第33話 優奈さんと、その人って、なんか親しげな気が…

「どんなものがいいかな? これかな? それとも、これ?」


 街中。

 とあるお店の店内。

 辺りを見渡せば、ぬいぐるみが多く置かれていた。

 だがしかし、店屋の雰囲気は少し古い感じがする。

 いわば、昔ながらのぬいぐるみショップといった面影を持つ場所。

 優奈は店内にあるぬいぐるみを見て、彼女は欲しいものを見つけていたのだ。


「ごめん……なんの力にもなれなくてさ」

「どうしたの、急に?」


 優奈に驚かれる。


「いや、さっきから色々なお店を回っても、成就祭でやりたいことを見つけられなくてさ」

「いいよ。そんなに悲観しないでね。琴吹君には後で、色々と手伝ってもらうから」

「え? 色々と手伝うって何?」

「んん、なんでもないよ。こっちの話。私の独り言だから気にしないで」

「え? なんでもないならいいけど」


 優奈はおどおどした感じに顔を背けて、口ごもっている感じだった。

 色々と手伝うとは一体、どんな意味があるのだろうか?


「まあ、そんなことより、成就祭で何かをするか決めないとだね。私はぬいぐるみを売ったり、そういうことをやってもいいと思うの」

「ぬいぐるみ?」

「うん。だって成就祭は二人が共同作業して将来に備えたり、意識を変えたりするのが目的なの。どんな形であっても、共同作業できればいいって、私の担任が言っていたよ」

「共同作業か……」


 琴吹は将来のことについて考えてしまう。

 数年後、どんなことをしているのだろうか?

 どんな生活をしているのだろうか?


 考えても、その時にならないとわからないことだってある。

 けど、少しでも自分が思った通りの未来を手にするためにも、意識して生活した方がいいだろう。


「でも、そんなに深く考えなくてもいいからね。気楽にね」

「うん……」


 琴吹はただ頷いた。


 考えてみれば、誰かと付き合うという考えばかりで、将来の設計図的なことまでは決めていなかったのだ。

 成就祭期間中に、自分と向き合うべきだろう。


「優奈さんは決まってるの? 将来の事とか?」

「私? 私は大体のことは決まってるよ」

「学園卒業後も?」

「ええ。何事も早めに決めておかないと、将来になってからだと困るでしょ? 大人になってからできることとか、大人になってからではできないことって色々とあると思うの。人生は後戻りできないし、将来を考えながら行動しないとね」


 優奈はすでに決まっているらしい。

 弟や妹の世話もあるのに、先々のことを考えている。

 保育園とかの送り迎えとかもあり。年上の人との関わりもあるからこそ、将来のことについて積極的に考えるようになったのだろう。


 琴吹は見つめ直すべきだと、その時、強く思った。

 今のままでは、優奈のサポートをしてあげるどころか。彼女にふさわしい存在になれないと本能的に感じ取ったのだ。


「ねえ、大丈夫? ちょっとボーっとしてなかった?」

「え? そ、そうかな?」

「そうだよ。もっとしっかりしないとね」

「う、うん……」


 琴吹はゆっくりと頷いた。


「それで、ぬいぐるみ系の販売でもいい?」

「……」


 琴吹は迷っていた。

 本当にそれでもいいのかと。

 今、普通に頷いてしまったら、優奈に頼り切ったままになってしまう。


 自分ができることって……。

 他人に与えられることってなんだろ。

 趣味は……エロ漫画を見ること?

 いや、それだとよくないな。


 別のことを考えないと……。

 如何わしいことだとしたら、絶対に学園の方から。特に、生徒会役員から指摘されてしまうだろう。

 できることって、まだわからない。

 やっぱり、まだ無いのだと感じてしまう。


 しょうがない。

 今はまだ、答えがハッキリとしないのだ。優奈の言う通り、一緒にぬいぐるみの販売でもいいと思った。


「俺は優奈さんのぬいぐるみ売りには賛成かな?」

「本当にそれでいい?」

「うん」


 琴吹は頷いたのだ。

 成就祭を通して、自分ができることを見つけようと思った。


「でも、ぬいぐるみの販売って、どこかにたくさんのぬいぐるみがあるの?」

「うん。あるよ」

「優奈さんの家とかに?」

「いいえ、そこじゃないの」

「え?」

「ちょっと、こっちに来て」


 優奈は背を向け、店内を歩き始める。

 店内のどこに向かうのだろうか?

 そんなことを思いながら、ついていくのだ。


「ここよ」


 店内の端っこにある場所。そこには扉がある。


「でも、ここの扉って、店のバックヤードに繋がってるんじゃ?」

「そうだよ」

「勝手に入ってもいいの?」

「うん。私、許可貰ってるというか、一応、お店の人には伝えていたしね」

「もしかして、このお店の人と知り合いって感じ?」

「ええ」


 優奈は頷く。


「ようやく来たね、えっと、隣にいる子は、彼氏?」


 バックヤードの扉が開き、二〇代くらいの女性店員が姿を現す。金髪で、肩にかかる程度のヘアスタイル。店員にしては派手な感じであり、ぬいぐるみが好きそうなイメージと大分かけ離れていた。


「そうですね」

「へえ、できたんだね。良かったじゃん。いつできるか、不安だったけどさ。それで、どこまでいったの?」

「まだ、そこまではいってないですから……もう、そういうのは、後でッ」


 知り合いの店員と会話する優奈は頬を紅葉させていた。


「はいはい、わかりましたよー、それで、ぬいぐるみの件でしょ?」

「はい。在庫ありますか?」

「ええ、あるよ。じゃあ、こっちにおいで」


 金髪の店員は背を向け、奥の方へと入っていく。


「琴吹君、おいで。こっちにあるから」


 優奈はバックヤードへと足を踏み込んだ。琴吹は後を追う。

 中の通路の端っこには、大きな段ボールから小さなものまで置かれていた。

 お店で使う商品などが入っているのだろう。


 奥へと進むと扉がある。

 そこを通り抜けると、大きな部屋があった。

 店頭で販売する用の在庫や、イベントで使う時の道具などが管理されている場所だ。


「はい、これね。一応、五十個くらいはあると思うからね」

「ありがとうございます」


 優奈は丁寧にお辞儀をする。

 六つほどに分かれた中ぐらいの段ボールが、その部屋にはあった。


「でも、二人で持って帰れる?」

「難しいかもですね。私、てっきり、多くても十個くらいだけだと思っていたので、こんなにも」

「じゃあ、私が優奈の家まで車で運ぶってのは?」

「いいんですか?」

「いいよ。私、あともう少ししたら仕事終わりだし。二人は夕食食べてないでしょ?」

「はい」


 優奈は簡単な返事をする。

 琴吹も当然、まだであった。


「車で送っていくからさ。家にいる弟と妹を連れて、外食でもしない?」

「え、いいですよ」

「いいじゃん。遠慮しないでって。優奈に彼氏ができた記念ってことでさ」

「まあ……しょうがないですね。わかりました。でも、うちの弟、どれだけ食べるからわからないですよ」

「まあ、育ち盛りだからいいじゃん。でも、優奈も体には気を付けなよ。何かあった時は協力するから」

「うん。いつもありがとね」

「いいから、気にするなって」


 彼女は随分と親しいようだ。

 どんな関係なのだろうか?

 そんな疑問を抱きながらも、二人の会話を耳にしていたのだ。

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