実の妹から「お兄ちゃんまだ、好きな人できないの?」とバカにされたので、本格的に好きな人を見つけようとした結果…⁉

譲羽唯月

第1話 お兄ちゃん、まだ彼女ができないのWWW

「ねえ、お兄ちゃんはいつになったら彼女を作るのー? まあ、パッとしないお兄ちゃんのことだし。無理かな?」


 リビングのソファに座ってスマホを弄っていた日紫喜琴吹に対し、お風呂上りの妹が嫌みな発言をしてくる。

 妹は普段、ショートヘアなのだが、水に濡れ、少しだけ肩まで髪が伸びているように見える。体は白いバスタオルで隠しているものの、スタイルの良さが引き立っていた。

 胸はそんなに大きい方ではない。

 性格には癖があり、積極的なのだが、そういったところは消極的なようだ。


 夜十時半を回った頃合い、日紫喜家の夕食はすでに終わり、あと寝るだけ。

なのだが、面倒な妹と一緒に会話しなければならないんだろうか。と、琴吹は内心、思うことがある、この頃。


「別に、心菜には関係ないだろ」


 琴吹は妹と目線を合わせない。


「関係ないって。一応関係はあるよ」


 心菜はさらに距離を縮めてくる。

 お風呂上りという事もあり、シャンプーの匂いが強く漂ってくるのだ。


「ど、どういう風に?」


 琴吹は女の子らしい妹に動揺してしまう。


「私はこんなにモテてるのに、お兄ちゃんが地味だとね。いっつもクラスメイトから比べられるんだもん。私も学園での立場もあるし。そういうところを考えてよねッ」


 心菜から軽く指摘されてしまう。


 そもそも、一つ年下の妹の方は、学園内でベスト3に入るほどモテる美少女と言っても過言ではない存在。

 なんでか知らないが、琴吹が二年に進級した五月になってから、やけに突っかかってくるのだ。


「あとね、私。今月もねラブレターを、もう五枚貰ったの。どやあ」


 自慢げに言う妹。


「へえ、そうなんだ」

「なに、それ。何も思わないの?」


 妹からジト目で睨まれてしまう。


「まあ、というか、なんで俺が気にしないといけないの?」


 琴吹は横目で妹をチラッと見る。


「なんでって、妹の私がこんだけ貰ってるんだから、お兄ちゃんも貰える努力したらってこと」

「そうか」


 実際のところ、琴吹はモテないことをめちゃくちゃ気にしていた。


 それを実の妹から言われると、舐められないように対抗意識を燃やしてしまうのだ。

 こんな性格どうにかしないといけないと思っているものの、妹の発言一つ一つが気に障り、今のところ、そういったところは治りそうもない。


「なんで、そんなに気にしないの?」

「な、なんでって……そういわれてもな」


 琴吹はスマホ画面を下にして、ソファ前のテーブルに置いた。


 血の繋がった兄妹同士。

 そこまで妹に恋愛的な感情など抱いたことが無い。

 だからこそ、心菜が男子生徒からモテてもなんとも思わないのだ。

 妹の容姿は、兄である琴吹の視点から見ても可愛らしい。

 ただ、妹の性格を知っているから、そこまで心が靡くことはなかった。


「もう、少しくらいは意識してよねッ」


 心菜は耳元でこっそりと囁くように言う。

 琴吹は本能的に距離を取る。


「い、意識してって言われてもな。無理というか、何というか」


 実の妹から誘惑されるのは嫌だ。


「ねえー、お兄ちゃん? そんなことより、好きな人っているの?」


 馬鹿にするような話し方。


「す、好きな人か……」


 今のところはいる。

 同じクラスメイトの子なのだが、その子にはもう付き合っている人がいるのだ。

 結果として、告白まで至れる勇気など出せなかった。


「いや、いないけど」


 軽く嘘をついてしまった。


「そう、なんだ」


 心菜の頬が柔らかくなったような気がする。


「なんだ、少し嬉しそうに」

「はッ、違うし、私は何もッ」


 妹は激しく反応を見せていた。

 なぜ、そこまで慌てているのだろうか?

 それが不思議でならない。


「でも、好きな人くらいできないと誰とも付き合えないよー」

「余計なお節介だよ」


 素っ気なく答えた。

 心菜との会話を強制的に終わらせたかったからだ。

 少し疲れてきた。

 そろそろ、心菜も休んでほしい。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「なに?」

「来月。成就祭、あるじゃない?」

「え、まあ、そうだな」

「それまでに好きな人くらい決めたら?」

「わかってるよ、それくらい」


 琴吹だってわかっている。

 そういったことを直接言われると、イラっとしてしまう。

 成就祭までに彼女が欲しいのは事実。

 だからこそ、余計に焦り、苛立つ。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「なんだよ」


 少し面倒くさそうに反応を返す。

 まだ、そこにいるのかと思った。


「試しに、私の裸体見てみる?」

「は? い、いいよ。……というか、なんで?」


 驚き、視線をどこに向ければいいのか、困惑する。


「だって……そうしたら、女の子に興味を持つようになるかなって」


 心菜は体を包み込んでいるバスタオルに手をかけていた。


「おい、なんでそういう発想になるんだよ」


 慌てて両手で目を隠す。


「へえ、こういうのも恥ずかしいって感じ?」

「違うから」


 琴吹は必死に抵抗している。

 だが、そんな事とは裏腹に、妹はバスタオルを外そうとしたりするが、焦らすように体の大事な部分を見せようとはしなかった。


 そういうのやられたら、余計に恥ずかしくなるだろ……。


「ねえ、見たい? 見たいでしょ?」

「いいから、明日も学校だろ」


 頬を赤らめ、激しく反応する。


「もうー、なに? 見たくないの?」

「いいよ。妹のなんかさ」

「もう、何よッ」


 妹は強めの口調で、言葉を言い放つ。


 う、煩いな。

 今、夜なんだけど……。

 琴吹はキンキンする耳を抑えていた。


「もう、そういうのがダメなのッ」

「じゃあ、見た方がいいのか?」


 戸惑いつつ問いかける。


「は? ば、バカ、み、見せるわけないでしょ」


 妹はバスタオルを強く押さえていた。


「いや、さっきは見せるとか何とかって」

「さ、さっきは、さっきよ。見せるわけないじゃない、バカ、死ねッ、お兄ちゃんの童貞ッ」

「ど、童貞って……」


 図星を突かれ、心に強く刃物が刺さった感じになる。

 く、苦しい……。


「もう、休むからッ」


 心菜は強めに言い残し、リビングを立ち去って行く。

 はああ……。

 ホッとしたような、残念だったような、複雑な心境だった。

 にしても、なぜ、そこまで怒る必要性があるのだろうか?


 ようやく静かになったのはいいのだが、妹と一緒にいるのは大変だと日々、身に染みて思う。

 いつも色々な意味でヒヤヒヤさせられるし、彼女いない事を話のネタにしてくるしで、いくら心に余裕があっても保てない。


「というか……成就祭か」


 来月、毎年恒例の謎めいたイベントが学園内で開かれる。


 桜双木学園では、三年前から行われるようになった企画らしい。

 琴吹は入学する前から、そのことは知っていたが詳しくは知らなかったのだ。

 付き合っていない人に恋人ができる、そういったイベントだと思い込み、入学当初はワクワクしていたが、それは大きな間違いだった。


 彼女がいるという前提で行われる企画らしく、彼女すらいない琴吹はそもそもが論外なのだ。

 イベントに参加するためには、自分の力で恋人を作るしかないらしい。


「早いところ、彼女くらい見つけないとな」


 琴吹が通っている学園では恋愛することも一応、評価対象になってくる。

 去年は一年生ということで、特に問題はなかったのだが、二年と三年は本格的に成績に影響してくるのだ。


 片思い相手には好きな人がいるみたいだし、一から探さないといけないか。

 琴吹は大きなため息を吐き。ソファから立ち上がる。


 テーブルに置いたスマホを手にした。

 その画面上には、学園内にある部活――恋協部の公式ホームページが表示されていたのだ。


「まあ、明日はこの部活に相談しに行くしかないよな」


 部屋の電気を消し、二階の自室へと向かうのだった。

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