SibainuSlayer Hachi =シバイヌスレイヤー ハチ=

もがみなち

1度目の人生

「はっちゃん...」


目に涙を浮かべた少女が力なく横たわる私を見ている。

隣にいる母親は少女にやさしく声をかけた。


「ハチはね、遠いところに行ってしまうの。でもね、いつでもあなたのことを見ているのよ。」


「ほんとう?」


「えぇ、だからお別れをしましょう。」


母親が私の頭をなでる。


「はち、お疲れさま。今までありがとう」


瞼が重くなっていく、意識が遠くなる。

私が最期に聞いたのは少女の言葉だった。


「はっちゃん、またね。」


私のの生はここで終わる。

とても幸せで優しい日々だった。

願わくばもう一度、もう一度だけ同じ時を過ごしたかった。


◆◆◆


「おーい、聞こえていますか?」


誰かが、私を呼ぶ声がする。

今までの体の重さはなぜか消えていた。

昔のように体が軽い、なぜだろう?

二度と開かないと思っていた瞼を開く。

まず、飛び込んだのは一面が白の世界。


(まぶしい。ここはどこだろう?)


「おはようございます。」


焦点が次第にあってくる。

どうやら私に話しかけていたのは、

目の前で椅子に座っている白衣の女性のようだ。

短い黒髪で身長はそこまで高くない、特徴という特徴は頭にさしている花飾りぐらいだろうか。


「ここは、死後の世界です。」


(死後の世界?)


「はい、そうです。本来であればこのまま元の世界に転生するのですが」


(転生?)


ここで強烈な違和感がある。

本来ならばありえない事象が発生していた。


(会話が成立してる!?)


「そちらの思念を読み取っておりますので、普通に話していただいても構いませんよ?」


(話すって言っても...。)


それは無理な話なのだ。

なぜなら私は犬・なのだから。

純血統15歳(♀)。

父も母も曾祖父だって、いくら辿ったとて私は犬だ柴犬なのだ。


「現世ではそうでしょうが、ここは特別な空間なので話せますよ」


(そんなことってあるのだろうか。)


恐る恐る声を出してみる。

いつもであれば、何を発しても鳴き声にしかならない。


「こんにち...ワン」


私の声は、私の飼い主の少女とにそっくりだった。


「かわいい挨拶ですね、こんにちワン」


目の前の女性はクスクスと笑っていた。

生まれて初めて言葉を発したので語尾にワンがついてしまった。


「やっと、本題に入れますね。私はナナ、世界の管理をしている神様です。」


「神様?何ですか人間とは違う?」


「うーん。そこからですよね。。ちょっと待ってください。」


神様は私の頭に手を置き、何かを念じる。

次の瞬間、手が一瞬発光して消える。

私の脳内に何かが大量に流し込まれてくる。


「今あなたにあなたの年齢までの平均的な人間の知識を授けました。」


「私は神様理解できますか?」


神様、世界の創造者。

先ほどの私では理解できなっかった内容が理解できていた。


「はい、大丈夫ワン。」


「ワンはつけなくて大丈夫ですよ」


また、神様は笑っていた。

わざとじゃないのに...。


「それで、神様が私に何の用でしょうか。」


「あなたに世界を救って頂きたいのです。」


「世界を?私の住んでいた世界は平和そのものでしたが?」


「あなたの世界ではありません。別の異なる宇宙に存在する世界です。」


「異なる世界?」


「はい、その世界では魔王が誕生しこのままだと世界が消滅します。」


魔王ファンタジー世界の住人。

魔族の王様、大体悪い奴。

与えられた知識から内容を理解する。

ただ、少しだけ疑問が湧いてきた。


「神様であるあなたが、直接魔王を消せばよいのでは?」


「私は世界を創ることはできますが、その世界に直接干渉することができないのです。」


「諦めて、世界消滅では駄目なのでしょうか?」


少しばかりの沈黙、神様はばつが悪そうに答える。


「その世界が魔王によって消滅した場合、すべての世界が消滅してしまうのです。」


「えっ!?すべて?」


「はい、あなたの家族がいた世界も消滅します」


「な、なんでそんなことになるんですか?」


「魔王はその世界、それと並行世界を含めた世界すべてを憎んでいます。」


「だから、関係ない世界まで消してしまうと。」


なんて、迷惑なやつなのだろうか。

他の世界がどうなろうと関係ないと思っていたが、

私の家族に被害が及ぶのであれば見過ごせない。


「で、なぜ私なんですか?柴犬なんですけど。人間とか犬でもピットブルとか...」


「あなたに救ってもらう世界に存在する敵は黒影シュバルツといいます。」


「ん?どういうことです?」


黒影シュバルツといいます」


「???」


だから何なのだろうか。

もしかして、犬が弱点とかそういうことなのだろうか。

そんな奴が世界の脅威とは思えない。


「シュバルツ→シバルツ→シバイツ→シバイヌ(柴犬)が適任かと」


「駄洒落みたいな方法で私に決まったんですか!?]


「冗談ですよ、半分」


「冗談なら...って半分?」


「そこはおいといて、別世界に転生できる魂があなたしかいなかったのです。」


つまり、世界の消滅を防げるのはすべての世界を探しても私だけということなのだ。

柴犬が世界を救う物語、なんて無理そうな響きなのだろうか。


「柴犬の私にできるのでしょうか?」


「やらなければすべての世界は消滅します。」


「でも私、ただの柴犬ですよ?」


「なので転生時、あなたに人型を授けます。


向こうの世界にはちょうど獣人という種族がおりますのでそちらに合わせて人化させます」


「それならまだ何とかなりそうです、多分。」


「最後にあなたに一つだけスキルを授けます。」


「スキルって何ですか?」


「あなたが向かう世界の住人は生まれつき1つ以上のスキルをもって生まれます。


 例えば、超回復のスキルであればケガをしてもすぐ直ったりします。」


「なるほど、才能みたいなものって考えれば良いんでしょうか?」


「その解釈で問題ないです。あなたに与えるスキルは<思考加速ハイスピード>になります。」


「何ですか?それ」


「うーん説明が難しいのですが、頭の回転が少し早くなります」


「え、それだけですか?」


「それだけです」


明らかに戦闘向きではないスキル。

どうやって、魔王と対峙すればよいのだろう。


「ん、そもそも魔王を――。」


倒すのが目的なんですか?

と言いかけたところで神様が言葉を遮る。


「申し訳ございません。ハチさんをこれ以上この空間にとどめることは出来なさそうです。」


「それって。。。」


いきなり、私の足元に巨大な穴が開く。

なすすべなく落下が始まる。


「あなたがもし世界を救うことができたらまた会いましょう。」


神様とはここでお別れのようだ。

最期に一言挨拶をしたかったがいきなりすぎて反応できなかった。


これから、私のの人生が始まる


◆◆◆

ハチがいなくなった白い空間でナナはつぶやく。


「ほかに適任なんていないんだよ、あの娘を救えるのは君しかいない」


「任せたよハチ」



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SibainuSlayer Hachi =シバイヌスレイヤー ハチ= もがみなち @mogami_nachi

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