第41話 アダンVSアイネ

「少し休むわ。」


すでに泣きそうな目で、アリサは室内に入っていった。


「心配だけど、1人にした方がいいかなぁ。」


後を追うか否かでミゲルは迷っているようだった。


「そっとしておいたほうがいいかもな。」


おそらくアリサは泣いているだろう。

男たちに泣き顔なんて見られたくないもんな。


さて、次が最も体格差のある戦い。身長150センチもないであろうマアルと、2メートルほどのアダン。下馬評では当然のようにアダン優位だ。


遠くから見ると、まるで大人と子供。リング内のマアルはさらに圧迫感あるだろうな。


しかしマアルはあの実力者コーレーに勝利している。魔法力はピカイチだ。


「ほんとうちっこいのう。」


正直、アダンからは余裕すら感じる。油断するとは思えないが。


その予想通り、試合が始まった瞬間に仕掛けたのはアダンだった。


「中位魔法:【エンロード】」


またいきなりかよ!

マアルを炎の波が飲み込んでいく。


が、すぐにマアルが姿を現した。豪波壁だ。


「全くミゲルといい、防御力が高い奴が多いのう。」


あのエンロードを無傷で..

もしかしてマアルってめちゃくちゃ強いのか?


「下位魔法:【氷壁】」


マアルの前に分厚い氷の壁が現れた。


「そんなもので防げるか!【エンロード】!」


氷の壁は一瞬にして溶け、水となった。


「下位魔法:【氷壁】」


それでもマアルは氷の壁を作り続ける。


「下位魔法で魔法力を削ぐつもりかのう。ならば、下位魔法:【小火】」


マアルが氷の壁を作り、それをアダンが溶かす。魔法力耐久戦となった。


次第にどちらにも疲れが見え始めた。魔法力は5分5分のようだ。


「攻撃しなくては勝てないと思うがのう?」


「いいんです!これで。」


マアルは諦めていないようだが、アダンの言う通り攻撃しなくては勝てない。

このままでは防戦一方だ。


リングは溶けた水でもうびしょびしょだ。


「中位魔法:【豪波壁】!」


突然、攻撃される前に手のひらほどの壁を体の前に張ったマアルが、アダンめがけて全力で走り出した。


「何を企んでおる!中位魔法:【エンロード】!」


お互い力を絞った中位魔法。

が、エンロードの威力が思うように出ていないようだ。


「まさか、この水..」


「そうです!リングを水びたしにすれば、地を這うように飛んでいくエンロードの威力は多少落ちます!」


「そんなもの通用せん!」


息を切らして、エンロードを放ち続ける。


「きゃあ!」


豪波壁が解け、エンロードはマアルに直撃した。


「ようやく、倒れたのう..」


魔法力切れで、アダンもその場に倒れた。


うつ伏せに倒れたマアル。

アダン相手にあそこまで戦えるとは..


「中位魔法!【瀑氷】」


何が起こったのか。

リングに巨大な四角い塔が出来上がった。


アダンを氷の中に閉じ込めるためにマアルが放ったものだった。


よく見れば、氷の塔までマアルの手からリングの水伝いに氷が繋がっている。


「倒れた位置から、リングの水を使ってわしの下で中位魔法を使うとは..」


しかし、エンロードを受けたことで手元が狂って位置がズレたのだろう。氷の塔が閉じ込めているのは、倒れているアダンの右手だけだった。


マアルはすでにエンロードのダメージもあって、気を失っていた。


「勝者は、アダン•ベスキート!」


「2つも中位魔法が使えるとはのう。しかも瀑氷を悟られないためにあえてエンロードを受けた。位置がズレなければわしの完敗じゃった..」


アダンは負けた顔をしていた。


アダンの勝利となったものの、マアルの恐ろしさを知らしめる試合となった。

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