第5話「最新鋭艦と思惑」

まず最初に連れられて入ったのは艦の艦橋だった。

「やっぱり、高度に自動化されてるね」

最新の軍艦の艦橋など見たこともなかったが、僕から確認できる範囲には艦を操作するためのボタン類や機器類は明らかに少なかった。

それに、オペレーターなどが座るはずの場所もなく、中央に艦長席があり、周囲に4席ほどあるだけのとても簡素な艦橋だった。

「はい。この艦は特殊で、通常であればいくら高度に自動化されようともある程度の人間の手が必要になります。そうですね、この艦の大きさで考えると50名ほどでしょうか。帝国軍艦基準となりますが」

やはり、彼女が言うの技術力は僕がいた王国の数十年から100年以上も先に進んでいるみたいだ。

この艦の全長はざっくり1000メートルほどあった。王国で言えば巡洋艦クラスで、運用人数は300名ほどになる。それを50名ほどで動かせるほどに自動化されている軍艦など聞いたことがない。

「だからこんなに簡単な操作機器しか置いてないんだね」

今時、操艦の類は殆どAIが行う。前僕が乗せられた船もナビAIがそこらへんを行っていたのだ。

「はい。軍艦ですので人による操艦も可能ですが、このサイズの艦の操艦はAIまかせの方が色々と良いですから」

さて、次はお待ちかねの古代技術アーティファクトとのご対面である。


艦橋を後にした僕たちは、彼女の先導で艦橋のすぐ真下にある場所へ移動した。

やはり艦橋や重要設備は艦の中央にあるのがセオリーらしい。

「こちらがこの艦の心臓部であり古代技術アーティファクトである演算装置です」

何やらその部屋にはケーブル類が散乱していた。

そんなケーブル類の接続先はすべて中央に鎮座する球体の物体に接続されている。

「これが古代技術アーティファクト?」

綺麗な球体の表面にはまるで電気回路のように細かな模様があり、微かな光を放っている。

「はい。この艦の心臓であり、エレビエルである所以の装置です」

「綺麗だね」

この艦の流線形の船体もそうだが、この球体も非常に綺麗な白色をしている。それに表面に現れている模様も相まってどこか幻想的にも見えるのだ。

「ありがとうございます。殿下、よろしければこの艦を起動してみませんか?」

艦の起動?

「あれ、今も起動してるんじゃ?」

普通に艦に入れたし、照明とか空調も効いてるよね。

「いえ、今は外部入力である施設からの供給エネルギーで動かしています。この艦の主機にはまだ火が入っていない状態です」

「え、でもこの艦ってまだ完成してないんじゃ?」

外から見た時は完成しているように見えたけど、まだこの施設にあるってことは未完成だったいう事じゃないのかな。完成してるならこんな場所に置いていかないでしょ、こんな最先端技術。

「いえ、ほぼ完成しております。最後のがそろえば問題なく動かせます」

「そうなんだ。この艦の武器類も見てみたいし、起動方法教えてよ」

どうやらこの艦の機能を十全に動かすには主機からのエネルギーが必要らしい。施設からのエネルギー供給では足りないのかな。

「主機の起動は上の艦橋から可能ですが、こちらからも可能です」

彼女がそういうと同時に、球体の近くからなにかがせり上がってきた。

「びっくりした。これ、操作盤かな?」

「はい。管理者権限での主機起動が必要な為、一度生体認証が必要になります。こちらの操作盤に手を触れてください」

地面から出てきたのは予想通り操作盤だったらしい。これで権限のある人間なら主機が起動できるみたいだ。確かに、どこの誰でもいじれると危ないからね。

僕は彼女の指示通り、操作盤に手を乗せる。

元々が大人仕様で作られているため、少々高く、操作盤の上面は見えないが、何とか届いた。その瞬間一瞬だけチクリと手に感じる。軽い静電気の様な小さな痛みだったため、そのまま操作盤に手を付けたまましばらく待つ。

「認証完了致しました。エレビエル、起動します」

彼女はそう短く呟いた。

その瞬間、これまでメイド服を着て動いていた彼女はなぜか糸が切れたかのように突如倒れる。

「え?」

アンドロイドに疲労とかそういった概念があるのかは知らないが、彼女が突然倒れた事に驚きを隠せない僕は気づくのに遅れてしまった。

そう、背後にある球体。

先ほどまで彼女が古代技術アーティファクトと呼んでいた球体が静かに動き出していたのだ。

非常になめらかな球体の側面には亀裂が入り、まるではすの花のように開きだす。その時点でようやく僕は気が付いた。

「なっ」

単なる球体で演算装置か何かと思っていた僕にとって、そ変貌は驚愕に値する。

驚きで認識が追い付かない僕はその状況に置いて行かれていた。

白い球体がまるでだったかのように、球体は開き終わり、その中身をさらしている。その中央部にはとても美しい少女がいた。

「お、女の子?」

膝を抱えるように座っているのは非常に綺麗な女の子だった。

服の類は一切身に纏わず、しかしながらそのことにより彼女の肌がとても滑らかで人間離れしている妖精の様な容姿であることが判る。

そしてその女の子はしばらくして瞳を開けた。その瞳は透き通るような青色であり、彼女の白い肌のとのコントラスが非常に映える色をしていた。

「おはようございます、マイマスター。実に5万年ぶりの完全起床です」

そんな事を呟いたのだ。


なぜか軍艦を起動したら全裸の女の子が出てきました。

事案です。場所が場所なら警察ものです。

でも、こんな辺境の宇宙にはそんな都合よく警察などいません。

「マスター、現実逃避はいいですが、いい加減設備を動かしてください」

そう、今僕の目の前にいる美少女。見た目年齢は13,4歳くらいだろうか。

それに先ほどまで一緒にいたメイドアンドロイドともどこか口調が似ているのは気のせいだろうか。

彼女に何とかして服を着てもらって、ようやく艦橋でお話しできるようになるまでに30分ほどかかった。

ちなみに彼女が今着ている服は、急遽艦内のプリンターで制作した物だ。データは施設にあったデータベースから持ってきた。選んだのは彼女自身だが、なんというか非常に似合っている服を着ていた。

宇宙空間では好ましくないが、重力がある区画であれば問題ない、タケが短めのワンピース。色は水色で、腰部ではベルトで絞っている。白髪である彼女の髪と青色の瞳と合わせて、美少女が際立っている。まあ、あの球体から出て来たことから人間ではないんだろうけどね。

「そんなこと言っても、僕、まだ権限もらったばかりだからこの施設が何をできるのか知らないんだけど」

先ほど僕を主従契約を結んだ彼女エレビエル。艦の名前と被るから、エルにするけど。というか、そう呼んでくれと言われたんだけど。

彼女から謝られた。

どうやらこれまでは契約できる人間が現れず、約150年ほど前に業を煮やした彼女は、わざと暴走してこの施設ごと乗っ取ったらしい。ちなみに、先ほどまで僕を案内していた統括AI操作のアンドロイドも、エルがここから操作していたようだ。とんでもないAIである。

本当にAIかどうかはさておいて。

この施設を乗っ取ったはいいものの、他にやることがなくスリープモードでいたが、偶然僕が救助され、その際に取得された遺伝子情報から契約できることが判り、なかば強制的に契約にはしり、現在に致る。

まぁ、何万年も契約者を探していたようで、焦る彼女の気持ちもわからないこともないが。

「そもそも、キミはなにものなの?」

人類史はそこまで歴史が長いわけではない。

今でこそその版図を銀河系全体にまで広げているが、3000年前くらいはまだ地球から飛び出せてもいなかったのだ。それよりもさらに数万年前と言われると、人類ではない事になる。

「マスター、エルでいいです。エルたち機械生命体は数十万年前にこの銀河系にやってきました」

そこからの彼女の話はとても驚きに満ちたものだった。


彼女たち機械生命体がこの天の川銀河系にやってきたのは数十万年前になるらしい。

そもそもなぜ彼女たちがやってきたのか。その理由は単純に契約者を探すためだったらしい。

彼女たち機械生命体は、人間と違い生殖によって増える生命体ではないらしい。母体となる集合体から分離する形で個性が生まれ、そしてパートナーである生命体を求めて旅をする。体は流体金属とその他無機物でできており、個性を獲得すると実体としての体を持つらしい。その体が先ほどまで彼女が入っていた球体というわけである。

ちなみにあの球体、現在の人類の技術力では破壊は不可能なほどの強度があるらしい。すでに抜け殻であるが。

そもそも彼女たちのいう契約者=パートナーとは何か。

人間で例えるなら伴侶らしい。

え?10歳ですでに伴侶持ちになってしまった僕の気持ちは?

はい、ないですか。そうですか。

え?僕の好みに合わせた肉体だ?

どうやら彼女の姿は僕の好みらしい。確かにそうだけども。だけども。

そもそも彼女・エルの姿は機械生命体だけども分類上は人類と見分けがつかないらしい。そういうように生成された肉体である、とは彼女談だ。

人間の体をいとも簡単に作れるとか、さすがとんでも種族だな。

しかしながら機械生命体と言われる通り、高度な演算能力を有している。それは人間の体を持つ現在の状態でも変わらないらしい。

その演算能力はこの施設の統括AI(ちなみにそのAIは当時の帝国でトップレベルの能力を持ったモノだったらしい)をしても足元にも及ばないほどの力らしい。だから逆ハッキングで操作してたのか。

まぁ、そうでもないとこの艦の操作を一人ではできないよね。


さて、限りなく人間であり、人間離れした演算能力を持つエルの今後の目的だけど、

「え、特にない?」

どうやら目的そのものが契約者を得ることで、契約者と共に居ることができれば特にやりたいことはないらしい。

「帝国の技術者もとんでもないモノ見つけちゃったなぁ」

ちなみに、彼女の話しでは、高度な知的生命体があの球体の中にいることまでは帝国の技術者たちは気づいていたらしい。

あの夥しい量のケーブルにより、彼女とある程度意思疎通ができていたらしく、艦の設計も殆ど彼女が片手間で作ったらしい。

「じゃ、なんでこんな船作ったの?」

「人間との意思疎通にちょうど良かったからです」

そうらしい。

彼女にとってこの最新鋭艦は片手間で設計できてしまうくらいに簡単なことらしい。

改めて機械生命体のデタラメさを実感するよ。


「それで、これからどうしようか」

僕自身も行く当てもない状態だ。もちろんお母様やミリアを筆頭にメイド達も心配してるかもしれない。まぁ、まだ失踪もとい、船が超空間で事故ったことなど気が付かれていないかもしれないけど。

「マスターに従います」

エルはこう言うし。

「やる事ねぇ」

まぁ、放棄されているからこの施設で暮らしてても問題ないだろうけど。

それじゃ、いずれ飽きるだろうなぁ。

よし、ここは男らしく冒険してみようじゃないか。

「ねぇエル」

「はい、なんでしょうかマスター」

手元にはトンでも科学技術の結晶体。そして最新鋭の宇宙船もある。

「この宇宙、冒険してみようか」

ちょっとした罪悪感はあるけど、もうないも同然に放棄されていた施設からの拝借ならそこまで気にする必要はないかな。こういったところ、お母様の血を引いているのかなぁ、と思ってしまう。

小さいころによくマリアからお母様の小さい頃の話しを聞いていたのだ。結構お転婆だったらしい。

そんな僕の突然の提案にも彼女は特に反対はしないらしい。

「はい。マスターに御供します」

こうして10歳児と美少女機械との奇妙な旅が、

「その前にこの艦の偽装を完了させたいので施設を動かしてください」

すぐには始まりませんでした。

すみません、動かし方教えてください。









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