対エルフツリー

(コレ以上近ヅクナ。去レ、去レ)


「な、なんだ? なんか頭ん中で声がしたんだけど?」


 突然頭の中で不気味な声が響いたので、タフィは思わず後ずさりした。


「あ、タフィもこれ聞こえたんだ」


「僕も変な声が聞こえました」


 タフィだけでなく、カリンとボイヤーの頭の中でも謎の声が響いていた。


「これなんの声なんだ?」


「そうねぇ、状況から考えれば、この木からのメッセージじゃないの」


「メッセージ? ……あ、ちゅうことは、近づいて欲しくない何かがあるってことか!」


 再び木に向かって歩き出すタフィ。


(近ヅクナ、去レ、去レッ!)


 先ほどよりも少し口調が強くなったが、タフィは歩みを止めない。


 一方で、カリンとボイヤーは様子を見るために木陰には入らず、立ち止まってタフィの動向をじっと見つめていた。


(去レッツッテンダロ!)


「おわっ!?」


 怒ったエルフツリーは、地中から根を出してタフィの足に絡ませ、盛大にすっ転ばせた。


「いってぇ……」


(近ヅイタ報イダ。ワカッタラ去レ)


「なめんなよ。こんなもんどうってことねぇや」


 タフィは立ち上がって体に付いた土を払い落とすと、根を絡ませないために全速力で駆け出した。


(ワカラン奴ダナ)


 エルフツリーは、タイミング良くタフィの進路上に根で小さなアーチを作り出した。


「のわっ!?」


 根のアーチにつまずいたタフィは、再び盛大にすっ転んだ。


(ドウダ、今度コソ諦メテ去レ)


「誰がこんなもんで諦めるかよ」


 タフィとエルフツリーのやり取りを見ながら、ボイヤーは冷静に状況を分析する。


「カリン姉さん、思うんですけど、アレ絶対ただのエルフツリーじゃないですよね」


「そうね。怨念というか、なんかの魂が乗り移ってるような感じがするわね」


「ということは、やっぱりここに隠してあるってことですかね?」


「可能性は高いわね。いずれにせよ、ああやってしゃべってれば、そのうち答えがわかるでしょ」


 カリンの言葉どおり、答えはすぐに判明する。


(ナゼ、ソコマデシテワタシニ近ヅコウトスル?)


「なぜって、ここに包丁が隠してあるかもしれないからだよ」


 タフィが「包丁」と言った瞬間、ガサガサっと木が揺れた。


「あっ、なんか今揺れたぞ。やっぱここに包丁があるんだな」


(ナイ、ナイゾ。ダカラ去レ)


 若干だが口調に乱れがあった。


「完全に動揺してんじゃん。あんだろここに、包丁がさ」


 タフィはもちろん、カリンとボイヤーもこれで確信した。


「ボイヤー、うちらも行くよ」


「はい」


 満を持して、カリンがエルフツリーとのやり取りに加わった。


「エルフツリーさん、うちらはある凄腕の料理人の依頼で、ジェイコブセンが作ったっていう肉切り包丁を探してるの。もしここにそれがあるのなら、渡してもらえないかな?」


「凄腕の料理人? 母ちゃんはそんな凄う……」


「あんたちょっと黙ってな」


 バチーンと、カリンはタフィの後頭部をひっぱたいた。


(サッキモ言ッタガ、ココニソノヨウナモノハナイ。ダカラ去レ)


「お願い。その料理人のことは、ケーシー・カルドーゾさんも認めてるし、それに包丁は使ってこそ価値があるもんだと思うんだ。だから、渡してもらえないかな?」


(ダカラ、ソンナモノハナイト言ッテルダロ。サッサトココヲ去レ)


 少し口調が荒くなっていた。


「お願い。絶対に売ったりしないし、大事に使うからさ」


 カリンは頭を深々と下げて懇願する。


(イイカラ去レ!)


 だが、エルフツリーは全く聞く耳を持たない。


「お願い」


(去レ!)


「お願い」


(去レ!)


 そんな堂々巡りのようなやり取りが何回か続き、カリンはこのままではらちが明かないと判断、攻め方を変えることにした。

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