黒バットゲット!
翌日、タフィはマッハとのやり取りをコーツに報告した。
「ガハハッ、そいつはマッハらしいな。で、そのお宝包丁とやらがどこにあるのかはわかってるのか?」
「ぶっちゃけよくわかんないけど、じいちゃんがその職人と仲良かったらしいんで、とりあえずじいちゃんとこに行って、なんか手がかりがないか探してみようかなって思ってる」
「いいんじゃないか。宝っていうのは、そうやって地道に探していくものだ。そうだ、こいつを持っていけ」
コーツは黒々と輝く1本のバットを手渡した。
「どうしたのこのバット?」
「そいつは儂の知り合いが作った特製のバットだ。とんでもなく堅いことで知られるイワクダスギで作った代物だから、滅多なことで折れることはない。お前が使うのにもってこいのものだろ」
「すげぇよこれ。めちゃめちゃ手にしっくりくる」
タフィは嬉々とした表情で何度もバットを振ってみた。
「良い素振りだ。そのスイングなら、相手がどんなに硬くてもなんとかできるだろう」
「ありがとう学園長。俺絶対包丁を見つけてくるから」
「おう、吉報を待つよ」
タフィは左手でバットを担ぐと、堂々と胸を張った歩き方で部屋を出ていった。
それから数分後、学園長室のドアがノックされた。
「入っていいぞ」
「たっだいまー」
やって来たのはカリンだ。
「おぉ、カリン。帰ってきたのか」
カリンはコーツの孫で、学園の卒業生でもある。
「はい、これおみやげ」
カリンが手渡したのは砂時計で、木製の台座部分が猫の形にかたどられていた。
「ほぉ、なかなかセンスが良いじゃないか。ありがとう」
猫好きのコーツは、思わず頬を緩ませた。
「そうそう、街でガーランモのバカ息子を見かけたよ」
ガーランモのバカ息子こと、アポロス・ガーランモは、ベルツハーフェンが位置している地域を領有しているガーランモ伯爵の次男である。
非常にプライドが高く、平民を見下す癖があった。
「まぁたタフィにちょっかいを出しにきたのか、あいつも諦めが悪いな。何度負ければ気が済むんだか」
アポロスは同い年であるタフィを執拗なまでにライバル視していた。
「因縁に執念がプラスされたんじゃないの」
ガーランモ家とカルドーゾ家には、浅からぬ因縁が存在した。
そのきっかけは、70年前に起きたベルツハーフェン独立闘争である。
大陸との交易で栄えていたベルツハーフェンは、ガーランモ伯にとって金鉱脈のような存在であり、何かにつけて税金を搾り取っていた。
当然市民たちはそういった扱いに不満を抱き、時が経つにつれてそれはどんどんと蓄積されていった。
そして経済力の高まりとともに自信を抱き始めていた市民たちは、ついに行動を起こす。
邸宅を強襲して、ベルツハーフェンの独立を伯爵に要求したのだ。
当時、中央では王位継承を巡る争いが発生しており、地方都市の反乱に対処している余裕はなかった。
加えて、市民たちは豊富な財力を活かして貴族や王族に周到な根回しを行っており、孤立無援となったガーランモ伯は要求を受け入れざるを得ず、無事ベルツハーフェンは自治都市として、伯爵領からの独立を勝ち取ったのである。
この時、中心的メンバーとして伯爵に要求を突きつけたのが、タフィの曽祖父であるブローザ・カルドーゾだったのだ。
「あいつ、ここも本気で取り返そうとしているからな」
呆れ顔のコーツに対し、カリンは少しだけ理解を示す。
「……ただ、その気持ちはちょっとわかるかな。なんて言うか、おとぎ話でもあるじゃない、先祖が持っていたお宝を取り戻すみたいなやつ」
「お宝ねぇ……これも因縁の成せる技かな」
コーツは思わず苦笑した。
「何かあったの?」
コーツはトレジャーハンターの件をカリンに説明した。
ちなみに、タフィとボイヤーとカリンは幼馴染だ。
「まぁそんなわけで、タフィはそのお宝包丁を探すことになったんだ」
「待って待って、じゃあ何、その包丁を見つけられなかったら、タフィが串焼き屋を継ぐの?」
カリンは明らかに戸惑っている。
「そういうことになるな」
「えっ……タフィがバカ舌だってこと、バラ姫知らないの?」
タフィは幼少の頃から、何を食べても美味しそうな顔で「うまい」か「すごくうまい」の二言しか言ったことがなかった。
「その表現は好かんな。あいつはなんでも美味しく感じることのできる幸福な舌と、毒をも平らげる鋼の胃袋を持っているだけだ」
カリンはコーツの語気から、説教の気配を敏感に感じ取った。
「そうだ。タフィがちゃんとトレジャーハンターになれるよう、うちが指導してやろう。じゃあね」
カリンは逃げるように部屋を出ていった。
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