僕とゾンビと金髪のあの子

川獺右端

1. ショッピングモール

「べつに、あんたのために、したわけじゃ無いんだからねっ」


 僕の後ろに這い寄ってきたゾンビを、ロケットランチャーで吹き飛ばした後、キャロルは怒ったようにこう言った。


「ありがとう、キャロル」


 僕は微笑んでキャロルに感謝の言葉を伝え、キャロルの後ろのゾンビをショットガンで吹っ飛ばした。


 ガンパウダーのむせるような辛い匂い。鼻につくロケットランチャーの燃料の甘い匂い。ゾンビの腐臭。

 棚にあったオレンジジュースのパックがダブルオーバックの散弾ではじけて柑橘系の良い香りも漂っている。


 ゾンビはどんどんとやってくる。

 僕とキャロルはドカンドカンと銃とランチャーを打ち続ける。

 ゾンビの数の多い場所にキャロルの榴弾が飛ぶ。対戦車のPG-7弾ではなく、対人榴弾のOG-7Vだ。


 キャロルに初めて会ったとき、RGBじゃ、すぐ弾が無くなるよと助言したら、ゾンビにはロケットランチャーって決まってるのっ! と怒られた。

 そういうものですかと、僕は思った。こんな時代でも人には人のこだわりのような物があるらしい。

 太ったゾンビが僕の方へ突進してきたので、僕は腰だめにショットガンを発射する。

 棚の食料が傷むので、本当ならばライフルが良いんだけど、今は持ってないからしょうがない。この大きなショッピングセンターを制圧したあと、ゆっくりと探そうと思う。


 さすがに一時間も戦っていると、食品売り場に居るゾンビもだんだんと減ってきた。

 キャロルは、弾頭が無くなったのかロケットランチャーの発射機を背中に回し、AK-47自動小銃を撃ち始めた。背の小さい女の子なのに、どうして大きい銃やランチャーが好きなんだろうか、と僕は彼女の輝くような金髪を見ながら考えたりする。

 ふうふうと息を吐きながら、頬を紅潮させて、キャロルが近づいてきた。

 僕と目が合うと、にっと白い歯を見せて笑った。


 キャロルは背が小さい、くるくると表情の良く変わる青い目、輝く金髪を頭の上で二つに結んで垂らしている、ちょっとそばかす、誰にも負けない気の強さを、なんだか日本アニメにでも出てきそうなゴスロリの服に包んでいる。

 ちなみに、君はOTAKUなの? と初めて会った時に聞いたら、AK-47の銃床で五回ぶたれました。


「とりあえず、食品売り場は私たちの物ね。ミッシェル、おやつ食べ放題よ!」

「それはとても素敵だね、でも食べ過ぎないでよ、太るから」

「そんなに食べないわよっ!! バカッ!!」


 まったくキャロルはすぐ怒るんだから、こまった物だ。

 この大きな郊外のショッピングセンターには、僕たち二人と、大量のゾンビ以外誰もいないようだ。

 しばらく、衣食住の心配はなさそう。


 僕らは食料品売り場の隅にレジャーシートを引いて、好きな物を棚から取って食事にした。

 電気が無くなってからずいぶんたつから、生鮮食料品はみんな駄目になってるみたいだけど、真空パックやスナック類、ジュースやお酒は、まだ平気そうだ。


 家具売り場へ行き、そこにいたゾンビを退治して、マットレスを手に入れた。

 ゾンビが入れない場所を探すと、事務室があった。窓ガラスには針金が入っているし、ドアも頑丈だった。


 久しぶりに柔らかい寝床で寝ることが出来た。

 僕はキャロルの頭を胸に抱いて、すやすやと寝た。

 人と接触していないと僕は寝れないたちなので、最初キャロルはいやがっていたけど、最近は素直にくっついて寝てくれるようになった。

 キスしたりセックスしたりするのは、あまり好きじゃないので、キャロルがしたがっていそうな時だけやることにしている。


 キャロルは素直じゃないから、そういう時でも、ぷりぷり怒りながら、「私はそんな事絶対にしたくないのよっ! でも、あんたがしたいって言うからしてあげるんだからねっ」と言いつつ、体をひらき、燃え上がったりしてる。


 今日は久々のゾンビ退治で疲れているので、僕のかわいいお姫様はそんな気分じゃなさそうだ。

 僕の性欲の方も、押しつけるよりも受け入れる方に躾けられているので、今日は静かな夜になりそうだ。

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