アポロス再び
翌朝、タフィたちは朝食を干し芋で軽く済ませると、帰路についた。
途中、ヴァーベン村で食事をとることにしたのだが、またしてもそこでアポロスと出くわしてしまったのだ。
「待っていたぞ平民」
村へと続く道のど真ん中で、アポロスは腕組みしながら立っていた。
「なんでまたいるんだよ……」
タフィはうんざりした顔になる。
「だから待ってたんでしょ。ベルツハーフェンへ帰るにはこの道を通らないといけないから、待伏せするのは簡単だし」
カリンが言ったように、情報を得ることができなかったアポロスは、包丁を探すことを諦め、探しに行ったふりをしてここで待ち構えていたのだ。
なぜそんなことをしたのかといえば、その方がタフィへの嫌がらせになると思ったからである。
「平民、伝説の包丁は手に入れられたのか?」
「……」
タフィは無視して歩き始めた。
「包丁は手に入れられたのかと聞いているのだぞ、平民」
「……」
アポロスが語気を強めたのに対し、タフィは歩くスピードを速めた。
「こら! 無視するな平民!」
「……」
アポロスはついに怒鳴り声をあげ、タフィは走ってその横を駆け抜けた。
「待て……待てって……待てよ!」
タフィの後を追って、走り出すアポロス。2人の追いかけっこが始まった。
「……バカ2人が走っていっちゃったよ」
「どうしますカリン姉さん?」
「ほっといて村へ行ってもいいけど、おもしろそうだからちょっと見てようか」
カリンとボイヤーが興味半分で見ているなか、タフィはアポロスを振り払うため、道を逸れて草むらの中へと走っていく。
なお、包丁の入った木箱はカリンが持っている。
「はぁ……はぁ……そろそろあのバカ息子は体力が限界だろう」
チラッと後ろを振り返ると、アポロスは顔を真っ赤にしながら息を切らして走っており、距離もどんどん離れていた。
「はっ……はぁ……は……こ、こうなったら、意地でも止めてやる。はぁ……はっ……くらえっ!」
アポロスは振りかぶった右手から、勢いよくウォーターボールを解き放った。
「あんにゃろう、魔法撃ちやがったな」
背後から迫ってくる魔力を敏感に感じ取ったタフィは、振り向きざまにバットを出すや、体勢を崩しながらも左手一本でウォーターボールを打ち返した。
「わっ、こっち来た」
打ち返されたウォーターボールは、小フライとなってアポロスの手前に着弾した。
「とっとと失せろ、このバカ息子!」
タフィもさすがに無視し続けることはできず、アポロスに向かって怒鳴り声をあげた。
「うるせぇ。そっちこそとっとと手に入れたか教えやがれ、この平民野郎!」
アポロスは罵声とともにウォーターアローを放った。
「おい、お前どこ目掛けて放ってんだよ」
タフィがせせら笑ってしまうのも無理はない。アポロスが放った魔法は空へ向かって飛んでいったのだ。
「バカめ、それは真上から襲いかかってくるんだよ」
「なんだと!?」
真上を見上げると、タフィ目掛けて水の矢が垂直に降ってきていた。
「真上から来るやつは打てないだろ、ざまぁみろ」
アポロスは高笑いした。
「なめんなよ。真上からだろうが、バットが届きゃあなんでも打てらぁ!」
タフィはグイっと体をのけぞらせると、降ってくる矢を叩き落すかのように思い切りバットを振り降ろし、ウォーターアローを打ち返した。
「くそっ」
アポロスは悔しそうに地団太を踏んだ。
「どうだ、まだ撃ってくるか?」
タフィは挑発するようにアポロスをバットで指した。
「覚えてろよ!」
捨て台詞を吐いたアポロスは、馬車が停まっている方へ向かって走り去っていった。
「ふん、てめぇのことなんざ忘れてやらぁ」
タフィはひょいっとバットを担ぎ、カリンとボイヤーがいる方へ向けて、満足そうな足取りで歩き出した。
「兄やんのバッティング見事でしたね。けど、あの人は何しに来たんでしょうか?」
「何しにって、嫌がらせに決まってるでしょ。たぶん、包丁を手に入れてたら力ずくで奪うつもりで、手に入れてなかったらバカにするつもりだったんでしょうよ」
カリンはアポロスの思考を的確に読んでいた。
「なるほど。だからしつこく『手に入れられたのか』って聞いてたんですね。……あ、兄やん、お見事でした」
タフィはドヤ顔でボイヤーの褒め言葉に応える。
「俺にかかれば、バカ息子なんて一捻りよ。それより、さっさと飯にしようぜ。俺腹ペコだよ」
思わぬ邪魔は入ったものの、タフィたちは無事にまともな食事にありつけたのだった。
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