彼女の事象〜地味子に擬態してる美少女に告白したらチョロすぎてこわい件について

地下1階

第1話 告白

「榎本って彼氏とかいるのかな?」


「いや、知らんし」


 我が友人(仮)の田上くんは、ホントどうでもよい話題を振ってきた。

 高校に入学して一月ほど、何となく友達と呼べるほどにはつるんでいる一人だ。暇な昼休みには無難な話題のチョイスだろうか?どうかな。


 榎本さんはクラスの女子だ。田上くん的には興味のある美人さんという認識なんだとわかる。俺から視線を外しているので、その先に目をやる。


 視線の先に榎本さんがいた。長めの黒髪のストレート、なんかつやつやしていて美少女オーラが出ている。あと後ろの髪を少しだけとって三つ編みっぽいのはどうやってるのか。女子の友人らしき数人と話をしてる。おとなしめの見た目なのに、友人とけらけら笑いながらはしゃいでる感じ。

 敷居が低く、誰とでも話をするタイプ。俺も話をしたことがある。そのときは榎本さんから話しかけてきた。

 清楚系で人懐っこいとは、うん、嘘っぽい。


「そうか。けっこう可愛い?んじゃないかな」

「いや、クラスで1番美人だろ」

 田上くんは俺の評価に不満らしい。

「那智は誰が美人と思うんだ?」

 はい、那智です。名字ね。


「三鬼さん?」あっさりと答えておいた。三鬼日向。みきひなたと読む。こわめの名字と、ちょっと読みにくい名前。

「ん~?」

 納得してくれないか。ちょっと失礼じゃないか?

 田上くんは三鬼さんの方を向く。

 いちいち見るなよ。


 彼女は席に座って本を読んでいた。

 ショートよりも長めのストレート。前髪はパッツンよりも目が隠れぎみに長め。どうも中途半端な印象。ぱっとしない地味さ。


「地味じゃね?」

 口に出さなくてもいいよ、田上くん。

「地味にしてるだけで、美人とみる」

「あんまり、喋ってるとこも見ないな」

「奥ゆかしいとも言える」

「陰キャ」

「失礼だな、おい」

「お前の評価が高すぎ」

「恋は盲目と言う」

「恋なの?」

「恋だな」

 田上くんの目がぱちくりしていた。なかなか可愛い驚き方だ。

「いや、いきなり恋ばなが始まるとは思わなかった」

「そう?悪かった」

「謝ることでは無いかな?」

 もちろん謝ったわけではない。

「で?告るの?」

「ん?」何で告白する必要があるの?いや、付き合いたいとか思えば、そうするのが正解か?しかし断られたら?関係がギクシャクしたり、避けられたりしたら?


「‥‥??」

「どうした?」田上くんが尋ねてくる。

 俺が黙りこんだからね。無視してごめん。そして「ありがとう」

「何が?」

「ちょっと告白してくるわ」どうせ普段から話しないから、ギクシャクしょうがない。フラれてもノーダメージじゃないか。

 それに彼女が断るイメージもない。

 俺は席を立って、三鬼さんの方に歩き出した。

「はい?」

 背を向けた方から、すっとんきょうな声が聞こえた。田上くん、いちいち驚くなよ。可愛いな。


 三鬼さんの机の斜め前に立つ。真ん前は、前の席の女子が座ってたから、邪魔にならないように避けただけだ。


「三鬼さん」俺はすぐに声をかけた。勢いは大事。

 彼女は本から目を離し、見上げてきた。微妙に長い前髪から、瞳が覗く。

 近くで見たのは初めてだが、思ったより綺麗な瞳だった。

 いきなり声をかけられたのに、驚くわけでも戸惑うわけでもなく、単に声をかけられたから、こちらを見ただけ。そんな感じ。

 俺に興味なしですか。そうですか。でも負けないよ。ここで誤魔化すへたれではないと自分で思いたくはないからね。


「僕と付き合ってくれませんか?」

 言った。特に普通に言えた。もっとドキドキするもんじゃなかったのかな?告白って。


 やっぱり、俺はこれぐらいではドキドキしないようだ?


「何処へ?」

 俺の言い方が悪いのか?違うよね。鈍感なの?

 前の席に座ってる女子が、驚いてこっち見る気配がする。普通、わかるよね。


「ごめん。言い方が悪かった。僕と恋愛的な意味でお付き合いして下さい」これならだいじょうぶか。


 やっと、三鬼さんは少しだけ驚いた表情をした。少しだけ。


 彼女は少し間を置いてから「はい。よろしくお願いします」と答えた。


 これは想定どおり。でも嬉しい。


「それで、付き合うってどういったことするの?」

「あー、放課後一緒に帰るとか?」

「じゃあ、放課後に」

「ああ、また」それだけ言うと背を向けて、自席に歩きだした。

 前の席の女子があっけにとられた顔で、俺を見上げていた。

 気にしないで、大したことしてないから。


 席に戻ると、田上くんがあっけにとられた顔をしていた。

 その顔、流行ってるの?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 放課後。


 田上くんは、部活に行った。なんかもやっとした表情をしていた。

「明日報告な」

 何を?


 俺はカバンを持って、教室の後ろの方に歩いて行った。

 三鬼さんの席がある方へ。

 彼女は俺が近づいて来るのを確認してから、立ち上がった。

「帰ろっか」

「はい」

 彼女がカバンを手にしてから、こっちをもう一度見た。少し緊張しているのだろうか?

 いや、よくわからない。

 俺が教室の外に歩き出すと、彼女も無言でついてきた。


 特に話すこともない。彼女は印象どおり、口数は少ないタイプらしい。いや、人見知りなだけか。


 昇降口で少し彼女が遅れた。出口で歩みを遅くして振り返ると、彼女は小走で追い付いてきた。


 可愛い。


 無表情でわかりにくいが、彼氏との下校イベント、を楽しんでいるのか?

 もう少し柔らかい表情をしてくれないと、 そうとも言い切れないか。

 照れ笑いしながら走り寄ってくれたら、俺も舞い上がれるのに。

 いや嘘、多分そんなことぐらいでは舞い上がらない。


 このまま無言が 続くかと思ったが、 彼女の方から話しかけてきた。

「 ねえ、どこか行くの?」

「 決めてなかった」 そういえば、一緒に帰るとしか言っていなかったな。

「そう」

 特に不満はないようだ 。というわけにもいかないか。

「駅前にでも行ってみるか?」

 彼女は頷いた。

 駅まで20分ほどかかる。俺は通学のために毎日歩いてるから、いつもの道だ。


「これは放課後デート?」

 何か不思議なことを言い出したな。

「そうだね」


「付き合ってるっぽいね」

 何かご満悦だ。もう少し嬉しそうに言った方が 強い手になるのだろうけど。


「あと、何をすれば付き合ってると言える?」

「んー」

 やりたい事ではなくて、そう見える事が重要なんだね。


「連絡先の交換?」

 そう言うと、彼女はスマホを取り出した。

 俺たちは立ち止まって、連絡先を交換する。

 歩道に二人立ち止まっているけど、あまり人は歩いていないのでかまわないだろう。

 学校の周辺は住宅街で、人通りは多くない。

 生徒たちも大半は部活で、まだ学校だ。


「名前教えて」

「え?」

「え?」

 彼女は不思議そうにこっちを見る。

 不思議そうな表情も可愛い。

 でも、俺の名前知らなかったんだ。

 うん、そうだね。まだ入学して一月も経ってないから、クラスの全員の名前は覚えられないか。


 名前も知らない男から告白されて、よく迷わずOK出せるよね。わかってて告白したのは俺だけど。


 それも予想のうちでもびっくりだ。付き合おうと思うことではなく、名前を知らないとあっさり告げるのが驚く。ちょっとは取り繕った方が良いんではないかな。


「那智。那智拓海。那智の滝のなち。魚拓の拓に海でたくみ。よろしくね」

「あ、三鬼日向です。三つの鬼でみき、日向の国の日向と書いてひなたと読みます」

 うん、知ってる。


「ひなた、て、可愛らしい名前だね」

「どうかな」

 名字は触れない。鬼だから。


「海か‥‥」

 海は嫌い?

「何か海に由来が?」

「いや、音で決めたらしい」

「なら、良いか」

 何が良いのか?


 もう、興味なくなったのか、スマホをしまうと、歩きだした。

 俺も彼女の横に並んで歩く。


「後は?」

「何が?」

「次は何をしたら恋人同士らしいですか?」

 成る程、形から入るタイプですか。


「三鬼さんが、したい事は?」

 聞き返してみる。

「特に無いかな」

 形しか興味なしね。


「手を繋いでも良いですか?」

 敬語なのは少しは緊張してるのか?

「良いよ」

 おれは彼女に微笑んで右手を差し出す。

 彼女は笑顔を返すわけでもなく、左肩に掛けていたカバンを右肩にかけ直し、左手を出してきた。

 そして、躊躇なく俺の右手の指に絡めてきた。


 これが、恋人つなぎか!


 彼女は特に感想も無いようで、前を向いて歩いている。


 ドキドキしないな。




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