第14話 接待のプロフェッショナル
冒険者ギルドから出た時には辺りが暗くなり始める時間帯であった。
不意にクレアのお腹がグゥっと音をたてる。
「あ、エヘヘ。お腹空きましたねぇ」
「食事か。貴様ら、何処か食事ができるところに案内せよ」
「あー、そうっすね…」
ラキバは腕を組み考える。
普通の食事処では、また混乱になるのは確実。であれば高級かつ個室である事が良いだろう。
「ちょっと高いっすけど、そこで良いですかね?」
「おい、ラキバ。まさか彼処か?」
「貴様らに任せる。娘よ、それで良いな」
「高いんですよね…? お金足りるかなぁ…」
ラキバは教会から食事代は出すとのことでお金の心配は要らないと言う。それならクレアが断る理由は無い。
「では行きましょう!」
ラキバに案内されてついたのはキラキラと色鮮やかな光を放つ店であった。
ラキバはちょっと此処で待ってて欲しいと言うと1人店の中へ入って行く。
「あのぅイェクンさん。ここって…」
「申し訳ない。確かにここならばそれほど混乱も起きないと思うが…バティン様をこんな所に案内して良いのだろうか…」
「何やら眩しい光を放つ店であるな、集客の為に光っているのか?」
バティンは何のために光を放っているのか分からず、興味をそそられているようだ。
すると、ラキバが戻ってきた。
「お待たせしましたっす。じゃ行きましょう」
店に入ると、執事のような恰好をした男が一行に声をかけてきた。
一瞬、バティンを見た際に身体が硬直し目を見開いたように見えたが、今までと違い混乱する事は無かった。
「はぁ〜、凄いですねぇあの人」
「うむ、我を見ても平静を保っておる。我としてはつまらぬがな」
「バティン様、あれ楽しんでたんすか? やっぱ悪魔だわこの人」
通された部屋は個室、4人では些か広すぎる気がするが、テーブルや椅子、置かれている調度品に品があり豪華であった。
「では、お食事をお持ちしますので少々お待ち下さい」
そう言って案内してくれた執事風の男は退がる。
ラキバに言われるがまま、椅子に座り食事を待つバティン。
クレアはフカフカの椅子にえらく感動してのか何度も座り直している。
椅子の数が人数よりも多いが、大人数用なのかな?とクレアはさほど気にしなかった。
それほど待ち時間も待たずに部屋がノックされる。
「お食事をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」
「お願いしまっす!」
ラキバが返答し、部屋のドアが開かれる。
すると、執事風の男に加え、扇状的な格好をした女性が数名食事を持ち入ってきた。
そして、そのまま座っている各々の横に女性が座る。
(あ、此処、こういうお店だ)
クレアは気付いた。
ラキバとイェクンを見ると、ラキバはウインクし、イェクンは眉間に皺を寄せてこちらと目が合わない。
「此奴らはなんだ?」
「お食事のお手伝いをさせて頂きますわ。皆様はどうぞゆっくりとして下さいませ」
バティンが問うと、その隣に座った女性が答える。
そして、この女性達もバティンを見て怯えるどころか積極的に給仕をする。
ラキバが事前説明していた事もあるだろうが、それでもプロ中のプロである事はわかった。
「そうか、では世話になろう」
「はい。どうぞお食事をお楽しみ下さいませ」
こちらも流石悪魔の中の上位者。世話されることに慣れている。
クレアのような一般人は見た事の無い料理の数々。
バティンは料理についてアレコレ隣の女性に質問し、それを淀まなく応える女性。
クレアは年上のお姉さんに可愛がるように世話を焼かれ、恥ずかしさから顔を真っ赤にして縮こまってしまっている。
「どうっすかバティン様? 美味しいでしょ?」
「うむ、食事もさることながら接客の者共の仕事が見事である」
「あら、お褒め頂き有難う御座います」
「しかし、貴様らは我を見て何も思わぬのか? 悪魔であるぞ?」
問われた女性はニコリと微笑み返答する。
「こちらに来られる方はどのような方でもお客様でありますので、私共は区別を致しませんわ」
「ほぉ、成程。天晴れな心意気であるな」
「しかも、こんな素敵な殿方であれば寧ろ余計に熱が入ってしまいますわ」
凄い。
恐らくバティンの性質を見極め、「ここまでなら問題無し」と線を引いてるのだろう。
だからあのような持ち上げる台詞が出てくる。
だが、クレアは何だか知らないが胸がキュっと苦しくなりイライラとしてきた。
「あら? ウフフ。これ以上は止めて置きましょう。お嬢さんがヤキモチを焼いてしまうわ」
「娘よ。そのように頬を膨らませるほど食べ物を詰め込んではならんぞ」
「知りませんっ!」
クレアはヤケクソ気味に食事をかき込む。
何も問題は起きず、終始穏やかに食事は終了した。
「中々の食事処であったな」
「でしょ? ここはマジで高いんすよ。その分の満足は出来ますけどね」
「ラキバさん、よくこんな店知ってましたね?」
クレアはジト目でラキバを見る。
「ま、接待用っすよ。教会のお偉いさんとか来た時に来るんすよ」
「バティン様をこのような店にお連れしてしまって良いものか不安でしたが…ご満足頂けたなら良かったです」
「イェクンは心配症すね」
美味い食事に美味い酒、それに美女。
彼等は大いに楽しめた。
だが、彼等は知らない。これから戻る教会で起こる事を。
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