第18話 霧と黒幕


東の果実フォビドゥン・フルーツ】の本拠地を潰したオレたちは、また空を飛んで今度は北区を支配する【霧の巨人ヨトゥン】のもとへと向かっていた。

 ピーターが言うには、ブラウの誘拐を【東の果実フォビドゥン・フルーツ】と【豊穣の南風ノトス・アウステル】のせいにして【邪妖精の眷属スプリガン・ファミリア】をけしかけ、時間稼ぎもしくは高みの見物をしているという。

 本当にそうだろうか?

 もしオレが【霧の巨人ヨトゥン】だったならば、今頃戦力を整えて待ち、疲弊した三つの組織を横から攻めて漁夫の利を得る。東と南は攻め落とせなくても、二つ同時に相手した【邪妖精の眷属スプリガン・ファミリア】は酷く消耗するはずだから、簡単に倒せるだろう。


「旦那! 急いでくれ! 【霧の巨人ヨトゥン】は一番ヤバいんだ! 殺しだって平然とする奴らだ。ブラウちゃんが危ない!」


 魔王たるオレに運ばれておいて急げだと? いい度胸だな。

 だが、今だけは許してやろう。娘同然の少女が誘拐されたのだ。例え王の御前でも平静を装うことは不可能に違いない。

 急ぐというのは一番効果的かもしれぬ。【霧の巨人ヨトゥン】はこれほど早く【東の果実フォビドゥン・フルーツ】と【豊穣の南風ノトス・アウステル】が倒されるとは想定していないはずだ。今なら準備が完了する前に攻め落とせる。

 魔王としては本気で挑みかかってもらい、真正面から叩き潰したいところだが。

 まあ、今回はシルキーとの約束でブラウ救出が最優先だからさっさと終わらせよう。


「ブラウも難儀だな。二度も誘拐されるとは。一度目は誰かに誘拐を依頼され、二度目は抗争の人質か。というか、なぜブラウなのだ?」

「ブラウちゃんは誘拐されるほど可愛いだろうが!?」


 あぁ……ピーターから面倒くさいオーラを感じる。可愛いと肯定しても『ブラウちゃんはやらんぞ!』と絡まれ、否定しても『ブラウちゃんが可愛くないってのか!?』と絡まれる。

 うむ。スルーが一番だな。これ以上うるさければ空中で揺さぶってやれば黙るだろう。


「って、ちょっと待て、旦那! 誰かに誘拐を依頼されたってどういうことだ!? 俺は聞いてないぞ!」

「ん? 言ってなかったか? 捕縛した盗賊たちが言っていたぞ。誘拐と引き渡しの依頼を受けたとな」

「チッ! そうか。俺たちに対する人質じゃない可能性もあるのか! クソッ! それだったらもっとマズい!」

「ブラウが誘拐される理由があるのか? ただの町娘だろう?」

「いや、実はそれが……ブラウちゃんもシルも家妖精なんだ」

「家妖精……?」

「おいおい! 旦那わからないのかっ!?」


 常識だろ、と首根っこを掴まれたピーターが見上げてくる。

 仕方がなかろう。前世の記憶が蘇る前のオレは実験が生きがいで他人に興味がなかったのだから。


「……盗賊を潰した際、オレは頭に一撃を喰らって記憶が一部消失しているのだ」

「あっ、なるほどな。そういうことか。じゃあ、忘れちまった旦那に教えてやるよ。家妖精って種族は希少な種族なんだ。彼らが得意なのは家事の全て。しかも、一人で常人10人分以上の仕事をこなすのさ。本気を出したら数人の家妖精で城を丸ごと管理できるって話もある」


 なるほど。家妖精とは家事に特化した種族なのか。

 数人の家妖精で城を……それはすごいな。ぜひとも魔王城にスカウトしたい人材である!

 シルキーの卓越した料理の腕とブラウの掃除能力にも合点がいった。二人が家妖精と知ったならば、ますます逃すわけにはいかない。絶対にオレの配下になってもらう。


「大抵の家妖精は王侯貴族が囲っている。家妖精を雇うこそが一種の社会的地位ステータスでもあるらしい。だからお貴族様による勧誘という名の誘拐も昔から頻発しているんだ。しかも、四大美形種族までとは言わないが、家妖精は容姿が整っている」

「確かにブラウもシルキーも端正な顔立ちだな」

「だろう? 家妖精はそっち系の需要もあるんだとさ。胸糞悪い!」


 ということは、貴族の誰かがブラウの誘拐を依頼した可能性もあるのか。

 うむ……いろいろとややこしい。

 二度目の誘拐も一度目と同じ依頼人によるものだったりしてな。


「せめてブラウちゃんたちが家にいるときに襲ってくれればよかったのに。家妖精は自ら家と定めた領域では無敵なんだぞ!」

「そういうIFの話は言い始めたらキリがないぞ。詳しい話は【霧の巨人ヨトゥン】に聞こうではないか。ほれ、豪勢な出迎えをしてくれるらしい」


 やはりこの後、他の区を攻めるつもりだったのか、【霧の巨人ヨトゥン】本拠地の敷地内には戦闘準備を整えた構成員が多く集まっていた。他の裏組織と比べるとならず者が多い印象だ。

 誰もが空から近づくオレたちを殺意交じりの好戦的な眼差しでめ上げてくる。

 さて、魔王の降臨だ。相応しい演出で登場せねば。

 オレは魔力を全開にして【霧の巨人ヨトゥン】を威圧し、低い声で傲然と命じる。


「――平伏せ」


 その瞬間、重力を操作して彼らの重さを何倍にも増加させ、多くの者が耐えられずに地面に這いつくばった。何とか耐えた者も険しい表情で膝をついている。

 オレたちは地面に降り立ち、敵を重力から解放する。


「面を上げよ。次にオレを出迎えるときは自ら首を垂れるんだな、【霧の巨人ヨトゥン】の者どもよ」

「お、お前は――!」

「ん?」


霧の巨人ヨトゥン】の構成員の中で頭一つ分抜きんでた巨躯の男が、凄まじい憎悪と殺意を込めてオレを指さした。

 どこかで見覚えのある男だが……どこかで会っただろうか?


「……誰だ? 無礼な奴め」

「冒険者ギルドのことを忘れたとは言わせねぇ! 俺様の腕に何をした!?」

「冒険者ギルド……おぉ! 思い出した! オレたちに絡んできたのはいいものの、あっさりと返り討ちにあって失禁した自称元Bランク冒険者ではないか! 確か名前は……フリフリ?」

「フリームだ!」

「そうだそうだ。フリームであったな。思い出したぞ」


 エリザとリリスに鼻の下を伸ばして吹き飛ばされ、逆ギレで殴り掛かってきたから腕の痛覚を鋭敏にさせた上で拳を粉砕したのだった。

 股間はもういいのか? 執拗に蹴られていたが。あの怪我を治すには相当お金がかかるだろう。まあ、知ったことではないが。

 そう言えば奴の背後には【霧の巨人ヨトゥン】がいると自慢していたな。本当に【霧の巨人ヨトゥン】の仲間だったようだ。


「おい旦那」


 ピーターが背後からこっそりと耳打ちする。


「冒険者のフリームって悪い噂が絶えない奴だぞ。数日前に冒険者ギルドから資格停止処分を喰らってる」

「ふーん。どうでもいいな」

「あと、ブラウちゃんを攫った奴と背格好が似ている」

「ほう? それはいい情報だ」


 これでフリームとやらがブラウ誘拐の実行犯だったら話は早い。打ち倒して情報を聞き出せばいいからな。


「フリームとやら、一つ聞きたいことがある。ブラウニー・ベルという名に心当たりはないか?」

「あん? そこの【邪妖精の眷属腰抜け野郎】が囲っている店の娘だろう? さっき俺様が攫ったぜ。東のバカと南のアホを装ってな。その様子だともうバレたみたいだな」

「てめぇ! ブラウちゃんをどこにやった!?」

「フハハハハ! どこだろうなぁ? 今頃、男の体の上でよがっているかもなぁ! 快楽にむせび泣きながら!」

「……もしブラウちゃんに何かあったらお前を殺す!」

「お? もしやお前の狙ってた女か? それとも娘か? 助けに来るのが少し遅かったなぁ!」

「くっ!」


 今にも殴りかかろうとするピーターをオレは引っ掴む。おぬしは戦闘力がほぼ無いのだから大人しくしておけ。

 自慢気にニヤニヤと優越感に満ちた笑みを浮かべるフリーム。

 正直に答えてくれて助かった。一人一人尋問する手間が省けたぞ。


「ルシファの旦那……俺はもう自分が抑えられそうにねぇ……!」

「そうか。だが、おぬし一人が特攻したところでどうすることもできまい」

「だから旦那……頼む! 一刻も早くブラウちゃんを助けたいんだ!」

「ふん。まあよかろう。シルキーとも約束したからな」


 ブラウに何かあればシルキーが悲しむ。

 それに娘一人無事に助けられないのは魔王としての沽券に関わる!

 凌辱された娘を連れ帰っても何も格好良くないではないか。オレが理想とするのはあらゆる運命を打ち砕く理不尽の権化だ。

 娘を無事に助け、母娘ともどもオレに感謝し、心酔し、彼女たちには崇拝を持って仕えさせよう!

 そのためにオレはブラウは無事に救出する。これは魔王たるオレの決定だ。


「【霧の巨人ヨトゥン】の雑魚どもよ。早くかかってこい」


 クイクイッと上から目線で挑発してやると、好戦的な輩はピキッとこめかみに血管が浮かんだ。全身から噴き出る魔力。誰もが怒りで顔を真っ赤にしている。

 特にフリームの怒りや殺意は凄まじく、顔が赤黒く染まっていた。


「お前だけは絶対に殺してやる……! やれっ!」


 フリームの号令で【霧の巨人ヨトゥン】が攻撃を仕掛けてくる。

 世界に広がる白い闇。オレたちの視界は真っ白な霧で覆われた。


「旦那! 霧に紛れて攻撃してくるのが【霧の巨人ヨトゥン】の常套手段だ! 気をつけろ!」


 ヨトゥン。霧の巨人。なるほど。真正面から攻めてくる脳筋の武闘派組織かと思いきや、霧に紛れるという組織名通りの巧妙な手段も使えるらしい。

 霧の中から魔法発動の兆候が感じられ、オレたちの周囲を囲むように近接戦闘部隊が迫ってくる。


「ボス。ここはワタシたちに任せてぇ」

「魔法で霧を吹き飛ばします」


 エリザとリリスが進言するが、


「いや待て。ここはオレがやる。おぬしたち、そこから動くなよ」


 一言忠告するとオレは一歩進み出て、霧を掴むように片手を前に突き出す。

 そして、魔王らしく悪辣な笑みを浮かべた。


「知っているか? 水蒸気は100℃を超えるのだぞ」


 オレは魔王であり、万物の組成を操る錬金術師でもある。目の前の空間に向けて錬金術を発動させ、空中に水蒸気となって漂う大量の水分子を激しく振動させる。

 振動とは熱運動。つまり熱エネルギーに等しい。

 温度が高くなればなるほど分子や原子の振動は激しくなる。逆に言うと、分子や原子の振動を激しくさせれば温度が高くなるのだ。

 発動した錬金術によって気温より少し低かった水蒸気が一気に数百度まで温度が上昇。姿を覆い隠す味方だった霧が、突如【霧の巨人ヨトゥン】たちに牙を剥く。


「「「ぎゃぁああああああああああっ!?」」」


 阿鼻叫喚の悲鳴が高温の霧の中から迸った。熱さや痛みでのたうち回る音も聞こえてくる。

 頃合いを見て水蒸気を吹き飛ばすと、そこは死屍累々の地獄絵図と化していた。

 まあ、さすがに手加減したので死んだ奴はいないが。

 体中を真っ赤に火傷した【霧の巨人ヨトゥン】の構成員たち。呼吸で熱い水蒸気を吸い込んでしまい、鼻や口、気道など、体内が焼け爛れた者もいるようだ。金属製の鎧を着ていたものはさらに悲惨だ。金属が熱を持って今も装着者を蝕んでいる。

 まさか霧が高温になるとは誰も思わなかったことだろう。

霧の巨人ヨトゥン】の軍勢は一瞬にして壊滅した。


「はぁん……ボスぅ! 素敵ぃ!」

「なんというお力……さすがボスです!」


 辺境の町の一区画しか支配していないちっぽけな裏組織に苦戦しないのは魔王として当然のことだが、エリザやリリスという絶世の美女たちにうっとりと熱い眼差しで褒められるのは悪い気分ではないな。

 ただ一人、


「旦那……えげつねぇ……」


 背後のピーターだけドン引きしているが、気にする必要はないだろう。

 オレにあれだけ殺意を向けてきたフリームという大男は、襲い掛かろうと近くに寄っていたらしく、すぐそこで白目を剥いてビクンビクンと痙攣している。

 おぉ。そういえば腕の痛覚を鋭敏にしたままだったな。その状態で火傷など拷問にも等しい。痛みで発狂してもおかしくない。

 だがまあ、無力化することはできた。あとはブラウの情報を聞き出すだけだ。

 空気中の窒素と水素を結合させて、フリームの鼻の近くにアンモニアを生成させる。気付け薬だ。


「起きろ」

「うが……ぎゃぁあああ! 腕がぁぁあああああああ!」


 ――ビクンビクンッ!


 おっと。そのまま目覚めさせたことで痛みを感じてしまったようだ。再び絶叫して気絶した。


「旦那……えげつねぇ……だが少しスッキリしたぜ! ざまぁみろ!」


 ピーターが奇しくもフリームの痛覚に鋭敏になった腕を蹴飛ばし、痛みによる覚醒と気絶を繰り返して口から泡を吹き始めた。


「なにをする、ピーター。これでは尋問ができないではないか」

「え? 拷問をして口を割らせようとしていたんじゃなかったのか、旦那」

「なぜそんな回りくどいことをせねばならん。時間の無駄だ。こいつの痛覚を一時的に遮断して……リリスよ! おぬしの出番だ」

「かしこまりました」


 気付け薬でフリームが意識を取り戻す。今度は痛みを麻痺させているから気絶はしない。目覚めて状況が把握できない一瞬の隙を狙って、リリスが濃密な魅了を放った。

 周囲に脳が痺れるほど深くて甘い芳香が漂う。妖しく輝いた紫紺の瞳がフリームを捉える。


「ぐっ……み、魅了程度、対策をしていないわけが――」


 ――パリーン!


 フリームの懐からガラスが砕け散るような澄んだ音が響き渡った。

 おそらく魅了などの状態異常耐性を付与する護符かマジックアイテムだったのだろう。しかし、リリスが醸し出す強力な魅了に耐えきれずに、マジックアイテムが壊れてしまったらしい。

 フリームの瞳から光が消え、魅了された者特有の虚ろな目となって表情から感情が抜ける。

 そんな彼にリリスが甘く囁きかける。


「答えなさい。ブラウニーさんはどこにいますか?」

「……依頼人のところだ」


 ボソボソと抑揚のない無感情な声でフリームが呟く。

 どうやらブラウは依頼人に引き渡されたあとのようだ。道理で人質として利用されないわけだ。


「依頼人とは誰です?」

「……アクダイだ」


 アクダイとは誰だ? とオレ、エリザ、リリスの三人が首を傾げていると、フリームが告げた依頼人の名前にピーターが激しく反応する。


「アクダイだと!? あいつかっ!?」


 髪を掻き毟って大きく深呼吸をし、なんとか冷静さを維持する。

 ピーターがここまで取り乱す理由がオレたちにはわからない。


「ピーターよ。アクダイとは誰だ?」

「そっか。ジュラスに来たばっかりの旦那たちは知らねぇのか。そいつはな――」


 フーッと深い息を吐いたピーターが、眉間に皺を寄せて険しい表情でブラウ誘拐の黒幕を告げる。


「アクダイ・カァーン。インヴィディア公爵家から派遣されたジュラスの代官、この町の実質的な統治者支配者だ」




 ■■■



「起きろ!」


 ――ピシッ!


 空気を切り裂く音と体に走った鋭い痛みでブラウニーは目覚めた。太ももがジクジクと熱い痛みを発している。

 涙が浮かんだ視界に真っ先に入ってきたのは、重厚な圧迫感と閉塞感を感じさせる灰色の無機質な石の天井と壁。そして、黒い乗馬用の鞭を手にしていやらしく笑う、小太り禿頭の中年の男だった。


「だ、誰っ!? ここはどこっ!?」

「私の許可なく口を開くな!」

「きゃあっ! 痛いっ!」


 空気が切り裂かれ、体を鞭で容赦なく打たれる。焼けるような痛みが駆け抜けた。

 咄嗟に防御や叩かれた場所を押さえようとした時、ブラウニーは身動きができないことに気づく。

 ガチャガチャと響く甲高い金属の音――

 両手は『Y』のように開かれて、手首を冷たい金属の枷が嵌められている。脚も大きく開かれて足枷と鎖で硬いベッドに繋がれていた。

 彼女は自分が誘拐、監禁されたことを理解する。

 込み上げる絶大な恐怖。前回誘拐された時よりも遥かに状況が悪い。


「いいぞ、その恐怖に満ちた顔は! 私の心が満たされるではないか! あぁ、そそられる!」


 怯えるブラウニーの泣き顔を眺めて、中年の男、アクダイ・カァーンは歪んだ笑みを浮かべる。


「抵抗できないだろう? どれだけ騒いでも助けは来ない。今の気分はどうだね……?」


 ねっとりと囁くような聞き覚えのある声で問われ、ようやくブラウニーは男の正体を悟る。ジュラスの市民なら誰もが知っている男である。


「あ、あなたはジュラスの代官の……」

「そうだ! 私がジュラスの支配者アクダイ・カァーンだ! この私の次なるオモチャに選ばれたことを光栄に思うがいい、ブラウニー・ベル」

「ど、どうして私の名前を……」

「ジュラスは私の町だぞ? 気に入った娘の名前と顔など把握しているに決まっているじゃないか。お前が生娘なことも知っている……」

「ひぃっ!? 変態!」

「変態とは何だ! ジュラスの民は全員私の所有物だ。どう扱おうが私の自由! 気に入った娘をオモチャにするのもな! 前回のオモチャは体つきは良かったが、すぐに壊れてしまったからなぁ。今回は長く楽しませてくれよぉ、ブラウニー?」


 ニタリ、とカァーンが下賤に笑い、ブラウニーの背筋に悪寒が走る。嫌悪。恐怖。生理的に受け付けない。しかし、手足が拘束されており、ブラウニーは何をされても拒絶も抵抗もできない。

 もしここが彼女の家ならば、種族特性でどうにかできたのに……。


「こ、来ないで!」

「いい顔だよぉ、ブラウニー。その表情をもっと歪ませたくなる。気持ちよさで蕩けさせるのも面白そうだ。お前を大人の女にしてやろう。女の喜びというのを知るといい」

「や、やめて……! お願いですから、やめてください……!」

「最近、公爵家の出来損ないの娘が私の町で好き勝手してストレスが溜まっているんだ。ただでさえ一度お前の調達に失敗しているのに、もう我慢ならん! 今日こそお前で発散してやる!」


 突然、カァーンが声を荒げて下半身の服を脱ぎ捨てた。彼女の目の前に男の下半身が露出する。

 恐怖と嫌悪しか感じない見知らぬ中年男のブツにブラウニーは目を見開き、




「――っさ!」




 思わず本音が漏れた。


「……は?」


 カァーンの動きが止まる。しかし、恐怖かつ混乱している彼女の本音は止まらない。


「えっ? 小っちゃい……ドングリみたい……」

「ドン……グリ……?」

「男性のアソコってそんなに小さかったっけ? でも、お風呂に入った時に見たおじ様のは物凄かったし。あれはドラゴン級だったなぁ!」

「ド、ドラゴン級……?」

「あ、いや、ルシファおじ様と比べたらダメだよね。えーっと、可愛いですよ?」

「か、可愛い……?」


 ブラウニーのフォローになっていないフォローよって、カァーンの自尊心プライドは粉々に砕け散った。いろいろと自信を持っていただけに、彼女の容赦ない言葉に心がズタズタに引き裂かれる。

 呆然自失のカァーン。

 だが、彼はすぐに気を取り直す。烈火の如き憤怒の感情とともに。


「女ぁああああああ! 許さん! 許さんぞ! この私を侮辱したことを思い知らせてやる!」


 成人男性の全力で振り下ろされる黒い鞭。衣服が破れ、柔肌が裂け、辺りに鮮血が飛び散る。

 何度も何度も鞭が空気を切り裂き、抵抗できない少女を一方的に傷つける。



 ――ブラウニーの絶叫は誰にも届かない。







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