第7話 穴掘り計画
昼の鐘が鳴った。兵士たちは作業をやめ、各自の休憩所へ向かっていった。
ソーディアンも地面をスコップで掘る手を止めた。徹夜の疲れはまだ抜けていなかったが、土を掘るくらいならいくらでもできそうだった。他の兵士の五倍くらいの速さで穴が広がっていくが、しかし、ゲノザウラーを埋めるための穴となると、ソーディアン一人がいくら頑張ったところでたかが知れている。人海戦術で掘り進めるしかない。
ソーディアンは焦る。休んでいる場合じゃない。こうしている間にもゲノザウラーは腐敗し膨らんでいる。それに、国中の魔獣の死体も放置されたままだ。
ゲノザウラーを埋めても地下水が汚染されるし、根本的な解決にはならない。しかし森側を深く掘って落とすことができれば、とりあえずモーリダニ川全域の汚染は食い止められる。最善ではないが、次善の策だった。ひとまず埋めて、それから他の魔獣の死体をどうするか考えなければ。しかし、いい方法があるとは思えなかった。結局、焼く以外にはないのだ。
「おい、ソーディアン。お前がいつまでもそこにいると、他の兵士が休みづらいだろ。さっさと飯を食いに行け」
アテルだった。手にしたタオルをソーディアンに差し出し、ソーディアンはそれを受け取った。
「ああ、そうだな。ありがとう」
タオルは冷たい水で濡らしてあり、顔を拭くとすっきりした。心はもやもやしたままだが、アテルの言うとおりに食事にすることにした。
歩いていく途中の、兵士たちの視線が痛い。
総責任者はソーディアンなのだ。今現在ゲノザウラーの河川外搬出計画は失敗に終わっている。引っ張るのがしくじれば、今度は穴掘りだ。どう見ても場当たり的な対応にしか見えない。
実際、森側の土地を掘ってそこにゲノザウラーを落とすという案は、朝食後の会議で決まったことだ。八五〇〇〇人という人数を集めて失敗でしたでは、国威を毀損する。何らかの成功という形が必要だった。その為の苦肉の策だ。
しかし急に決まったから、地面を掘るスコップさえ無い。神殿騎士団の工兵隊が持ってきていたものが二〇〇本。そして朝から丸太を削って作ったものが一〇〇本。神殿騎士団は兜を持ってきていたので、それをスコップの代わりにして地面を掘っていた。それが千人。残りの八三七〇〇人は見ているだけだ。スコップは工兵隊が順次作っているが、とても間に合うものではなかった。
まるで葬儀のような陰鬱な雰囲気が漂っていた。兵士の士気はまだしも、一般人の参加者の士気は完全に失われていた。
その責任はソーディアンにあった。元をただせば、ソーディアンが川の外でゲノザウラーを仕留めていればよかったのだ。しかし、戦っている時は、まさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。それが甘いと言えば、甘いのだろう。
他の兵士に混ざり、席について食事をとる。何の味もしなかった。
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