二章

第一話 [ププローグ]

嫌な予感がしたんだ。


いつもはいい予感しかしなかったのに


今日は嫌な予感がしたんだ。


僕らはなんでもできる気がしていた。


人間には、超えられない壁がある事を


僕たちは、理解する事になる。


エルナ……君は今何を考えているのだろうか。


「逃げろぉぉぉおお。今の俺たちじゃコイツと戦っても死ぬだけだ!!」


<<<<<<<<<<<<<<<


 時は、さかのぼり、《最難関ダンジョン》正式名称終焉の洞窟。入り口前


「凄い。こんなでかい門なんて見たことない。」

「気を引き締めて行けよ。」

「アルト様もユイさんも一人で突っ込まないでくださいね?」


  俺たちは、最難関ダンジョンの門に触れる。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと音を立て、扉が開く。


「あっかんやわー」

「ユイのたまに入る関西弁はなんなの?」

「なにそれ?」

「知らんのかよ!」


 ドアの先には下に続く階段があり、俺たちは一階層に進む。気温が下がり、肌寒くなる。一階層に降りた先に待ち構えていたのは、コウモリの大群だった。


「ピィーーーーー!!!」


 コウモリ達の警戒音がダンジョンに鳴り響く。くそっ。頭がいてぇ。耳を塞ぎ鑑定アリでコウモリを調べる。


____________________


【マラカスバッド】


侵入者を見つけると警戒案を鳴らす。

自ら攻撃をする事は、無いとされている。

怒らせたら、地の果てまで追いかけてくる。


____________________



「エルナ!ユイ!絶対に手を出すな!!」


 耳を塞いでいるので出来るだけ大きな声をだして、エルナ達に伝えようとする。二人とも俺を向いて頷いた。マラカスバッドの鳴き声が止み、耳を塞ぐのを止める。


「凄い音、耳が壊れるかと思いました。」

「大丈夫か?エルナ。」

「はい。問題はありません。」

「僕の心配は?」


俺はユイの方を向いた。ニコニコとしている様子だったので無視して進む。


「ちょっと待ってよ〜。」


  ユイはフラフラしながら俺に近づく。ダメージ食らってたのに、我慢してたな。ユイをお姫様抱っこで持ち上げた。軽いな…ちゃんと食べてるのか?


「辛いなら辛いって言えよ。」

「ごめん。」

「ユイさんは後でお仕置きですね。」


 一本道のダンジョンを警戒しながら進む。モンスターに出会う事が無く、順調ってとこだろう。順調すぎて、少し不気味さを感じる。なんせここは、最難関ダンジョンなのだから。


「おかしいです。」

「どうした?」

「モンスターが居なさすぎます。」

「いないと不味いのか?」

「強力なモンスターが、弱いモンスターを捕食してる場合があります。その状況に近い物だと考えます。」


俺たちが出会ったのは、最初のマラカスバッドだけ。ダンジョンには通常様々な種類がいるとされている。イレギュラーケースとしてそう言った事態がある事も、文献で記されていた。『ダンジョン攻略講座』ダンジョンの役立つ情報が載っている本だ。


 冒険者になる時、初心者講習で教科書になる本。スキルの使い方。野営の仕方。なども細かく載っている。しかし書いてある事の殆どが、再現不可能な物が多く。必要な箇所だけ、勉強する。誰が書いたか不明であるが、高ランク冒険者が書いたとされている。


「たしかに、気をつけた方がいいな。教えてくれてありがとう。」

「感謝は不要です。仲間ですから」


 強敵の戦いに備えてアルファ・ベータ・ガンマを呼び出した。アルファ達は俺たちの前を進み安全確認をしてくれる。万が一罠があってもアルファ達なら問題なく突破できる筈だ。


カチッ!


 アレ、アルファさん何か音しましたよ?上から槍が降ってきてくるが、アリの皮膚を貫通することは出来ず、槍の方が壊れた。心臓に悪いから、罠踏まないで欲しいな。アルファ達は罠を気にも止めず前に進むのであった。


「なにあれ………。」

「アルト様鑑定して貰えませんか?」

「わかった。キィ頼む」


【転移石】

 触れると、ダンジョン内の何処かに転移される。

 

「転移石だ。触れるとダンジョン内の何処かに飛ばされるらしい。」

「離ればなれになったら大変です。触れないようにしましょう。」

「僕も賛成〜!」



 運が良く先に進めるかもしれないが、リスクを取ってまで急ぐ必要はないだろう。俺たちはまた、歩き始めようとした時、地響きがした。振り返るとそこには、真っ赤に光る目が俺たちを見ていた。


 2本の頭の横に生える角、黒い体毛で覆われており、猿と牛を足して二で割ったような。ミノタウロスをよりモンスター化したような、見た目であった。


「金獅子……。」


 エルナが震えながら声を出した。あの猿みたいなモンスターが伝説の金獅子とでも言うのか?!


「グォォォォォオオオオオオオオォォォ」


 金獅子は両手を振り上げ雄叫びを上げる。次の瞬間、腕を交互に振りながら俺たちに近づいてくる。


「エルナ!ユイ!戦闘体制!!」

「了解!」

「承知しました。」


「鉄塊!」


 ユイが俺たちの前に出て、振り下ろされる腕を受け止める。エルナが隙をついて金獅子に触れるが、何も怒らなかった。嘘だろ。何が起きてるんだ?


「アントビースト!貫け!酸貫神槍(バリスタ)」


 ドカンッ!!!と金獅子に当たる。



「嘘だろ………。」

 

 バリスタを食らったはずの金獅子は、無傷で立ち上がる。標的を俺に定め猛スピードで、突進を仕掛けて来た。金獅子は体を大きく広げ、自身の体重に

任せて倒れる。金獅子の攻撃から俺を逃す為、ユイが俺にタックルをして吹き飛ばす。


「ユイ!」

「ユイさん。」


 踏み潰されたユイが剣を杖にして立ち上がる。ボロボロになった体を無理やり起こし、口から血を吐く。


「ごめん。僕。もう役立たないかも。」


 苦笑いをするユイ。


「殺してやるよ。クソ猿。」


 アルファ・ベータ・ガンマを呼び出した。一瞬で良い。時間を稼いでくれ。


 爆弾アリ達が金獅子に向かって突撃をする。毒アリ達も毒霧領域を吐いて相手の動きを鈍らせた。


「吹っ飛びやがれ!」


 次々と爆弾アリが金獅子に向かって自爆特攻を仕掛ける。よろめく金獅子に、追い討ちをかけるようにガンマが巨大化して噛み付いた。


「グォォォォォオオオオオオオオ」


 一瞬だった。ガンマの頭に金獅子の拳が辺りドーンと音を立て、地面に埋め込まれた。地面にヒビが入り、地震が起きる。一瞬。時間にして0.1秒。金獅子を抑えられた時間だった。それでも良く稼いでくれた。その一瞬を使い俺は金獅子に触れる。



「食べ尽くせ!!捕食(エフージオ)!!!!!」



 金獅子の周りに黒い渦が現れる。金獅子を飲み込み俺は勝利を確信するのだった。



「危なかった。せっかく貯めたレベルを使っちまった。」

「仕方ありません。相手は金獅子ですから」


「ねぇ、あれって………。」

 俺たちの目の前には、片腕を失った金獅子が俺を睨みつけていた。どんな生命力してるんだよ。くそったれ。もぅ戦える体力残ってねぇーよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る