第9話 習い事
昼食も皆で一緒に食べようという誘いを佳菜ちゃんから受け、またも食卓にいる青野と姫子。
「犬飼さんや下飼さんも一緒に食事をするんですね。」
五人分並べられた昼食を見て、青野が少し意外そうに言った。
「ええ。お嬢様のご希望で、いつもそうしています。」
犬飼が答えると、
「当たり前でしょ。だって、一人ぼっちで食べていてもつまらないでしょ。
犬飼や下飼と話しながら一緒に食べる方がずう~っと美味しいんだよ。」
佳菜ちゃんが当然という顔をしながら言った。
食事がそろそろ終わる頃になって、
「犬飼、今日の夕方のスイミング、やっぱりモコさくと一緒に散歩しながら行きたいんだけどな。」
佳菜ちゃんがお願いするように犬飼に聞いてきた。
「お嬢様、昨日お父様から今週のスイミングは車で行くように言われていましたよね。」
犬飼が困った顔をしながらゆっくりと答えていた。
いつも通っているスイミングの練習は、お盆期間でお休みになっていた。その代わりに、夏休み短期集中コースがあって、その申し込みをしたのだが、いつもの練習では使えているスクールバスが、既に定員になっていたのである。
そこで、夏休み中だしゆっくり犬達と散歩をしながら練習に行こうと当初は予定していたのだが、脅迫状が届いたために、予定が変更になっていた。
その予定変更が、どうやら佳菜ちゃんには納得が出来ていないようである。
「他の習い事も全部お盆休みでお休みだから、スイミングとお散歩をずっと楽しみにしていたんだよ。
私ね、散歩ぐらい大丈夫だと思うの。下飼もそう思うでしょ。ねぇ、犬飼~。」
佳菜ちゃんが少しも譲らないので、すっかり困り顔をしていた二人だったが、ついに青野の方を見ながら、
「お嬢様、刑事さん達も警護があるので、お車で移動した方がいいと思っていると思いますよ。」
犬飼が私達の意見を求めるように話をこちらに振ってきた。
スイミングまでは、車だと十分かからない距離である。
ちょうどスイミングの時間は会長の外出が無いからと、運転手の車田も会長の心配を聞いて、送迎を請け負ってくれていた。
そもそもスイミングに行かない方が安全なのだが、夏季休業中の娘を出来るだけ習い事等普段通りに近い状態で過ごさせたいという会長の要望でもあった。
子供の足で、しかも犬も一緒に散歩するとなると、三十分以上かかるかもしれないなと青野と姫子が手際よく相談していた。
「姫子さん、僕が後ろについて行きますよ。そんな遠い距離でもないし、すごく楽しみにしていたみたいだし、どうでしょ?」
佳菜ちゃんの今の様子をみて、人の好い青野が小声で聞いてきた。
「そうね、あまり心配し過ぎるのも良くないかもしれないわね。」
姫子も青野の意見に同意し、小声で答えた。
「お嬢様、僕も一緒に行ってもいいですか?それでもいいなら、犬達と一緒に歩いてスイミングに行けますよ。」
青野が明るく答えた。
「もちろんいいよ、青野さん。うん、それじゃあ一緒に行こう。
でも犬は、私と犬飼が連れて行くからね。」
佳菜ちゃんが元気よく答えた。
「犬飼さん、それでよろしいですか?」
青野が確認した。
「はい。ありがとうございます。私達もお嬢様のご希望は叶えて差し上げたかったのですが、会長のご心配もよくわかりますし、困っていた所です。散歩が出来るようになって良かったです。」
犬飼が嬉しそうに答えた。
下飼も嬉しそうに頷いている。
「あっ、いけない。それじゃあ、すぐに車田さんに配車が不要になったと連絡を入れないと。」
犬飼が慌てて席を立とうとした。
「私から秘書課に連絡を入れるわ。車田さんの携帯に連絡を入れても、もしも運転中だと取れないでしょ。」
下飼が彼を制して席を立った。
「ありがとう、それじゃあよろしくお願いします。」
犬飼が座り直した。
「下飼、次の練習の分も一緒に車のキャンセル連絡をしておいてね。」
佳菜ちゃんが次の練習の分も、ちゃっかり散歩に行くことにしていた。
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