第5話 俺、就職した

「いってぇ..」


気付いたときには、床に突っ伏していた。どうなった?扉は開いたのか?

擦りむいたほっぺたをさすりながら、よろよろと立ち上がり周囲を見回した。


明らかにさっきいた場所とは違うと、すぐに察した。教室よりも一回りほど狭い密室に、1人きりになっている。さっきまで触れていた大きな扉も消えている。


「なんだこれ、どういうことだよ..」


不安になりボソッと呟く。すると、


「ようこそ、職を貰いに来たのか?」


突然、低いのに遠くまで届きそうな、透った声が後ろから聞こえた。

さっき見まわしたときは誰もいなかったはずだが..

慌てて振り返ると、そこには男が1人で立っていた。


「あ、えっとそう、です。」


とっさにそう答えたが、見れば見るほど不思議な人だ。

いかにも神官、という格好をしており全身黒の衣装に身を包んでいる。ただ、長い神官の帽子を目が隠れるほどに深くかぶっており、顔ははっきりとはわからない。

声はかなりの年配に聞こえたが、口元はかなり若く見えるため年齢がいまいちピンとこない。


「ステータスをみせたまえ。」


再び低い声でそう言った。

言われた通りにステータス画面を提示し差し出す。



それでは、とつぶやいた後、その男は俺のステータスに手をかざしなにやら詠唱を始めた。

徐々に黒い光が部屋を包み始める。ピリピリとした空気がさらに強まっていく。

やがて黒い光で周囲が全く見えなくなった頃、男は目を瞑りなさいと俺に話しかける。

言われた通り目を瞑り、しばらくすると、


「目を開けなさい」


と声が聞こえた。


ゆっくりと目を開けるとステータス画面は消えていた。


「職がでたよ。ケントウシだ。」

男が伝える。俺が剣闘士?

再びステータスを確認する。職業の欄に、かすれた文字で【剣闘士】と刻まれていた。


「剣を握り、戦士として戦うがいい。それではな。」


男は口早にいうと、指をパチンと鳴らした。瞬間、今度は白い光が部屋を包み意識が薄れていった。



またまた、顔の前に床があることに気がついた。


「大丈夫!?」


ミーサが心配そうに顔を覗き込んでいる。あれ、なんかデジャヴだなこれ。


「いきなり出てきて倒れてるから心配したよ!こんなことないのになぁ。」


え、みんなこんな感じじゃないの。俺なんか嫌われることしましたかね。

悶々と心当たりを探すが、一向に見つからない。


「職業はもらえたの?」


ミーサの声にハッとする。そうだそうだ職だよ。確か、


「剣闘士って職をもらったよ。」


「えっ、剣闘士!?」


ミーサが驚いた声を出す。なにか特別なのか。


「職業にも分類があってね、農家とかの生産職やお店にいる販売職みたいに色々あるんだけど、なかでも剣闘士や魔法使いなどの戦闘職は貴重なのよ!」


ほうほう、レア職業なわけか。やはり俺は強かったわけだな。


「職に就いたときに職与者から武器貰わなかった?ステータスも上がってるはずよ!」


あれ、武器なんてもらったっけ?ステータスも上がってる気はしないが..


HP300 攻撃力75 防御力83 素早さ96 魔法力0


ミーサと顔を見合わせる。

えっと、ステータス.. うん、確かに上がってるな。攻撃力が3だけ。

またもやミーサが気まずそうに口元に手を置く。


「あ、えっとさ、戦闘職は王のもとに行って入隊の試験を合格しないと働けないの。ほら、軍隊の試験受けてみたら!魁斗がこの世界に来た理由がわかるかも。」


ミーサが作り笑顔で笑う。

多分、優しさで言ってるんだろうな。試験に受ければ立派な戦士だと。やってみなきゃわからんぞと。


でもさ、このステータスで戦闘の試験受けるって、ワニのいる川全裸でバタフライするくらい無謀じゃね?


「おっしゃぁ!やってみるわぁ!!」


俺は泣きながら答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る