黒バットの真価

「タフィ……あんたのバットどうなってるの?」


 カリンは呆れた様子で話しかけた。


「知らねぇよ。なんか咄嗟に打ったら打ち返せちゃったんだから」


「それ、他の魔法も打ち返せたりするのかな? ボイヤー、あんたちょっと軽くファイヤーボール投げてみ」


「兄やんに向かってですか? 嫌です嫌です。もし当たったらどうするんですか?」


 ボイヤーは当然のように首を横に振った。


「大丈夫大丈夫。あいつならなんとかなるから。だから投げてみ」


 何を根拠に大丈夫と言っているのかはわからないが、カリンはボイヤーの腕を掴むと、タフィから30メートルくらい離れた場所へ強引に連れていった。


「この辺でいいか。タフィ、いくよぉ」


 カリンに言われ、タフィはバットを構える。


「じゃ、投げて」


 カリンはボイヤーの背中をポンっと叩く。


「はい……」


(絶対当たらないように、バットが届くギリギリのところに投げよう)


 ボイヤーはそんな風にコントロールに注意してファイヤーボールを放ったつもりだったのだが、意識し過ぎたせいなのか、意図に反してタフィの体目掛けて一直線に飛んでいった。


「あ……」


 ボイヤーはしまったという顔になる。


「ちょっとビビらせようかな」


 先ほどと違い、攻撃されることがわかっていることもあって、タフィは少し余裕があった。


「それ」


 タフィはカリンとボイヤーの近くへ飛んでいくように調整して打ち返した。


「きゃっ!」


 打ち返されたファイヤーボールは、驚くカリンの横を高速で通過し、そのまま地面に直撃して消え去った。


「悪い悪い、そっちに打つつもりはなかったんだけさ」


 タフィはニヤニヤしながらカリンたちのところへやって来た。


「あんた……いいバットコントロールしてんじゃないのっ」


 カリンは満面の笑みを浮かべながら、バチーンッとタフィの後頭部をひっぱたいた。


「いってぇ……何すんだよ」


「何って、いいバットコントロールだったから頭をなでてあげたんでしょ」


「これは殴るだろ」


「“なでる”も“なぐる”も似たようなもんじゃない。それより、実戦でもしっかりコントロールできるようにしときなさいよ。相手はともかく、味方に当たったらシャレになんないからね」


「……はいはい、わかりました」


 叩かれた直後だったので、タフィの返事はちょっと投げやりだった。


「じゃ、うちらも行くよ。まごまごしてると、本当にあのバカ息子に先を越されちゃうかもしれないからね」


「うっし、走るぞボイヤー」


「はい」


 タフィとボイヤーは勢いよく駆け出した。


「……ダンジョンまであと5キロくらいあるんだけど、あいつら体力もつかな?」


 カリンは小さくなっていく後ろ姿を見つめながら、マイペースに歩いていった。

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