8-4 ブレイズのパーティー組み
「でも今年は、教師が三人も入るパーティーがあるわよ」
「三人……。別チームに三人じゃなく、同じチームにですか」
そんな戦略あるかよ。それじゃペナルティーきつくて、合格は無理だろ。
「そうよ。ブレイズくんのとこ」
「えっ……」
ランが目を見開いた。
「ブレイズが……。どうして」
「そもそもブレイズくん、たったひとりで挑戦するつもりだったのよ。それも、SSSの担任に告げたダンジョンは、『六百年眠るドラゴン』」
「えっ……」
マルグレーテが絶句した。
「それ、最難関ダンジョンじゃないの。難易度だって上限が百のはずなのに、ここはなぜか百二十五」
同じクラスでも、マルグレーテも聞いてなかったみたいだな。今ブレイズは放置気味ってことだし、誰にも言わず担任だけに教えたに違いない。
「そうよ。ブレイズくん、自分が挑戦する以上、トップのダンジョン以外はありえないって主張して」
「はえー。難しそうなダンジョンだねー」
ランは目を見開いている。
このダンジョン、俺も知ってるわ。会議室の一覧で見たし、そもそもゲームで有名だからな。選択時は難易度百なのに、実際に入るとステータス画面に難易度百二十五って出るダンジョン。バグかおそらく開発元の設定ミスと言われてる。
ドハズレの難易度が妙に話題になったためか、運営が修正せず、そのまま放置になった。学園編の一過性イベントだし、どうせクリアできっこないから、ゲームバランスは崩れない。だからだと思うわ。この「現実」の会議室では、最初から「難易度百二十五」と表示されてた。本来のゲームよりは、まだ親切と言える。
「モーブくんたちも、会議室で見たでしょ」
「ええ、リーナさん」
選択の候補にすらしなかった。なんせ雑魚戦から厳しく、最後の中ボスはよせばいいのにドラゴンで、倒せばクリア。ゲーム序盤たる学園編の中ボスの癖に、設定ミスでラスボス並の強さと堅さだからな。攻略ウィキは阿鼻叫喚で、誰ひとりとしてクリア報告がない。
「強くてニューゲーム」でもあればなんとか……程度の難易度だが、もちろんこのゲームにはそのモードはない。それになんたって学園編はゲーム序盤だ。なのでパーティー仲間が弱すぎる。仮に「強くてニューゲーム」があって自キャラだけ強くても、クリアは無理だろう。
なんせ「プレイヤーに挑戦」的な難易度なので、みんなこぞって試すんだ。それでも、ボス戦まで行けたら奇跡クラス。ボス戦の投稿動画とか見ると笑っちゃうよ。文字通りの瞬殺だから。
「だからSSSの担任が止めたのよ。クリアは絶対無理だって」
リーナさんは、ほっと息を吐いた。お茶を飲むと続ける。
「でも、断られた。それでも僕はやるんだ。学園のみんなに実力を見せてやる……って」
「ブレイズらしい……」
ランが眉を寄せた。ブレイズのヘイト対象が、俺ひとりから学園全体に広がりつつあるな、これ。
「ほっときゃいいんじゃないの。自爆したいんなら、そうさせておけば」
マルグレーテも呆れた様子だ。
「教師の間でも、そこは議論になってね。……でも一応ヘクトール開校以来の天才じゃない。評判は、王宮まで伝わっている。その才能をここで潰せば、王室から見た学園の評価も下がる。やむなく精鋭三人が補助に入ることになったのよ」
「よくブレイズが承知したなー。あいつ絶対、『教師に頼るとか、そんな卑怯なマネは……』とか言いそうだけど」
「ダンジョンの選択を変えるか、誰か仲間を加えろ。それでないと卒業試験への参加は認めないって、詰めたらしいわ」
「なるほど」
「教師でなくとも、学園生でも構わない――。そこまで学園側は譲歩したんだけれど、ブレイズくんは教師を選んだのよ」
「でしょうね」
マルグレーテが溜息をついた。
「そもそもブレイズが誘っても、学園生はもう誰も参加しないと思うわ。今さらなに言ってるんだって、なるもの」
そりゃあな。SSSのクラスメイトにさえあんだけマウントを取ってきたのに、ここにきて手のひら返しで「僕のパーティーに入ってほしいんだ」とか、頭下げられないよな。ブレイズの性格からしても。てか「僕のパーティーに入れてあげてもいいよ」くらいは言いそうだわ。
「大丈夫かな、ブレイズ」
ランは心配顔だ。一応幼馴染だしな。
「心配するな」
ランを抱き寄せてやった。
「精鋭教師三人がついてれば、ボス戦までは行けるだろ。ボスのドラゴン戦は厳しいけど、最悪でもクリアできずに戻るだけ。死ぬわけじゃない」
「そうだよね……」
ランは俺に身を預け切っている。
「もしクリアできれば、教師三人分のペナルティーを加味しても、卒業試験合格は確実だしな。なんたって難易度百二十五だし」
「うん……」
「それより、俺達の未来を考えよう。こっちだって楽勝なわけじゃない。難易度八十五で時間制限のキツいダンジョンを駆け抜けるんだ。自分達の合格に集中しないと」
「わかってる。……モーブ」
「俺とランだけじゃない。マルグレーテの将来だって懸かってるからな」
エリク家は厳しいらしいしさ。落第したら、マルグレーテの将来は暗い。それは自明だ。
「気にしないで、モーブ」
俺の手に、マルグレーテが手を重ねてきた。
「わたくしが自分で選んだ勝負ですもの。たとえ失敗しても、モーブやランちゃんが責任を感じる必要はない。すべて、わたくしの意思よ」
さすがは貴族の娘。自分の生き様に誇りを持ってるし、考え方もしっかりしてるわ。
「なんにつけ……」
リーナさんが、俺達三人に、自分の手を重ねてきた。
「明日から始めましょ。馬術の鍛錬と、洞窟を回るルートの調整。それに様々な検討と。あのダンジョンは広い。魔法詠唱ひとつとっても、時間が惜しいわ。……なにしろこのパーティーの魔道士、全員呪文詠唱型だから」
「そうですね、リーナさん」
マルグレーテが眉を寄せた。
「マナ召喚系と違って、複雑な呪文になればなるほど、時間が掛かるし」
たしかにふたりの言うとおり。そもそもこのゲーム、魔道士系の初期職は、全て詠唱タイプなんだわ。マナ召喚系は詠唱時間を節約できるとか、ダンジョンの濃いマナを用いた強力魔法を使えるとか、いろいろな利点がある。
ゲームバランスを取るためだと思うが、そのために上級職にジェブチェンジして初めて、マナ召喚系のルートに乗れる。これまで蓄積した詠唱型魔法を全て捨てることにはなるが、マナ召喚系ルートに乗れる利点のほうが大きい。
俺がいるこの「現実」は、学園編。もちろんゲームとしては初期も初期。マナ召喚系のキャラは、一部の上位教師くらいしか存在しない。
ぬるいダンジョンなら、詠唱型でも大した問題はない。俺達が挑む洞窟にもモンスターは出ないんだから、戦闘時の詠唱時間を気にする必要はない。……ただ今回、クリア時間規制が厳しい。宝箱解錠魔法ひとつとっても、タイムロスは馬鹿にできない。
「とにかく効率良く回らないとね」
リーナさんが結論付けた。
「そのために地図を綿密に解析して、どういうルート、順番で宝箱を回収して回るか、しっかり考えないと」
「そうですね、リーナさん」
俺が引き取った。
「なんらかのトラブルが起これば、ルートを変えざるを得ないかもしれない。落石で道が塞がってたとかさ。その可能性まで考えて、B案C案くらいまでは作っておく必要がある」
「そうよね」
マルグレーテが顔を引き締めた。
「それに卒業試験は、いつ挑戦するかも大事。試験期間は二週間でしょ。その間なら、いつ始めてもいい。馬の体調やこちらの準備進捗を勘案して、しっかり決めないと」
卒業試験は三月前半。通常授業は二月で全て終了し、三月に入ったらいつ挑戦を始めてもいい。焦れてすぐ始める連中もいれば、三月頭の段階でもまだパーティー要員を交換するなど、ぎりぎりまで最善を尽くそうとするパーティーもある。俺達の場合は多分、馬の仕上がり具合で挑戦日を決めるのが一番だろう。
「そうだよね、マルグレーテちゃん。それなら私がいかづち丸やいなずま丸に聞いておくよ。気分はどうかって」
「お願いするわ、ランちゃん。わたくしもテイムスキルを使って、一緒に考えるから」
「よし。じゃあ馬術は授業前の朝練にする。放課後は居残りで、ルートや宝箱解錠手順を検討しよう」
俺の言葉に、三人が頷いた。
●次話、卒業試験クエストに向け、モーブ組は最後の調整に入る……。明日木曜朝7:08更新! 次々話から新章突入で、いよいよ試験ダンジョンに挑戦。今書いてます。
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