マッハへの報告
ヴァーベン村を出発した後、タフィたちは特にトラブルもなく、ベルツハーフェンに帰着した。
「今帰ったぞ」
店に入るなり、タフィは威勢よく帰宅の挨拶をした。
「おかえり。もう見つけてきたのかい?」
仕込みの最中であったマッハは、串に肉を刺しながら返事をした。
「おうよ」
タフィは包丁が入った木箱をマッハに向かって見せつけた。
「へぇ、こんなに早く見つけてくるなんて大したもんじゃない。これも、カリンが一緒に行ってくれたおかげかしら」
「いえ、うちは9割くらいしか手伝ってませんから」
「おい、それじゃ俺ほとんど何もしてねぇことになっちゃうじゃねぇか」
タフィはすかさずツッコミを入れた。
「カリン、今日はあたしのおごりだ。好きなもの食べていっていいよ」
「やったー」
カリンは嬉々とした様子で空いている席に腰を下ろす。
「ボイヤー、帰ってきて早々悪いけど、カリンにワイン出してあげて」
「はーい」
ボイヤーはワインを取りに店の奥へと入っていった。
「タフィ、あんたもそこでカリンと一緒に夕飯食っちゃいな」
「わかった。あ、これ包丁ね」
タフィはカウンター越しにマッハに木箱を渡し、カリンの向かいの席に座った。
「さぁて、『至高の肉切り包丁』とやらはどんな感じなのかしらね」
マッハは木箱から包丁を取り出して軽く見回すと、肉の塊をまな板の上に置き、切れ味を確かめるように刃を入れた。
「……」
マッハは無言のまま再度肉を切り、そしてタフィを呼んだ。
「……タフィ、ちょっとこっち来な」
「何?」
「あんたが持ってきた包丁だけど、これは『至高の肉切り包丁』じゃないね」
「え?」
タフィは一瞬言葉を失った。
「だから、もう一度……」
「待って待って、なんで違うってわかんの?」
タフィはマッハの言葉を遮るようにして反論した。
「そんなもん切った感覚でわかんのよ。あ、これは『至高の肉切り包丁』じゃないなって」
「ほんとかよぉ?」
タフィは疑いの眼差しを向ける。
「とにかく、もう一度探しに行ってきな」
「はぁ……わかったよ」
タフィはガックリと肩を落としながら席に戻った。
「聞いてただろ。振り出しに戻っちゃたよ……」
タフィはテーブルに突っ伏した。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だって。トレジャーハントにはこういうのが付きもんなんだし、また探しに行けばいいだけなんだからさ」
カリンはワイン片手に、タフィの頭をやさしくポンポンと叩いて慰めてあげた。
「……そうだな」
起き上がったタフィの顔には、少し元気が戻っていた。
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