私が現代の独裁者なら
古井論理
戦争ができる国を作るなら
私が現代の独裁者で、戦争を始めるための準備をするならばどうするだろうか。
皆さんはこう考えるかもしれない、「軍国主義を広めればいい」「そもそも戦争の目的もなく戦争を始める輩はいない」「現代において戦争をするなどナンセンスだ」と。
――だがそう考えるとき、あなたは大切なことを忘れている。
あなたが忘れている大切なことは三つ。
第一に、戦争の目的などどうだっていい者もいるということ。戦争をすること自体が目的で、それによって世界史に名を残すことだけが目的の独裁者すら実在したのだ。戦争を起こすことだけが目的であったり、他国との密約で自国を悪者にして密約を結んだ国の国際的地位を上げ、その密約を結んだ国に経済援助や口利きをしてもらうことが目的であったりする独裁者がいたとしても不思議ではない。
第二に、軍国主義を広めたりすれば他国に戦争を起こすと予測されてしまうこと。戦争を起こす可能性がある危険な国と思われれば、その国は多くの国から警戒されることになる。その場合、戦争を仕掛けたい敵国と同等以上の戦力を味方に用意しないと、防衛のために出動する敵国の軍や国際安全保障のために出てくるNATOなどの軍隊にボコボコにされて終わりである。例えば日本に戦争を望む独裁者がいたとしよう。自衛隊の戦力で、一体どこの国と同等以上の戦いができるか考えてほしい。満足に敵の基地を潰せるような爆撃機もミサイルも攻撃機もない、核兵器もない、保有している兵器は高価すぎる、領空を通過するミサイルさえ物理的にそう多くは落とせない、隊員の数も少ない。これでは戦争が起こせたとしても、それ自体を目的としない限り絶対にろくな戦いはできないだろう。そもそも日本を守ることを前提としてその前提に特化した軍とも呼べない防衛力だけで、どうして他の国を制圧できるだろう。できる可能性などあなたが思う戦争の必要性よりも百倍ほど低いのではないだろうか。というか、可能性はゼロである。
第三に、現代において戦争を起こすことは全くナンセンスではないということ。戦争を起こすことが本当にナンセンスなら、なぜ現代に至っても大国はこぞって全人類を何度も消し炭にできるほど多くの核兵器を用意し、ほぼすべての国が軍を持ち、互いににらみ合い、脅迫し合うことでしか平和を維持できない状態が続いているのか、なぜ世界各地で紛争が起きているのか。この事実に対して「大国の司令部は愚かなのだ」「紛争が起きているのは先進国においてではない」などと指摘する向きもあるかもしれないが、それらは最も穏やかで慈悲深く、そして丁寧で美しい言葉を選ぶなら「勘違いにまみれ、人間と戦争の本質から目をそらした愚かな発想」であるというほかない。いささか攻撃的に聞こえるかもしれないが、一般的に使われているのと同程度の正確性を担保した上で比喩を使うのであれば、その指摘をすることは「議員と国務大臣と軍の最高指揮官をたった一人で兼任している職業軍人が恐怖政治によって治める国を最も民主化が進み自由で素晴らしい国である」と述べるのと同じである。現代においてもなお、先進国でさえも、戦争は大きな意味を持つ現実的な外交手段なのである。
日本が警戒されずに戦争を起こす現実的なプランは(あくまで一例ではあるが)以下のような四段階のものが考えつく限りでは最も現実的である。
第一段階:子供達への教育を変える。具体的には戦争、特に記録が多く自国が関わっている戦争について残虐行為やグロテスクにも映る残酷な面を強調し、原因については軽く流すだけの記述を施した「戦争で兵士や政府が行う残虐行為」と「占領した場所がどんな目に遭い、どんな酷い有様になるか」以外を殆ど伝えない教科書を作って使わせる。そして自国が関わった戦争に絶対的で揺るがぬ「被害者」を仮想上で作り上げ、「戦争について語ったり触れたりしてはいけない」という意識を植え付け、戦争についての知識に積極的に触れさせないようにする。それから全国の書店に戦争について書かれた書籍を目立たぬ場所に移動するよう指示し、戦争関連書籍の売り上げを下げて出版社に次なる書籍の出版を断念させる。全ての場面において平和をうたい、楽しく明るくお気楽な思考回路を広げるために授業における話し合いをなくし、権威は絶対的なものであると教育する。
第二段階:民衆自ら戦争に関する表現や発言、公的な権威に逆らう主張を弾圧するようになったのを確認し、その弾圧されている人々を秘密裏に戦闘員にする。そうして自衛隊を拡大して事実上の軍隊にし、それを報道に敢えて批判させる(民衆に報道各社は味方であり、報道の自由が保障されていると思い込ませるため)。その報道を受けて兵力を減らしたように見せるため予算額を偽装し、さらなる軍備拡張を秘密裏に行う。もちろん政府の真の目的を国民に悟らせないために情報を漏洩したりしようとする者がいれば暗殺あるいは別件逮捕し、処刑する。
第三段階:「戦争が起こる可能性などない」「現代では戦争などナンセンスだ」と市民が考え、戦争発生を止める力も戦争を知らないことによって失われ、それについて論じる力すらなくしている間に戦争準備を最終段階まで進める。そして報道各社には戦争準備について過小評価させ、「実際に戦争になることはないだろう」と報道させる。
第四段階:あらかじめ密約を結んでおいた国(日本と関係があまり良くないと表向き見せておく)に宣戦布告、その国の力で自衛隊が全滅することを国際的に認めさせる。そして自衛隊で総攻撃をかけ、自衛隊を全滅させる。そのまま日本は無条件降伏し、その密約を結んでおいた国の属国になって密約通りの見返りを受け、私は密約を結んでおいた国の新たな戸籍を得て戦勝国の国民となり、悠々自適に過ごす。
いかがだろうか?私には戦争を起こすとても現実的な方法であろうと思える。欠点といえば、時間がかかることぐらいだろうか。
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