2-3
「まったくおまえらときたら……。なんでお客さんを連れてきちゃうかね」
「ボス、そんなこと言ったって早く戻らないと夕方やってる『ひょっこりぽんたん島』のテレビが見られないじゃないすか」
「このバッカもん!」
ボスの怒鳴り声で目を覚ました貴志は、辺りを見回した。
あれ、僕はどうしたんだっけ?
寝ぼけまなこで隣を見ると森野さんが青い顔をしてこちらを見ている。
あーそうか、僕達は捕まったのか。
貴志はようやく状況を理解した。
森野と一緒に後ろ手に手錠をされて椅子に座らされ、さらに足首と机の脚の貫が足錠でつながっていた。この状態では逃げるにしても重い机を引きずって歩かなければならない。
犯人達の中でボスと呼ばれる年配の男が貴志に話しかけた。
「いまお目覚めかね。彼女の方は先ほどからお目覚めのようだけどね」
「これはどういうことですか。あなた方は誰ですか」
小太りの男が困ったような声で言った。
「あんたらが予定外にも俺らの車に乗り込んできたので、成り行きでしょーがなく連れて来ちゃったのよ。俺らはただ宇宙人の爪が欲しかっただけ!」
森野が急にヒステリックに叫んだ。
「そんなの泥棒じゃないの!」
「その通り。世間では私たちのことをパズル窃盗団と呼んでいるみたいだが、ご存じかね」
ボスと呼ばれる男が言った。
「さて我々はこれから商談の予定があってだね、邪魔な君たちをここで殺してもいいのだが、それじゃあ、あんまりだ。そこで君たちに一つチャンスをあげようじゃないか」
そう言ってボスは机の上に爆弾らしき物を置いた。
「タイマーは999にセットしてある。1カウント1秒だから約十六分後にはカウント0になる。足錠も外して欲しいかい。だったらこのパズルを解いてもらおう」
そう言ってボスは貴志と森野の手錠を外し、立方体の箱を一個ずつ渡した。
「この箱の側面が十五パズルになっていて、四面全てクリアすると箱の上面が開くわけだ。中には鍵が入っているから、その鍵で足錠を外して脱出したまえ。ただし足錠の鍵はそれぞれ別になっているから各自頑張ること。それとどちらかにパスコードを書いた紙が入っているから、それでこの起爆装置を止めたまえ。爆弾には振動センサーが付いているから揺らすとボン……だよ」
ボスはニヤニヤしながら爆弾のスイッチを入れるとタイマーが動き出した。
「ちなみにここは廃ビルで、大声を出しても誰も来やしない。まあ落ち着いてやればギリギリ間に合うはずだよ。じゃあ我々はこれで失礼する」
そう言って窃盗団は部屋から出て行った。
「二人でこの机を持ち上げて、逃げるのはどうですか?」
「だめよ。机と爆弾がワイヤーで繋がれているもの」
机を振動させずに移動させるには無理がある。
森野は半泣きの顔でパズルを解き始めが、焦りもあってなかなか進まない。
パズルの嫌いな貴志はそれをぼーっと見ていた。
半泣き顔の森野さんもなかなか可愛いとかそんな不埒な事を考えている貴志に、
「貴志くんも早くやりなさいよ!」
と森野がヒステリックに叫んだ。
ああそうだった。森野さんの可愛い顔を見ている場合じゃなかったと貴志が反省する。
「じゃあ僕もやりますが、すみません、ちょっとだけ目をつぶってもらえますか」
「この緊急時に一体何なの!」
「お願いします。気合いを入れたいんです」
貴志が強い口調で頼んだので、森野は何も言わずに目をつぶった。
やっぱり素直で可愛い人だと思いながら貴志は右の拳を宙に突き上げ、小さな声で呟いた。
「メル、俺に力を貸せ!」
すると頭の中が爆発するような高揚感が沸き起こり、体から緑の炎が吹き出した。
この炎はオーラとでも言うのだろか。
こんな姿を見られるわけにはいかないよな、と貴志は思う。
「もういいですよ」
「気合いは入ったの?」
「ええ、十分に」
貴志がパズルを解き始めると森野はその指さばきに圧倒されたのだろう。何も言わずにポカンとした顔で貴志の指の動きを見ている。
「さ、解けた!」
貴志は一面を数秒で、四面を三十秒程で解くと箱から鍵を取り出した。
残念ながら起爆停止のパスコードを書いた紙は無かった。
「うそでしょー!」
森野が感嘆して声を上げた。
貴志が足錠を外すと、
「これから犯人を追いかけます」
と言って軽い足取りで部屋を出た。
背後から「待ってー」と声が聞こえたが、貴志は物凄い早さで階段を駆け下りて行った。
「ボス、あれは本当に爆弾ですか?」
「ただのハッタリさ。次の仕事に使う予定だった小道具だ。ただの時間稼ぎさ。すぐに追ってこられても困るからね」
「さすがボス。人が悪いや」
「何を言うか、こら!」
貴志がビルの表へ出ると小太りの男と長身で体格の良い男二人がライトバンのバックドアを開けるのが見えた。
インテリ風のやさ男が別のライトバンのトランクに乗せろと合図する。
輸送箱を他の車に乗せ替えるつもりらしい。用意周到なことだ。
「おまえら、ちょっと待て!」
貴志は大きな声を上げて走り寄った。
「あれれ、なんでこんなに早く来ちゃうんだい?」
「ボス、パズルが簡単すぎたんじゃないですか」
「いやいや、そんなわけあるか。俺がやっても二、三十分はかかるんだが……」
「おい貴様、どんなズルをやったんだ? えっ!」
小太りの男が怒鳴った。
「兄さんよ、こいつは元プロボクサーだったんだぜ」
ボスはそう言うと「おいヤスジロー、ちょっと相手をしてやれ」と命じた。
「それじゃ兄ちゃん、俺が相手をしてやろう」
そう言うと小太りの男は貴志の前に悠然と身構えた。
小太りで元ボクサーと言われてもな……。
「おっ! おまえいま俺を馬鹿にしただろう」
男は太っている割には軽い身のこなしでシャドーボクシングをして見せた。
「さあ、覚悟しな」
最初は軽いジャブから始まり、だんだん本気になって鋭いパンチを当てに来たが、貴志は体をスウェーしながら身軽に躱していく。
何回かパンチを躱しているうちに男の息が上がり、パンチが波打つようになってきた。
男が空振りしたところに、貴志は下から突き上げるようにボディーブローを叩き込んだ。
ウッと絞り出すような声を出して男は地面に膝から崩れ落ちた。
「なんだ情けない」
ボスが嘆いた。
「じゃあ俺が相手しよう」
次は大きなガタイの男が前に出た。
「ショウヘイ、お前ちょっとやりすぎるから手加減してやりなよ」
髪は薄いが四十才位と思われる。動きが結構身軽い。男はいきなり回し蹴りをしかけてきた。
貴志はしゃがむと軸となった足に手をかけて思いっきり引っ張った。
男はドタンと大きい音を立てて尻餅をついた。
「この野郎!」
そう言って立ち上がろうとしたとき、無防備になった脳天にそのまま空手チョップを打ち込んだ。
予想もしていなかったのだろう。あっさりと気絶した。
残りはあと男二人である。
痩せたインテリ風のやさ男はブルブル震えて呪文みたいに「暴力反対、暴力反対」と唱えていた。
「ミノル! 何してる」
ボスに一喝されて腹をくくったらしい。
やけになって頭から突っ込んできた。
貴志はひらりとかわして首の後ろに手刀を打ち込んだ。
男は「んっ」と言って地面に突っ伏して気絶した。
「さあ、あなたが最後ですがどうしますか」
ボスはさすがに貫禄がある。カンフーの真似をしながら呟いた。
「ぼくはこうみえても空手は黒帯で結構強いんだよ。さあかかってきたまえ」
軽く前蹴りの動作をする。
「イテテ」
ボスはその場で腰を押さえてへたりこんだ。
貴志はあきれて少し前屈みになりながら、「おいおい、大丈夫か」と声をかけた。
「スキあり」
ボスはいきなり両手で貴志を突き飛ばすと、そのまま全速力で駆け出した。
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