不時着

北見 遥

不時着

「揺れましても、飛行に影響はありませんのでご安心下さい。」

乗客に向けてのアナウンスが入った。


飛行機には乗り慣れている恭平も、今回のフライトは特別だったので注意深くアナウンスを聞いていた。


ふと横を見ると、社会人になりたてらしい風体の若い女が不安そうに窓の外を見ていた。恭平や若い女以外の乗客も皆総じて不安そうな面持ちだった。


恭平は、自分の気を紛らわすためにも、窓の外を見ている若い女に声をかけてみた。

「何か見えますか?」


女は振り返りながら答えた。

「…いえ、今の所、雲しか見えませんね。この雲が揺れの原因なんでしょうか。」


一人旅らしい女も、会話で気を紛らわせたいようで、話を振って来た。

「おじさんはどうしてこの飛行機に?」


恭平は旅の目的を答えた。

「私は、亡くした娘にどうしても会いたくて来たんです。いや直接会わなくても、遠くからひと目見ることができれば、それで満足です。あなたは若いのにどうしてこの飛行機に?」


「私は、就職面接をやり直したくてチケットを買いました。3年前に戻って、過去の自分に今とは違う会社の面接を受けさせたくて。今の会社で働くのが本当に辛いんです。あの時、今とは別の会社に入っていたら、上司との関係にこれだけ悩むこともなかったでしょう。」


恭平は驚いた。

「それは禁止事項では」


割り込むように、再びアナウンスが入った。

「ただいま仙台上空で、 が発生しています。当機は時期の乱れを受け、到着予定時刻より5年ほど過去に着陸いたします。」

「到着予想時刻は2014年2月6日です。お急ぎの方には大変ご迷惑をおかけいたします。なお復路の便は、到着時刻より5年とちょうど1週間後に予定されています。」

 

アナウンスを受けて、乗客は動揺した。それは恭平も若い女も同様だった。

「今のアナウンス聞きましたか。5年も長く戻ると、まだ娘が生まれてもいない。。随分長い旅行になりそうです。あなたはどうしますか?」


「私は、まだ当時高校生のはずです。これなら入学する大学から変えてしまって人生をやり直せる。。」


「お姉さん、事情は分からないが、人生多少うまく行かないことがあっても、あなたが選んできた道なのでしょう。」


「自分で自分の人生を無かったことにしてしまっていいのですか?」

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