第4話 大混乱

 目的地の村へ着いたバティンと少女クレア。

 村の入り口に到着するや否や、クレアはその場に座り込んでしまった。


「こら、娘。何を座っておる、ここで商売をするのだろう?」

「そうですけど…ちょっと腰が抜けてしまって…」


 無理もない。村へ行くと言ったバティンに方角を教えた所、いきなりクレアを抱え込み、翼を広げ飛んだのだから。

 何が起こるか分からずに抱え込まれたクレアは普通の人間では体験出来ない速度で空の旅をする羽目になった。


「全く、情け無い。知っているぞ?人間も魔法で空を飛ぶ事が出来るだろう?」

「いや…私はホント普通の一般人なんで空を飛ぶとか無いです」


 少し経ち、何とか落ち着いた所で村へ入る。

 クレアは何度かこの村へ行商に来ているため顔見知りも多く、クレアが到着すると村人が集まってきて歓迎してくれるのだが…。

 見える範囲に人は居ない。


「誰も出て来んな。こんなので商売になるのか?」

「あれ…? おかしいなぁ…」


 仕方なく村長宅へ足を運ぶクレア。

 後ろを着いてくるバティンは村の様子に興味があるのか、アレは何だ?コレはなんだ?と質問が多い。


 村長の家まですぐソコという所で、多くの村人が集まっている。

 その中から1人の老人がこちらへ歩み寄ってきた。


「あ、村長さん。今回もお世話になります」

「ク、クレアさんか…?」

「え? はい、クレアですけど?」


 村長の反応がおかしい。何かビクついている。

 目線を追うと、クレアの後ろの人物を見ている。

 クレアは気付いた。


「あっ! あのっ! この人?はその…何というか…アノですね」

「貴様がこの村の長か? 我はバティン。貴様らがいうところの悪魔や魔族と呼ぶ者だ」


(えぇ!? 何普通に言っちゃってんのこの人ぉ!? そこは誤魔化す所でしょうが!!)


 クレアは焦る。

 一般的に悪魔や魔族というのは忌避され、人類の敵として認識されている。

 冒険者や聖職者であれば、闘う事もあるだろうが普通の一般人はというと。


「ヒィィィィ!」

「お、お助けを!」

「逃げろぉ! 皆逃げろぉ!!」

「ウワーン! おかぁさーん!」

「…神様…お助け下さい…」


 こうなる。


「落ち着け」


 バティンか静かに言うと、さっきまで阿鼻叫喚していた村人達がピタりと動きを止めて静かになる。

 動から静への極端な反応の変わり様にクレアは非常に不安になった。


「あ、あのバティンさん…? 何したんですか?」

「うむ。余りにも騒がしいのでな、軽く精神を落ち着かせる術を放った」

「軽く…?」


 良く見ると、村人は落ち着いていると言うより口を半開きにして惚けてしまっている。

 落ち着いたというよりは、精神に異常をきたしている。


「これでゆっくりと話が出来るな」

「いいのかなぁ…コレ」






 何とか集まった村人達に説明する。

 やはり、理解は得られなかったが先程のような混乱は無くなった。

 クレアは商売の為に村の広場で荷物を広げるという事で、バティンは村長の家へお邪魔していた。


「はぁ…それでバティン様は人間界に勇者を探しに来たと…」

「うむ、聞けば異世界からというのでな。色々話を聞きたいと思っているのだ」

「で、では人間を滅ぼしに来たわけでは…?」

「何故我がそんな事をせねばならぬ? まぁ、勇者から話を聞く以外にも初めての人間界なのでな色々見聞を深めようとは思っておる」


 村長は目の前に座ってお茶を啜る悪魔がいる事を未だに現実とは思えない。

 悪魔といえば人間を殺し、魂を奪う邪悪な存在であると言い伝えられているのだ。そんな悪魔が落ち着き払ってお茶を飲んでいるなど誰が信じるというのか。


「時に村長よ、この辺りで名所はあるか?」

「名所ですか…?」

「先程も言ったが、色々見て回るつもりなのだ」


 村長は考える。

 こんな辺鄙な村の近くには名所など存在しない。あるとしたら、多少珍しいキノコが山奥に生えているくらいだ。

 嘘をついても仕方ないので村長はそのまま伝える。


「申し訳ありませんが、名所という程の物はございません。一応、山奥には少しばかり珍しいキノコが生えておりますが他の地域でも採れますし…」

「ほぉ、キノコとな。それは何だ? 食糧か?」

「ええと…こちらの書物をご覧下さい」


 村長はそう言うと、棚から古い本を取り出し、あるページを開いてバティンに差し出す。

 そこには、村長が言っていたキノコの絵と説明が書かれていた。


「うむ、読めぬ。説明するが良い」


 村長は丁寧にバティンに説明する。

 山奥に生えるキノコは、珍味として都会ではそれなりの価格で取引されていること。

 この村では道中の魔物のせいで、ここ数年は採りに行けていないため村に備蓄はないこと。

 たまに、冒険者が山奥に入っていきキノコを採りにくること。


 説明を聞いたバティンは満足そうに頷く。


「良し、それを採りに行こうではないか」


 ちょうどその時、クレアか商売を終えて村長の家に戻ってきた。


「村長、今日はこれで店仕舞いします。明日もう一度お店出して終わりにしますね」

「あ、あぁ…クレアさん。ありがとう。それで明日なんだけど…」

「娘、明日はキノコを採りに行くぞ」

「え? キノコ? 私も行くんですか? 商売があるんですけど…」


 バティンは村長の話を聞きキノコに興味を持ち、採りに行くつもりらしい。道案内に村長が駆り出される事は決定しており、何故かバティンの中ではクレアも同行が確定しているようだ。

 商売があるのでクレアは少し渋って見せたが


「娘、お前は我を案内することが契約なのを忘れるなよ」

「…はい、すみません」


 バティンの決定を覆すことは出来なかった。

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