第3話 千葉県から来た少女

「…じょうぶ..だ..じょうぶ..大丈夫!?」


顔の前で叫ぶ声と、頬を撫でる風を感じ、目を開いた。

目の前には、澄み渡るほどの青いきれいな長い髪に、青い目をした美人が、必死な顔でこちらをのぞき込んでいた。


周りには一面に草原が広がっており、ところどころには大きな木が生えている。遠くには町らしきものも見えた。



なるほど、おおかた暑さにやられて熱中症で死んだ、とそんなところか。

こんなきれいな天使に天国に連れていってもらえるなら、まぁ悪くはないか。父さん、母さん、ごめんよ。



やけに落ち着いている自分が面白くなり、ははっと笑った。


「何が面白いの?あなた本当に大丈夫?どこの人なの?」


おおう、結構グイグイくる天使だな。死ぬ時も色々質問とかされるのな。


「えっと、俺、千葉県に住んでて、高校生です。」


「チバケン?コウコウセイ?どういう意味?やっぱり頭とか打ったんじゃ..」


おいおいおい、美人さんよ、千葉県を舐めすぎなのでは??伝説の遊園地とかあるんだぞ。


「あ、いや、だから日本の..」


「ニホン?やっぱりあなた危ないわ。コウコウセイって職業なの?1回ステータス見せて。」


ステータス?あぁ、競馬のレースのやつか。いやいやそれはステークスだ。えっと、クラスの女子がイケメンと付き合うのはステータスだって言ってたから、でも俺はイケメンじゃなくて..


突然の横文字に動揺したのを見透かされたのか、困った顔をしながら青髪の美人は言った。


「えっと、ステータスの出し方もわからない?じゃあ、左手を胸に当てて、右手を広げながら前に突き出して【マイ・ステータス】って言ってみて。」


俺は言われた通りの構えで、マイ・ステータスと叫んだ。すると、A4の紙1枚ほどの光が右手の前に現れ、複数の文字と数字を映し出した。なんだこりゃ。


「慣れたら構えはいらないから、あなたくらいの年齢なら必要ないはずなんだけどね。」


なるほど、はたから見たら俺は恥ずかしい奴ってことか。


「これは一体何なんですか?」


「これがステータスよ。自分の職業の他に、HP・攻撃力・防御力・素早さ・魔法力の数値が表示されるのよ。本当に何も知らないのね。」


「魔法力?」


「傷を癒したり、炎を出したり色々あるじゃない。」


なるほど、つまり死んだわけではなくゲームみたいな異世界に迷い込んだってことなのか。


一旦状況を整理すると冷静さを取り戻した。


心配そうな美人をよそ目に、自分のステータスをのぞき込む。


職業の欄は空欄になっている。学生というものは存在しないのだろうか。

HP300 攻撃力72 防御力83 素早さ96 魔法力0という数字が確認できた。


ふむふむ、まぁ人間が異世界に来た場合、めちゃくちゃ強いのが定石ってもんだよな。

魔法力がないのは仕方ないとしても、HPの最大値が500、その他のステータスは100でカンストってところか。



「君くらいの年齢だと、各ステータス1000くらいあればなかなかすごいと思う!」




…はは、なるほどね。


「えっと、100ではなくて??」


「なーに言ってるのよ。そりゃその辺の女の子は100くらいかも知れないけど!」



美人があははと声を出して笑う。


ういっす、おいら千葉県からきた少女でっす。


青髪の美人はちらりとこちらのステータスに目線を移した。瞬間、あっと小さな声を漏らし、気まずそうに口に手を当てた。


「いや、えっと、あくまでちゃんと装備したうえでの数値ね!装備してなかったらみんなそれくらいよ!」


それが嘘であることは一瞬でわかった。

ははは、優しいお方だ。黒目が眼球でバタフライしてますよ。


「あの俺..これからどうしたらいいですかね..?」


この謎の世界に加えて、自分の弱すぎるステータスが重なり心の底から出た言葉だった。


「そうね、あなたがなんでこの世界のこと何も知らないのかわからないけど、ひとまず職業を取得するのがいいんじゃないかしら。」


「職業?」


「そう、この世界では一般的に15歳を超えると、ハウスっていうみんなの集会所みたいなところで、その人に合った職業を言い渡されるのよ。」


なーんて簡単な就職活動なんだろうか。現実世界にも採用すべきだな。

まぁやりたいことやれないってのは窮屈な気もするが。


「なるほど、ありがとうございます。じゃあとりあえずそのハウスってとこに行ってみます。」


「待って!ハウスはここから見えるあの大きな町にあるんだけど、私もそこに向かってるの。案内するから君の話聞かせてよ!」


美人が声を張って俺を呼び止めた。

おいおい、俺の青春が異世界で始まっちまうとはな。


「もちろんです!案内お願いします。」


こうして俺は一足早い就活をするため、美人と町へ向かうのだった。

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