第11話 俺の好きなキャラのコスプレをする世界一可愛い後輩
カザリちゃんと会うのは夕方から夜にかけてになった。
講義の時間的にそこしかなかったのだ。
別日にしようと思ったが、逆にカザリちゃんの予定と合わずに、今日になった。
2人で会って、話すだけで、遊びに行くわけじゃない。
夜なので、飲みに行くことになった。
お洒落なバーにでも誘った方がいいかも知れないが、それだとデートだと勘違いされそうだったので、居酒屋を指定した。
断れなかったので、飲みに行く予定の居酒屋の近くで待ち合わせしていたのだが、何やら男の人に絡まれていた。
「すいません、今一人ですか?」
「……え、ええ。待ち合わせしているんで、すぐにもう一人来ますけど」
「だったら、近くに安いお店があるんですけど、どうですか? 飲みに行くんでしたら、お酒も揃っているし、ここらじゃ人気なんですよ? 食べ物のメニューも豊富なんですけど、お姉さん、何か好きな食べ物とかあります?」
「え、えっと……」
客引きの為のキャッチに捕まっていた。
ここで待ち合わせしたのは失敗だったかも知れない。
ここは居酒屋がたくさんある。
一人でいたら、他にも大勢いるキャッチに話しかけられるのは必然だったか。
「すいません。別の場所で飲む予定なので」
俺はカザリちゃんの腕を掴んで、俺の胸まで引き寄せる。
「ちょ、ちょっっと――」
「すいません」
まだ追い縋ろうとしたキャッチの男の人を置いて、俺達は歩く。
後ろを振り向いて追いかけていないことを確認すると腕を放す。
「ごめん」
「い、いいえ、格好よかったですっ!! サスタクですっ!! 改めて惚れ直しました!!」
「格好良かったっていうか……」
俺のことよりも、カザリちゃんのことが気になった。
会社帰りのような服装をしている。
「その格好どうしたの? なんでスーツ? それと、それ、カツラだよね?」
青髪で前髪パッツン。
それからカラコンをしていて、あと、レプリカの刀みたいなもの持っている。
妙に似合ってはいるけど、キャッチよりも、警官に声を掛けられそうな物まで持っていますけど。
よく職質されなかったね?
「ああ、これは、『呪物大戦』の『日輪ちゃん』のコスです。似合ってますか?」
「似合ってるけど……。言わなきゃ分からなかったかも」
「んー、やりました! 私、そんなに可愛いですか? 世界一可愛いですか?」
「あー、はいはい。世界一可愛いね」
メインキャラじゃなくて、サブキャラのコスプレか。
しかもスーツ姿だから、コスプレと分かりづらい。
でも、可愛いな。
『呪物大戦』っていう作品は、俺も好きで漫画原作もアニメも全部チェックしている。
しかも全キャラの中で一番好きなキャラが『日輪ちゃん』なのだ。
動画内でそのことを口にしたことがあるけど、たまたまか?
チラッと言っただけで、ガッツリ漫画紹介したことないもんな。
――しかし。メイド姿で来られるよりかは百倍マシだけど、コスプレせずに来て欲しかったな。
せめて、レプリカの刀は持ってこないで欲しかった。
日常的にコスプレするくらい、コスプレ好きなんだな。
「キャッチに声をかけられるなんてツイてなかったね。いつからいたの?」
「……今、来たばかりですよ」
そう言いながら自分で笑っていた。
これはツッコミ待ちかな?
「聴いたようなセリフだね」
「嘘です。本当はタクさんとの飲みが楽しみ過ぎて二時間前からいました」
「……それも嘘でしょ」
リアルな数字を出されると怖いんだけど。
六時間とかだったら、流石に嘘かなってなるけど、二時間前からとか、重い女だったらあり得るような待ち時間を口にしないで欲しい。
恐怖で震えそうだ。
今日は春にしては、肌寒いというのに更に寒くなりそうだ。
「お、おい!?」
カザリちゃんが、いきなり俺の手を握り締めてきた。
「寒かったので、温めてください」
「確かにちょっと手が冷たいな……」
どれだけの時間かは分からないが、どうやら俺のことを待っていたのは確かなようだ。
「まっ、俺のせいで声かけられたし、冷たくなったみたいだけだから、店に行くまでは温めてやろうかな」
「やったー。タクさん、やっさしいー。本当は今日ずっと触って欲しいですけどね!」
手を繋ぐだけで、本気で嬉しがっている姿は微笑ましい。
居酒屋まで俺は手から伝わる彼女の体温を感じていた。
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