<第3部からでも大丈夫かも>悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜

鳥頭さんぽ

第1部 旅の始まり編

第1話 悪夢

 サラは迫る魔族を神より授かった魔法で撃ち倒す。

 もう何体倒したか覚えていない。

 覚えていたところで何の意味もない。

 至る所で戦いは続いており、どこも劣勢だった。

 どこへ救援に向かえばいいのか迷うほどだ。



 この世界、ラシュグリアは魔界の住人である魔族の侵略を受けていた。

 魔王率いる魔族の軍勢の力は圧倒的で、次々と国が滅ぼされていった。

 魔族の侵攻は今回が初めてではないが、これほどの規模となると約五百年前に起きた“暗黒大戦”と呼ばれる戦いにまで遡らなければならない。


 暗黒大戦ではこの世界に住むあらゆる種族が一致団結して魔族と戦ったが、その甲斐なく魔族に敗れた。

 魔族に支配された暗黒の時代、人口は現在の三分の一以下にまで減少したと言われる。

 その魔族の支配からラシュグリアを解放したのはジュアス教団が信仰する六大神によって力を与えられた勇者だった。

 勇者の力は圧倒的で次々と魔族を打ち破り、ついには魔王を倒してラシュグリアを魔族の支配から解放した。 

 その後、幾度も魔族の侵攻があったが、その度、勇者が現れて魔族を退けてきた。



 だが、今回は違った。

 先の大戦では全種族が一致団結して魔族に対抗したが、今回は魔族側に与する者達が現れた。

 人々の希望であった勇者達は魔王の前に次々と倒れていった。

 もはやラシュグリアが再び魔族に支配されるのも時間の問題であった。

 絶望し、自ら命を断つ者も後を絶たなかったが、最後まで諦めず抵抗する者達もいた。

 サラはその一人であった。

 だが、彼女がいた部隊は魔族の襲撃により今まさに全滅しようとしていた。



「!!」


 サラは強烈な殺気を感じた。

 そちらへ顔を向けると全身黒ずくめの青年の姿が目に入った。

 サラは酷薄の笑みを浮かべたその青年をよく知っていた。

 かつては魔族から世界を守るために共に戦った勇者であった。

 しかし今、サラの前に現れた青年は勇者ではなく魔王であった。

 それもただの魔王ではない。

 魔王達を統べる魔王の中の魔王であった。

 彼が手に持つ剣はいにしえの魔王が自身の赤き爪より作り出したといわれる魔剣だ。

 その刃が深紅に染まっているのは決して爪の色だけが理由ではないだろう。

 魔王の周りには無数の屍が横たわり、その中には彼が勇者だった頃の仲間達もいた。

 魔王の表情から笑みが消えた。

 魔王は虫けらでも見るように冷たい目をサラに向ける。

 サラが口を開きかけた時、一人の騎士がサラと魔王との間に割って入ってきた。


「サラ!お前は逃げろ!生き延びるんだ!」


 騎士はそう叫ぶと魔王に向かっていった。


「……邪魔だ。下等生物が」


 魔王はそう呟くと手にした魔剣を振るう。

 魔王と騎士との間にはまだ距離があり、刃が届く距離ではなかった。

 だが、騎士は無数の斬撃を浴び、装備もろとも切り刻まれ、塵と化して消えた。

 サラには魔王の剣技を目で追えなかった。

 魔王との力の差は歴然であった。

 サラがどう足掻いても勝てる相手ではなかった。

 サラは自分の命がここで尽きることを悟り、抵抗するのをやめた。


 魔王がサラの目の前まで迫る。

 サラを殺すだけならここまで近づく必要はない。先ほど騎士を葬った剣技を使えば済むことだ。

 魔王が口を開く。


「俺はお前の裏切りを絶対に許さない」

「!!」


 魔王の赤き瞳に宿る憎しみはあまりにも深く激しい。

 その感情を吐き出すために、直接刃で斬り刻むために魔王はサラに近づいたのだ。

 

 サラの心が後悔と絶望で埋め尽くされる。

 魔王の言葉が事実であるかのように。


「死ね」


 魔王はサラに魔剣を振り下ろした。

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