第22話 お花見は桜、君は美し
お花見当日。
俺は場所取りに駆り出された。
お花見なんて時代遅れの習慣かと思って廃れたかと思ったが、意外に人が集まっている。
集まった人達は年配の方達か、大学生か、家族が多いな。
やっぱり、お酒飲んで嫌なこと忘れたい人達が集まっているのだろうか。
人混みを避けるために平日に来たのだが、それなりに集まっているのは何でだろうか。
小学生ぐらいの子までいるけど、もしかして、今日は振替休日とかだったのだろうか。
もっと調べた方が良かったかも知れない。
場所を取るために、大きめのシートを購入した。
ショップで、お洒落な柄のシートがあったのでそれを選んだけど、それだけでテンションが上がる。
天気予報通りの快晴で、桜も咲いている。
例年よりも早い開花で、もう散ってしまっているけど、十分咲いている方だ。
スマホでアプリゲームのデイリーミッションをこなしながら、時折桜を見上げて時間を潰す。
家と大学を往復するような生活を続けているので、こうして変化がある行事をやると新鮮さがあっていい。
特に外出して、普段とは違うことをすると刺激がある。
花を観るのは結構好きだ。
植物園とかたまには行きたい。
子どもの頃に親に連れて行ってもらって退屈で仕方なかったけど、大学生になったぐらいから植物園とか美術館とかの良さが分かって来たな。
同級生、特に男に植物鑑賞の楽しさを語っても同意を得られることはあまりない。
栞もそういうのに興味ないから最近行けてないな。
毎週となったら俺も首を振るが、半年に一、二回ぐらいだったら植物園に行きたくなるな。
今度、動画の企画で植物園、ダメなら博物館とか美術館に一緒に行きたいな。
「いた」
栞がやって来た。
その口ぶりからして、もしかして迷ったのかな。
「探した?」
「ううん。写真のお陰ですぐ見つかったから」
スマホで大まかな場所と、近くの景色を写真で撮って送信した。
栞も荷物を持っているから、迷わなくて良かった。
重い物を持ちながら、歩き回ったら機嫌最悪だったろう。
「ちゃんと飲み物は買ってきた?」
「勿論」
俺と栞と久羽先輩とで、手分けして必要なものを準備して持ってくることになった。
栞がカメラや三脚、自撮り棒などの機材担当。
久羽先輩が、一番料理が上手いので料理担当。
飲み物が一番重いとのことで、俺がお酒担当。
ということになって、俺はクーラーボックスまで持ってきて、ビールをキンキンに冷やしてきた。他にも動画で使うものは俺が買って、持ってきた。
一応、久羽先輩の指定通り、他にもカクテル系やワインまで持ってきたけど、本当にこれいります?
酩酊して、動画グダグダになりませんか?
「結局、お花見は外で良かったのか?」
「今更? まあ、たまには動画に変化を入れて、視聴者の反応を観るのは大事でしょう。私は、絶対再生数減ると思うけどね」
「でも、ShowTubeは、どうなるかは蓋を開けてみるまでは分からないだろ?」
「確かに……。お金かけて自信がある動画に限って、伸びないとかあるあるよね」
するりと、栞が隣に座って、機材の準備を始める。
俺も手伝うか。
立ち上がって、折り畳みの三脚をなるべく平行な地面に立てる。
その間、栞が周りをキョロキョロと見渡している。
「? どうした?」
「ちょっと周りから見られてるんだけど。何かしたんじゃないの?」
「何かって、何だよ……」
「だから……。待っている間に裸踊りでもしたんじゃないの?」
「するか!!」
お酒一滴も飲んでないし、酔っていても裸踊りなんてやったことない。
周りから見られていてって、機材の準備が始まって何事かと思った人が多数なんじゃないのか。
そうじゃないとしたら、後は一つしかない。
「ただ、栞が綺麗だったから、みんな見惚れてただけだろ」
「は、はあ!? 何言ってんの!?」
素直に言葉が出てしまったけど、あまりにも気障だったか。
でも、本当だ。
いつもだったら、もっと暗めのクールな服装だけど、今日はポップで、明るい春らしい服装をしている。
チークも綺麗で、メイクの仕方がいつもと違う。
だから、綺麗に見えたのかも知れない。
もしかして、何だかんだいいつも、外のお花見楽しみにしていて、準備万端だったのかな。
栞は忙しなく髪の毛をいじる。
「ま、まあ、巧がそういうなら、そういうことなのかな……」
栞が裾を引っ張って来る。
俺の顔が見られないようなで、顔を逸らしているけど、耳まで真っ赤なのは見て取れる。
「そうだよ」
だって、この一年、栞の一番近くにいたのは俺だから。
だから、栞がどれだけ綺麗になっているかどうか、俺が一番分かっているはずなんだ。
「…………バカ」
首を回しても、まだ栞が視線を合わせようとしない。
正面に視線を合わせると、
「あっ、久羽先輩だ」
栞が裾から手を慌てて離す。
久羽先輩が遠くから歩いて来る。
良かった。
先輩も場所が分かったんだ。
「……ん?」
近づくにつれて何かがおかしいことに気が付く。
まず、久羽先輩が手を振りながら、珍しく困り顔になっている。
そして、先輩の腕に腕を絡めている人がいる。
距離を詰めると、それが誰なのかがすぐに分かる。
「タクさーん。シオさーん。来ちゃいました」
水上飾、その人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます