第40話 激闘の結果

驚いたのは、始まってから数秒どちらも動かない事だった。


ただ見合うだけの時間に、緊張感が増す。

先に動いたのはアリサだった。弓を構えてゆっくりと近づく。


ぱしゅっと放つと、クローカーがその矢をレイピアで落とした。


大きな動きはないのに、空気がピリピリとしている。


実力者同士だからこその空気だろうか。


その時、バッと突然クローカーの周りを走るアリサ。


アリサの得意な、高速で撹乱しながらの攻撃だ。


しかし、クローカーは一矢残らずたたき落とす。さすがの腕だ。


拮抗した試合になるかと思われた矢先、クローカーが姿を消した。ミストーションだ。


アリサは大丈夫って言ってたけど、本当なのか。ノヴァの試合を思い出し不安になる。


ミストーションを確認すると、アリサは目を閉じた。


「おいおい、諦めたか!」


周囲から罵声も聞こえる。女性ってだけで偏見を持つ者も多い。

アリサが簡単に諦めるか。何も知らないくせに。


目を閉じながらスッと矢を構えた。

すると、空に向かってものすごい量の矢を放った。

無数の矢の雨が広範囲に降り注ぎ、傷を負ったクローカーが姿を現した。


「やっぱりね。ダメージとか衝撃受けるとミストーション解けるんでしょ。ノヴァをレイピアで刺した時、レイピアだけ解けたもんね。」


「音か。」


「そ。姿が消えても存在が消えるわけじゃない。足音から大体の場所を絞って矢を放ったの。」


これがアリサが言ってた作戦か。

アリサの身体能力があってこその対策なわけだ。


再びしばらく見つめ合う。


「下位魔法:【ブースト】」


加速したクローカーはまたしても姿を消した。

ノヴァ戦でも見せなかったブーストとミストーションの同時使用。


これでは足音で位置を絞りきれない。


「くっ..」


アリサは矢を構えながら逃げることしかできない。


レイピアがアリサの腕をかすめる。


次第にアリサの傷が増えていった。

なんとかギリギリで急所を免れているが、このままでは体がもたないぞ。


が、その時クローカーが息を切らして姿を現した。おそらく魔法同時使用によるスタミナ切れだ。


2人とも限界を超えている。


「下位魔法:【氷矢】!」


氷の矢がクローカーめがけて飛んでいく。

レイピアでは受け切れず、クローカーが吹っ飛んだ。


「【氷矢】!【氷矢】!」


いくつもの氷の矢を飛ばす。でもあれは消耗が激しいはずじゃ..

クローカーはスレスレでなんとかかわし続ける。


ついにアリサが膝をついた。


「下位魔法:【ブースト】」


その瞬間を狙い、クローカーが加速する。


「はぁ、【氷矢】」


両膝をつきながらアリサが最後の力を振り絞った。

まだ動けると思わなかったクローカーは、左足に直撃をもらった。


ブーストのスピードと相まって、勢いよく地面に転がるクローカー。


「うおぉあぁ!」


それでも立ち上がり、足を引きずってアリサに近づく。

初めて聞いたクローカーの雄叫び。


倒れているアリサの頭めがけてレイピアを振り下ろした。


「そこまでだ。クローカー。」


レイピアを素手で受け止めたのはアレクだった。


「セトラはもう気を失ってる。お前の勝ちだ。」


「かっ、はぁはぁ。」


クローカーも両膝をついた。


なんとも、激しい戦いだった。


「アリサ!」


リングに駆け寄った時にはすでに回復が始まっていた。


「あっちゃー、私、負けちゃったんだ。」


意識を取り戻したアリサは、明るく舌をペロッと出した。

ここまでいい勝負をしたんだ。相当悔しいだろう。


「何言ってんだ!めちゃくちゃいい試合だった!」


「そう?ありがとうミゲル。」


ミゲルは終始ウルウルしてたからなぁ。心配だったんだろう。


激戦の試合は、クローカーに軍配が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る