から熊田さんが手を差し出してくる。
爪で器用に挟んであるものは、この医院の診察券だった。次の予約日が書かれている。
ピクトさんは雲散霧消したものの、それは当然一時的なもので、数日、下手すれば数時間内もすればまた集まりだしてしまう。
よって、情緒面では小学生であるピクトさんの心をへし折るために、熊田さんのところへ通わなかればならないのだ。
半時間程度を、何回か。
ピクトさんがいつ
もっとも、
だって、分かっていても怖いんだもん。
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