第7話「傭兵とステーション」

船の艤装に1週間ほどかかりました。

え?ほとんど完成してたんじゃないかって?

だって僕が方針決めてから、エルがなぜか船を再設計しだして結局船を一から作り直したからね。すごいですね、宇宙船ってい設計から組み立てまで1週間で終わるんですね。

ええ、姿かたちは殆ど変わってませんが、中身は最初から比べると雲泥の差があります。彼女いわく、”セーブモードでの計算はお遊びです。現在はマスターの為に全力で計算してます”とよくわからない事を胸を張って言ってました。あまり厚くない胸でですが。

それでできた新生エレビエルの艦橋にいます。

「マスター、出航の合図をお願いします」

艦長席に座るのはもちろん僕で、その隣のオペレーター席にエルがいます。どうやらそこは新たに作り直した彼女専用の席みたいで、席以外は何もありません。そもそも彼女、ケーブルとか物理的接触がなくてもとんでもない通信速度出せるみたいで、船の中にいても、けっこう離れてても問題なく船を動かせるみたいです。とんでも技術です。

そんなエルが作った船でようやくの出航なります。食料とかはプラントで製造して乗せこんでます。この船、内装も結構豪華で、まるで王宮とか言われても遜色ないくらいに豪華でした。僕の自室とか、しばらくは落ち着かないでしょうね。

あと、この船に燃料という概念は存在しません。

どうやら主機に縮退炉を2基積んでるようで、最初の起動こそ色々必要みたいですが、その後は半永久的に燃料は必要ないみたいです。構造について詳しくは知らないけどね。

「じゃ、出航っ」

軽くいこう、軽く。まぁ、ここまで色々とあったけどね。

エレビエルの主機である縮退炉2基が安定しているエネルギーを推進力へ変換し、巨大な船体が動きだします。もちろん船内は慣性制御がかかっているので後ろに体を持っていかれるようなことにはなりません。

この船を動かしているのは縮退炉のエネルギーですが、基本はあるはずの推進器がありません。まぁそれに近いものは船体の後部についていますが、ひと昔前にあった液体等の推進剤を使用する方式とは大きく異なるようです。

エルの説明では反重力制御器での重力操作で行っているそうですが、そもそも重力制御ってそんな出力出たんですね。てっきり船内専用の慣性制御のみに使用されていると思ってました。え?確かに帝国にも重力制御を推進器としている船はない?あっても小型のみ?へぇ、この船、分類は大型なんですけどねぇ。

そんなこんなで、僕たちは宇宙という大海原へ飛び出したのだ。


「で、傭兵するのはいんだけど、どこでどういう手続きすればいいの?」

傭兵という職業があるのは知ってたし、ステーションに行けば傭兵ギルドってのがあってそこでクエストを受けることができる。でもどうやって登録するのかまでは知らないのだ。

「マスター、ルーティアネットワークというところからの情報だと、傭兵登録に必要なのは”船”と”責任者”の二つだけの様です。私たちの場合、船はこのエレビエルがあり、責任者はマスターという事になります」

なんともまぁ、簡単な登録だこと。ちなみにいつの間にルーティアネットワークに接続してたの?え、最初から?そうですか。あなたのマスター、今知りましたよ。今。

そもそも銀河間ネットワークであるルーティアネットワークは誰でもアクセスできます。ただし、そのパスを知っている必要がありますがね。

「傭兵の責任者の登録って、生体認証いるんじゃないの?」

基本的に正規の契約では生体認証が義務図けられてるのがこの世界です。

人の顔や、前世みたいにサインやハンコと言ったモノはいくらでも偽造ができる。よって、複雑はデジタルデータである生体認証が個人を表すための最重要データとなっているのが現状です。

「いいえ。どうやら傭兵という職業柄あまり柄が良くない方たちが集まるようで、生体認証は不要との事です」

あら、そういった世界なんですね。そんな世界に貴族のボンボンが参入するのはいんでしょうか。え?マスターだから問題ない?全肯定ですね、エルさんや。

「なら、大丈夫かな。僕の顔データなんて出回ってないだろうし。そもそも今頃は辺境伯の長男は生まれたての赤ん坊になってるだろうし」

貴族の正式な登録はデビュタント後となっている。この無駄としか言いようがない伝統的な制度だけど、貴族には色々と都合がいいらしい。

貴族では事故などで子供を亡くした場合、養子などを迎える場合が多い。もしくは、僕みたいに何かしらの要因で消された子供の代わり、などがある。

そんな時、正式に登録されていたら手続きが非常に面倒くさい。そもそも貴族が持つ特権を他人に使われないようにするために必要な処置でもあるのだろう。

そんなこともあり、僕の生体認証データは国のデータベースには登録されているが、正式に辺境伯の息子という立場で登録はされていないのだ。

「では予定通り近くのステーションの傭兵ギルドで登録することにしようか」

「了解しました、マスター」

エルは星域図をホログラムで表示する。

「近場ですと、このステーションが良いかと思います」

エルが指示したステーションは、一番近くの惑星軌道上にあるステーションだ。

確か、所属国はスターリング王国で、位置的には辺境に当たる男爵位の収める星だったはず、よくは覚えてないけど。

「よし、じゃあここで登録しようか」

その指示と共に船が加速を始める。

「ところでこの船の船舶登録だけど・・・」

「すでに終了しています」

「あ、そう」

僕のパートナーは優秀です。はい。


エレビエルは何もない空間を滑るように加速していく。

「現在出力20%で加速中、各部問題ありません」

そう、新造艦なので色々とテストをしていく必要がある。

具体的に言うと加速テストに急制動テストや射撃テストなど項目数でいうと数千項目にも及ぶ。普通であれば、船員が一丸となって各種テストを行っていくのだろうが、この船には僕とエルしかいない。

そしてエルは非常に、ええ、それはそれは非常に優秀です。すべてを一人でこなせる程度には。

「テスト項目の30%を消化しました。このままですと、ステーションへ到着する1日前にはすべてのテストが終了します」

そんな報告を聞きながら僕たちは何をしているかというと、

「報告ありがとう。ほらエルもこれ食べて」

自室にこもりきになり、ぐうたら生活を謳歌しております。

だって、部屋が快適すぎるんだもん。それにエルが優秀すぎてやることがない。

それにこの船にはあのラボで製造されていたアンドロイド型のメイドさんが10体ほど乗り込んでいて、すべてのお世話をしてくれてるのです。

これでどうやって怠けるなと言えるのでしょうか。

はい、少し太った気がします。

そろそろ働きましょうか。

と考えながらも、僕はメイドが作った料理を口に入れながら端末を覗きこみます。

「それにしてもこんな宙域まで飛ばされてたなんてビックリだなぁ」

そうそう、僕が飛ばされていた宙域は宇宙の覇者たる大銀河帝国領域と我が糞親父の国が所属する連邦領域が隣接する不可侵領域。それもどちらかというと連邦よりの場所だった。

ひと昔前は連邦と帝国の戦争の最前線になっていたところでいたるところに残骸のデブリ帯が存在する。

「なんでこんな宙域にあんな最先端のラボがあったんだろう」

仕様から見て大銀河帝国のラボラトリであろうあのラボがなぜこんな辺境宙域にあったのか。

「私がラボを移動させました」

ここに犯人がいましたよ、帝国さん。この子が犯人ですよー。

「あー、例の大暴走の時ね」

こらこらそこで恥ずかしがらない。頬を赤くしたって帝国のひとは許してくれないと思うよ。まぁ、一部の特殊層の人たちは許してくれるかもしれないけど。かわいいからね、その表情。

「お恥ずかしながら、マスターを探すためにも宙域をふらついてました」

どうやらエルは暴走してからはしばらく移動していたみたいだ。でもネットワークからハッキングできるエリアに登録された生体情報から契約者を見つけることができずにスリープモードに入ったらしい。

そう考えるとエルは子供だな。癇癪起こして暴走して、結局見つけることができずにふて寝、と。そう思うとかわいいな。

「まぁ、契約者になれるのって、けっこうな低い確率なんでしょ?」

「現在登録されている遺伝子情報ではマスターだけですね」

「ちなみに調べたのって何件くらいあるの?」

「約900億人ほどです」

どれくらい時間がかかったのかは割愛するとして、それほど探して一人だけとか、どんだけ難易度たかいんだよ。そもそもほかの機械生命体達ってちゃんと契約者見つけられてんのかね。

「そう、運命の出会いってね」

自分で言ってて恥ずかしくなるわ。

「はい、マスターは運命の人です」

そう恥ずかしげもなく言わないでくださいなエルさんや。僕、まだ10歳ですよ。世間なら学園に入学したばかりの初等生ですよ。

「まぁ、そんな初等生が傭兵業を始めようとしてるんだけどねぇ」

ある意味世は末か。

実際、以前呼んでいた書籍には様々な星や国家の事が書かれていたので、こういったことが珍しくはないことを知っている。

もちろん、僕みたいに船を最初っから持っていることなんて珍しいどころじゃないけどね。

浮浪児や孤児などは小さいころに無理に働いて命を落とすか、傭兵船の下働きで命を落とすかのほとんど2択の様な国もある。

国によっては奴隷制度もあり、今から僕が向かおうとしているステーションもその国の一つだ。

そんな厳しい世界が、こんなにも技術が発達した世界でも変わらず残っている。

「世界で一番害があるのは人間ってことか」

誰かが言った言葉だ。

前世の世界では環境破壊を進めているのは人間で、極論人類が滅びれば地球が救われるという学者もいたほどだ。確かにそれは一理あるだろう。

そもそも技術の発展に害や失敗はつきものだ。

人類が宇宙へ進出する前、地べたを主体に戦争していた時期での高度成長は公害と共に発展してきた。それに対処する技術やフローが確率するまでは、その公害で多くの人々が命を落としてもいる。

科学の発展には犠牲はつきものである。

「でもその技術でも救えないのが人間なのかもしれないね」

あるいみ自身の親である糞親父がいい例だろう。

人間は醜い。前世と合わせて40年近くの経験がある僕にとって、ある意味1周回って落ち着いているともいえるのかもしれない。


そんな哲学の様なことを考えているうちに時間が過ぎ、船の光学センサーにステーションが移るほどの距離にまで近づいて来た。

「マスター、ステーションの管制から連絡が来てます。入港目的を訪ねていますが、どうしますか?」

そんな連絡が来たことで慌てて引きこもりから離脱した僕は、艦長席で考えていた。

「ねぇ、そもそもこの船の所属国ってどこにしているの?」

「もちろん銀河帝国ですが」

「そうですよねぇ」

船には船籍とその所属国がある。

船籍はどこで作られたのか、登録情報がある。船の大きさだとか船種とかの情報だ。そしてその船がどこの国に属しているのかも記載されている。もちろん、現在戦争中の勢力はないが、微妙な国も多いのでそこらへんは結構ナイーブらしい。

一枚岩ではない連邦。そして巨大な軍事力を保有する銀河帝国。どちらにつくか、と言われると一択だろう。僕でもそうする。

「まぁ、管制AIの自動確認だろうけど、何か他に送ってきてない?」

こんな辺境の地に銀河帝国登録の船だ。もめないといいけど。

「いえ、現時点では何も。しかし、向こう側ではどうやら慌てた様子がありますが」

やっぱりですか。

そら、商船なら銀河帝国とも取引あるでしょうけどね。こちとら戦闘艦ですよ、それも連邦基準で戦艦クラス。

「で、一応聞くけど、船種の登録は何で登録したの?」

船種は複数存在しており、人を乗せて短距離を移動する小型艇などの客船から、大量の荷物を運ぶ商船や輸送船。後は傭兵がほとんどになる戦闘艦。軍艦は別扱いになるが、基本的にはこの4種からなる分け方だ。

「マスターが傭兵と言われていましたので、戦闘艦で登録しております」

どの世界に戦艦持った傭兵がいるのでしょうかね。まぁ、武装の詳細はデータ送付なしだからある程度はごまかせるか。そもそもこの船、外殻に武装出てないなめらかな見た目だし、綺麗な流線形だから客船でも通るとは思うけど。

「はぁ、こんな船から10歳児が出て来たらさぞ驚くだろうなぁ」

こんな立派な戦闘艦を持ったヤツが一般人なわけがない。十中八九

、相手方は僕の事をお忍びの貴族とでも勘違いしそうだ。まぁ、あながち間違ってないだろうけど。

「マスター、ステーションより入港許可下りました」

そうでしょうとも、すくなくとも僕だったら許可するもんね。こんな得体のしれない大型戦闘艦、しかも帝国登録の船だ。帝国貴族だったら目も当てられないもんね。えらいよ、ステーションの管制官。ダメなのは僕とやらかしたエルだよ。

「はぁ、前途多難だなぁ。まぁいいや、とりあえず入港してくれ」

「了解、マスター」

過ぎたことは受け入れよう。今更変更などできないし。そもそも偽造している時点で色々と問題な気もするけど、それは置いておこう。うん、それはソレだ。

「ところでエル、停泊するのはいいんだけど、停泊料金って支払えるの?」

一般的にステーションへの停泊はそれなりに料金がかかる。

具体的に言うと、一般人の月収が1日で飛んでいく。中型の船舶で、だ。

それでも安い方ともいえる。そもそも船舶は燃料補給が必要だ。燃料に水、食料など必需品は数多くある。それらを一括で大量購入するため、そちらからマージンが取れる。その為、多少の割引が入っての値段だ。

そして大型船ともなると、その5倍から10倍ほどの料金がかかって来る。

「停泊料ですか?問題ありませんが・・・」

どうやらお金も偽造したようです。

え?ちがう?お金は流石に偽造しない?

エルに良識があるとは、驚きました。

「じゃ、そのお金どうやって稼いだの?」

そのエルの回答に驚きました。

どうやら、ラボに残されていた資金を元手に投資して稼いでいたようです。

まぁ、その有り余る演算能力とハッキング能力を用いれば造作もないですよね。はい。

確かに偽造ではなかったけど、エルさんや、それも立派な犯罪ですからね?

え?バレなければどうという事はない?それは犯罪者の言葉ですよ。

まぁ、ともあれ資金に余裕があることはいい事です。現実逃避ではないですよ。

限りなくグレーどころか黒に片足突っ込んでるけど、バレなければいいんですよ。幸いエルのハッキング能力は高すぎて痕跡一つ残さないようなので問題ありません。

「はぁ、色々とぶっ飛んでて疲れるけど、ようやくステーションにたどり着いたね」

ようやくです。これから色々な楽しい冒険が始まるのですね。


「マスター、管制局から出頭要請が入ってます。拒否しますか?」

まだ、始まらないようです。


そしてエルよ、拒否はないでしょう。拒否は。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る