まだサヨナラの時間じゃないね


 波打ち際で紹廸は目を覚ました。のんきなほどに青い空が広がっていた。ゆっくりと身体を起こして周囲を見渡す。ここはどこか南国の砂浜で、太陽の高さから時刻は昼過ぎ。遠く水平線のほうに向かって、煙を上げながら高度を下げている飛行船が見えた。なるほど、と紹廸は瞬きを繰り返した。どうやらあの飛行船から海に落ちて、この砂浜に流れ着いたらしい。

 辺りを見回していると、波間にぷかぷかと浮かぶ人影を見付けた。紹廸は泳いで近寄った。飛行船の積荷の破片に上半身を預けて、どうにか浮いている状態だった。紹廸はこの人物に心当たりがあった。同じ船に乗っていった。砂浜に連れ帰って転がす。名前は、確か。

「しっかりしろ、サクラ」

 頬を叩いて呼びかけると、気が付いたサクラは咳き込んだ。眩しそうに顔をしかめる。

「大丈夫か?」

「生きてはいるよ」

 サクラはぐったりした様子で答えた。

「何がどうなったの」

「あれ」

 紹廸は水平線のほうを指差した。サクラもそちらを見る。飛行船はまさに海へ墜落しようとしていた。

「で、ここまで流れ着いたらしい」

「なるほど、遭難したってことか」

 あーあ、とサクラが砂浜に寝転んだので、紹廸は砂浜を少し歩くことにした。

 周囲の様子から考えて、ここは大陸ではなく島だろう。山が見えるから、火山島かもしれない。山のほうへと森が広がっている。高低差があるならば、川が流れているかもしれない。無人島だろうか、それとも誰か住んでいるだろうか。紹廸は砂浜を行ったり来たりした。森の上空を鳥が飛んでいる。食料は手に入りそうだ。ひとまずは砂浜を一周してみるのが良いだろうか。人が住んでいるのであれば港があるはずだ。

「さっきから君は何をしているの」

「ここで生き延びるための作戦を考えていた。救助されて戦闘に参加するよりも、ここで生きたほうが良さそうだから」

「どうせ救助は来ないだろうし、そもそも誰も僕たちを探さないよ」

 サクラは億劫そうに立ち上がって伸びをした。砂まみれになった軍服を手で払う。

「喜べ、サクラ。今度の終末はきっと楽しくなるぞ」

「今度の……? まぁいいや。まずは水と食料と寝床を確保しようか」

 ふたりは並んで砂浜を歩き始めた。

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