一隻の船に乗り込んで…

ハル

第1話 一隻の船に乗り込んで…

「優季(ゆうき)良いわね?」と、母親


「えっ?ちょ、ちょっと待っ…」


母親は、私の部屋を訪れたかと思うと、そう言い残すと部屋を出て行く。



バタン。



「どういう事?好きでもない人と結婚!?」



私、嘉河 優季(よしかわ ゆうき)。

18歳。


訳が分からないまま、トントン拍子に勝手に進めていかれていた。


私は別に、お嬢様とか、そういう環境に育ったわけではない。


普通の家に育った女の子だ。


父親は気付いた時はいなかった。


だから母親一人で私を育てていた記憶しかない。


そんな母親が私の許可なく結婚式とか話を進めているのが理解出来なかった。


一体、母親は何を求めているのだろう?


何が何だか分からない。



そして、ある日の事。




バタン

私はとある式場に私は連れて来られ部屋に入れられた。



「お母さん!ちょっと待って!私はまだ、結婚しないよ!」


「さあ、着替えて」


「お母さんっ!ちょっと!聞いてっ!」


「じゃあ、後、お願いね」



部屋にいる、スタッフにと思われる数人の女性に言う母親、


そして、私は強制的に純白なウェディングドレスに着替えさせられ、タイミング良く母親が現れた。




「まあ…綺麗ねー。流石、私の娘だわ」

「…お母さん…ちょっと話を…」

「式が楽しみね」



そう言うと出て行く母親。

私は、母親の横を横切り純白のウェディングドレスを着たまま式場を飛び出した。




「ちょ、ちょっと優季っ!優季っ!待ちなさい」



そして偶然に港から一隻のクルージングの船が出て行くのがあり、迷う事なく乗り込んだ。



「優季っ!待ちなさいっ!何処行くの!優季っ!」


「好きでもない人と結婚なんて出来ないよっ!強制的に私の許可無く、相談なしに話を進めないでっ!勝手な事しないでっ!」



「後ろの方がヤケに騒々…」



俺は声のする方に目を向けた。



「………………」



クルージング船の船の後ろには純白のウェディングドレスを着ている花嫁姿をしていた女の姿があった。




「しばらく放っておいて!」




彼女は港にいる人影に叫ぶように言っている。



「優季っ!…っ…」




港にいる人影が地面に倒れ込んだ。



「お母さん…?」


「…船、戻そうか?」




ビクッ


背後から声を掛けられ、驚き振り返る視線の先には男の人がいた。



ドキン

胸が大きく跳ねる。



「心配なんだろ?」

「い、良いよ!戻さなくても良いからっ!このまま私を連れて行って!」


「断るっ!戻れっ!今、船を港に戻すっ!」


「嫌っ!」




私は男の人の腕を掴む。




「冬流(とおる)!船を戻せっ!」


「えっ?」



《一人じゃ…ない…の…?》




「何やてーーーっ?」



関西系の返事が前の方から返ってきた。




「船を戻せと言っているんだっ!」


「駄目っ!戻さないでっ!」


「女の声…?…何で女の子が乗ってんねん…」



「だったら海に飛び込んで泳いで戻れっ!」


「なっ…!そ、そんな無茶苦茶な事…レディに対して言う台詞!?」


「お前は十分に無茶苦茶な事してるだろ!?挙式場から逃げて来て人の船に乗り込んでんだぞ!」


「どうして…分か…」


「その格好見れば一目瞭然だっ!」



「なあ、隆樹、どうすればええか分からんくて船止めたで〜」




もう一人の関西弁で私達の前に現れた。




「どうしたん?何か女の声…」



ドキッ


目が合った。


「女の声の主はあんたかっ!ちゅーか…その格好って…」



「………………」



「男に逃げられたんか?」


「ち、違います!」


「あー、逃げて来たの間違いか。ちゅーか、結婚詐欺かっ!?」


「なっ…!ち、違います!人聞きの悪いっ!」


「嘘やっ!あんた戻ったええで!あんたを連れて行くわけにはいかへんのや!」


「嫌っ!好きでもない人と結婚なんて!」




「………………」



「…な、何?何なの!?」



「…………」



「…わ、分かりましたっ!戻れば良いんでしょう!?戻ればっ!」




私は海に飛び込もうとした。




グイッと引き止められると、すぐに離された。




「アホちゃうか!?」


「泳ぐなんて戻る前に死ぬぞ!港からは随分と離れているんだ!お前、頭イカれてんじゃないのか?」


「いやいや、イカれ過ぎやっ!」


「だって!だいたい最初に飛び込んで戻れって言ったのあなたでしょ!?」




私は最初の男の人を見て、きつく言った。




「事情を知らない俺だ。お前が、どうなろうが知った事ではない!」


「…やっぱり飛び込んでやるっ!!」



グイッ  ドサッ


腕を掴まれ男の人は私を押さえつけた。




ドキン


「ちょ、ちょっと!離…」


「冬流、船を出せ!」


「ええの?女やで?」


「構わんっ!この女は戻る気などない!無茶苦茶な事を言い出す!面倒だが、それに飛び込まれて死なれた祟られたら逆に迷惑だ!連れて行く!」


「りょうか〜い」


「は、離してっ!戻る気などないとか、どうなろうが知らないとか。だいたいあなたが戻れと言わんばかりに言ってたんでしょう!?」


「言ったが?」



「……………」



「離してっ!」


「離して飛び込まれては困る!大人しくするなら離してやっても良いが?」



「……………」



「そ、そんなの…」



「……………」



「どうするんだ?まあ、随分港から離れたが、本来なら、お前を連れて行くわけにはいかない」



「……………」



「しかし、現状が現状だ」



「………………」



「わ、分かった!分かりましたっ!大人しくします!」




男の人は離れた。




「お前、名前は?」


「えっ?優季…嘉河 優季」


「俺は、緒久 隆樹(おく りゅうき)。運転している奴は、三木 冬流(みき とおる)だ。お前、いくつなんだ?」


「18」


「18!?未成年なのか?」


「うん。2人はいくつなの?」


「冬流が19で、俺が20だ」


「余り年齢差ないんだね」


「そのようだな。取り敢えず、その格好を何とかしないといけない」


「そうだね。だけど、私、お金持ってないよ」


「言われなくても分かってる。逃走して来たんだからな」




微かに微笑む彼に胸の奥が小さくノックした。


二人は私の面倒を見てくれる事となった。



それから数日後。


あの後、母親は病院に搬送されたものの永眠した事を聞いた。


持病の心臓病と末期ガンに侵されていた事を知った。


私は、そんな事だったとは知らず、何も聞かされないまま、とにかく母親は私の花嫁姿を見たかったのだろう。


話によれば結婚相手などおらず、ただ写真を撮りたかったという事だった。


分かっていれば、話してくれれば理解してあげれたかもしれないのに―――



あれから一週間私はぼんやりとする日が続いた。




「なあ、アイツ大丈夫か?魂抜けとるんちゃうか?」


「仕方ないだろう?母親が亡くなったんじゃ。しかも、最後に見た姿があれだ」




「………………」





そして―――――



「優季、船から降りるで」


「船から?」


「せや。ずっと海ばかり見てるのも飽きるやろ?しかも、お前、船内に閉じこもったままやん。そのうちキノコとカビが生えてくるで!」


「キノコとカビって…気持ち悪いよ」


「でもな、お前のキノコは毒キノコやで?例え食用かてまっずいで〜」





ムカッ


冬流の一言に腹が立つ。



「冬流っ!」


「うわっ!」



後を追う私。



私達は騒ぐ中、ふと



「優季」


「何!?」



バサッと私に向かって洋服が投げられ受け取る私。




「着とけや」


「えっ?でも…冬流…」


「そいつは鉄の塊だ。寒さなんて感じない」


「そう…実は俺、鉄の塊やねん…って…何でやねん!俺はロボットかっ!人間や!」



私達は騒ぎ船から降り街をブラついた。


私は慣れない街と久しぶりの陸でハシャグ中、夢中になっていた為、周囲が見えておらず



「Hey! you!」



ビクッ



《うわ…え、英語っ!?》


《が、外人!? 無視、無視!》




しかし、彼等はしつこかった。



《二人とも何処に行ったの?》

《私、完璧迷子ちゃんだし》





そして――――




ガシッ


私の肩を掴まれる。



ビクッ

肩が強張った。




「What do you want with me? She is my girlfriend」




ドキッ



声のする方に目を


「…隆…樹…」



「Oh! no.your girlfriend?」


「Yes!」


「I'm sorry…!very cute do voice rooking」



そう言うと男の人は去って行った。




「全く!探したぞ!」

「ごめん…ありがとう…」

「別に。仕方なく面倒見てるからな」

「仕方なくって…」


「事実だろう?」


「感じ悪っ!ねえ、ところでさっき何ていったの?」


「さあな。その脳みそでよーく考えたらどうだ?」


「何それ!」




私達は再び街をまわった。













































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