白い妖精(ep01)

猫鰯

白い妖精



 “それ”に気が付いたのは高校の頃。正確に言えば小学生の事から気がついてはいたが、意識したのが高校の頃、思春期真っ盛りの頃だ。


 僕、矢島圭太は昔からフケに悩まされていた。今でこそ頭皮の状態が原因だとか、スカルプケアが~という話が浸透しているが、昭和~平成初期は『圭太は汚いからフケがでるんだ』『頭洗ってねぇだろ』『えんがちょ』と言われたものだった。    

 みんな僕を敬遠した。今の時代ならイジメと認定されたかもしれないけど、昭和なんて時代は大体が「お前がわるい」ですまされていたような時代だった。


 だから僕は「金田一耕助」を生み出した横溝正史が大嫌いだし、映画で頭をバリバリかいてフケを散らかす石坂浩二を恨みもした。

奴らのせいで“フケ=汚い”というイメージが定着してしまったからだ。



 大学に入り僕は心理学を専攻した。特に目的があったわけではなかった。本当に何となく、そこの学部が入りやすそうだったからだ。フケのせいで相変わらず友達も彼女もいないが。


 授業はと言えば特別面白くもなく、社会に出るため“大卒”という肩書きの為に我慢していただけだった。 


 それでも一つだけ、授業の合間に教授が話してくれた内容に興味を持った。


 『固定観念を覆す新しい価値観の想像。自己催眠とまではいかなくても、強い思い込みで自身の思考を変えていく事が出来る』


 知った以上は試してみたくなる。何で試すか? 最初の一歩だ。かなり重要である。ぼーっと考えながら机の上を見た。フケがかなり落ちている。いつもならその都度卓上クリーナーですいとるのだが、何となくフケを見ながら……


「白い……妖精…………だったら」


 等と考え始めてしまった。




 パラパラと舞い散る風花のごとき白い妖精達。

 机の上に落ちてからも、ヒラヒラと舞い踊り、僕を楽しませてくれている。

 いつでもどこでも常に僕と一緒にいて、時には肩にとまって微笑んでいる。

 今度からは良く見える様に黒い服を着る様にしよう。

 なんか、歌詞とか作れそうだな。

 ハミングでもしようか!


 ……お、段々楽しくなってきたぞ。


 妖精さんそんなところに隠れてないで出て来てよ!

 デスクマットも黒いヤツにしたからさ。

 どこに行っても話し相手がいる。

 どこに行っても友達がいる。

 そのうち愛も生まれるかもしれないな。

 妖精さんって、多分女性だよね?

 まあ、男同士でもいいや。

 今度一緒に旅行に行こうか。

 マックに行く? 行っちゃう?

 横溝先生ありがとう!

 石坂様尊敬します!



 ……だが突然、そんな幸せの瞬間をぶち破る悪魔の声!


「圭太、さっさとお風呂入っちゃいなさい!!!」


「うるさいな~! 今忙しいんだよ!!」 


 それでも何度も何度もこの大事な時間を――

 妖精さんとの愛の時間を――

 さえぎられるのは我慢できないので仕方なく風呂に入ってくる。


 シャンプーをして、そのままドライヤーなんかしないで自然に乾かす。他人はどうか知らないけど、僕はそれでいつもより多くの妖精さんを呼び出せるようになる。

 急いで部屋に戻り、邪魔されないように鍵をかける。このまま30分もすれば、妖精さんが大勢出て来てくれるんだ。


 楽しみすぎるぞこれ。

 なんでみんなこんな楽しい事をしていないのだろう?


 30分……


 45分……


 1時間経過。


 髪の毛は完全に乾いているのに妖精さんが出て来てくれない。途中で風呂になんか行ったから怒っちゃったのかな? ……でも、愛があるから大丈夫。またすぐに出てきて楽しくおしゃべり出来るさ。


 それにしても、全然出て来てくれない。

 なんで?そんなに怒っちゃったの?


 どうすればいいんだろう……




 そろそろ寝る時間だ。歯を磨きに行かなきゃ。妖精さんが出て来てくれないのは気がかりだけど、一晩経てば機嫌も直るかもしれないね! さっさと歯を磨き、タオルで口の周りを拭く。


 何となく、本当に何となく、洗面所の隣の風呂場をのぞき込んでみた。そう言えば、初めて見るシャンプーがあったな。さっきは妖精さんの事で頭がいっぱいになっていて気にせず使ったけど。


 これは……


『フケ専用シャンプー:フケにお悩みの方専用処方!一回のシャンプーでぴたりと止まります!』


 な………………に………………



 ああ………………



 うああああ……………………






 愛をなくした。



                              完。






以下宣伝です。面白さ1200%です!是非ご覧ください(*´▽`*)


【代表作です】

・ジュラシック・ティル ~猫耳転生と恐竜少女~(イラスト有り)

https://kakuyomu.jp/works/16816927863216898353

 恐竜を変身させるスキルを与えられた、アラサー呑兵衛猫耳美少女の八白亜紀やしろあき。戦闘力ミジンコだけど、度胸とブラフは超一流!

 闘う相手は、異世界から転移してくる魔王軍。人類が産まれる前に行って地球を占領しようというセコイ作戦だ。

 ジュラシックカーストNo.1のティラノや、もふもふ可愛いサーベルタイガーの子。様々な能力を持った恐竜娘達と、人類存亡をかけた戦いに挑むバトルコメディ。



【完結しました】 圧倒的な読後感を保証します!

・still Alive~無双できない世界なので、知識とハッタリで乗り切ります!~(イラスト有り)

https://kakuyomu.jp/works/16816927859914882626

 昔からこの世界は転生者だらけ。二世や三世も生活している。現代社会の文化が流れ込み、独自に技術発展していく国と街。転生者は皆、誰もが魔法を使え突出した能力なんて無い。むしろ持ち込まれた重火器の方が断然強いという不文律。そして、回復・蘇生魔法なんて存在しない……。

 そんなアンバランスな世界に渦巻く陰謀。立ち向かう主人公達。持てる武器は“そこそこの知識とハッタリ”だけだった。

 生死ギリギリの物語をコメディタッチで展開する非無双系ダークファンタジー。



【軽いテイストの異世界ミステリーです】

・異世界探偵 パティ・ウインク ~その悪意、すり潰して差し上げますわ~

https://kakuyomu.jp/works/16817330651947540755

 信頼と実績のウインク探偵事務所へようこそ。凶悪事件から魔法犯罪まで、どんな難事件もたちどころに解決してみせます。

 僕は、ウインク探偵事務所所長パトリシア・ウインク先生の助手にして唯一の弟子、エリオット・クレーシ-です。

 小さな事務所なのにも関わらず、今日も飛び込んでくる難事件の依頼。さてさて、優秀な僕がサクッと解決いたしますか!


※上記 still Aliveのヒロインを主人公にしたスピンオフ的物語(もちろん単体で読めます)


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