花畑の今

「パッと見黄色しか咲いてねぇんだけど」


 目的地に着いたタフィは、軽く周囲を見回してみたが、ニジイロソウらしき花は見当たらず、黄色い小花をたくさん付けた植物ばかりが目についた。


「本当に黄色ばっかりね。ボイヤー、あれはなんて花なの?」


「あれはササノハアワダチソウです。名前のとおり葉っぱが笹の葉みたいな形をしていて、1メートルくらいの高さまで成長するんです。それと見て分かるとおり、群落を作る特性があって、しかもアレロパシーもあるんですよ」


「アレロパシー?」


 カリンは首をかしげた。


「この前教えたじゃないですか。アレロパシーっていうのは、毒とかを出して、他の植物の成長を阻害させたりする現象のことですよ」


「あ、そういえばそんなこと言ってたね。……ということは、あれのせいでニジイロソウがなくなっちゃったってこと?」


「その可能性は一番高いですね。ササノハアワダチソウによって他の植物が淘汰されたっていうのは、そんなに珍しいことじゃないですから」


「だとするとヤバくない? めちゃめちゃ黄色いやつ咲いてんだけど」


 カリンはその生えっぷりを見て思わず笑ってしまう。


「正直かなりヤバいですよ。ニジイロソウはそんなに強い植物じゃないですから、最悪全滅してるかもしれません」


「マジ?」


“全滅”というショッキングな言葉に、隣で聞いていたタフィも驚く。


「とりあえず探してみましょう」


「そうね」


 3人はニジイロソウの捜索を開始したが、予想どおりなかなか見つからない。


 太陽がどんどんと傾いていくなか、ようやくタフィが1本のニジイロソウを発見した。


「あった!」


「え、あった?」


「どこですか?」


 タフィの声を聞いて、カリンとボイヤーもすぐに駆け付ける。


「これだろ?」


 タフィはボイヤーに確認した。


「はい、これがニジイロソウです」


 発見したニジイロソウは高さがおよそ50センチで、鮮やかな虹色の花が3つ咲いていた。


「初めて見たけど、本当にきれいね」


 カリンはしゃがみ込んで間近で花を見ている。


「……まさか、これが最後の1本ってことはないよな?」


 タフィはポロッと不安を漏らしたが、2本目はボイヤーによってあっさりと見つかる。


 ただ、ボイヤーの顔に笑顔はなかった。


「病気……いや、毒っぽいかな?」


 1本目とは異なり、花の色はくすみ、葉も明らかに元気がない。


「毒? それってやっぱあいつの毒なの?」


 カリンは、3メートルほど離れた場所に生えているササノハアワダチソウを指差した。


「たぶんそうだと思います。ササノハアワダチソウは根から毒性のある物質を出すんですけど、結構広範囲に根を張るんですよ」


「なるほど。じゃあ、この辺はほぼほぼあいつらの勢力下ってこと?」


「そうですね」


「……これ、なんとかなる?」


「正直、僕の知識でなんとかなるレベルじゃないです。ただ、呪いとかそういう類のものじゃないんで、専門家の力を借りればなんとかなると思います」


「そっかぁ……うん、オッケー。じゃあ、日も暮れてきたし、村に戻ろっか」


 この後、3人はヴァネティ村で一泊し、翌朝、専門家のところへ向けて出発した。

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