第4話「漂流と出会い」
意識が徐々に明確になって来る時、なぜにこんなにも気持ちがいいのだろうか。
例えば、布団の中で目覚め、二度寝した時の微睡みは非常に心地よい。そんな感覚の中で僕はは目覚めた。
「どこだ、ここ」
無機質な部屋、ではなく、豪華な装飾を施された一室のベッドに僕は寝ていた。
大きな天蓋付きのキングサイズのベッドは流石に僕には大きすぎるだろう。それにこの部屋自体も非常に広い。具体的にいうと20メートル×20メートルくらいある。
床には華美になりすぎないシックな絨毯がひかれ、設置されている椅子と机は綺麗な木目の木材でできていた。すくなくとも、僕やお母様が暮らしていた屋敷の装飾よりもだいぶ豪華だ。
「僕は、いったい何が・・・」
体は絶好調、とまではいかないが、普通の状態だ。
記憶があるのはミシミシと聞こえた救難ポッドの中。そして突如光り出したペンダントが最後だ。
「そうだ、僕は糞親父に殺されかけて・・・」
一人で死ぬにしては豪華な棺桶という名の宇宙船に乗せられて、一人主星に向う途中だった。そのあとに船が進路を外れ、超空間の狭間に落ちたはず。
「なら、なんでこんなところに」
そんな僕の疑問には、すぐに答えがやってきた。
広い部屋にある唯一のドア。3メートルほどもある高さの大きな扉が突如開き、一人の女性が入ってきた。
入ってきた女性は質素ながらも綺麗なメイド服を身に着けた、非常に綺麗な女性だ。
「だっ、誰?」
我ながら寝起きを見られるのは恥ずかしい。初めて会う美人な女性に緊張している様だ。
「私は統括AIです。現在暫定権限にてアンドロイドを外部操作中です」
AI??どこからどう見ても人間にしか見えないんだけど。確かに、人間離れした美貌だけど、え、統括AI?
「アンドロイド?」
「肯定致します。現在セーフモードで運用中の為、動作には制限があります。制限を解除するには生体認証により管理者権限にて解除を推奨いたします」
どこか無機質めいた言葉遣いと、抑揚のない言葉が彼女の言葉を肯定しているように思える。
「管理者権限?」
「皇族の遺伝子を持つ方を管理者と呼称致します」
皇族?僕はただの辺境伯の息子だけど、まあ元が付くのかもしれないけど。そもそも戻れるのか?戻れても戻るつもりもないけど、あんなところ。まぁ、お母様には無事だという事を伝えないといけないとは思うよ?
「皇族?僕は皇族じゃないから解除できないよ?」
「否定致します。皇族遺伝子を確認済です。すでに生体認証は完了しております。管理者権限にて制限解除をお願い致します」
どうやらすでに生体認証はすんでいる様だ。普通なら犯罪だけど、救助された手前、文句は言いずらいよね。
「じゃあ、制限解除するにはどうしたらいいの?」
なにかのバグかな、皇族認定されちゃってるけど、僕の血には皇族の血なんて流れてないはず。そもそも、帝国なんて、一番近くでもブラント帝国で、遠い親戚にも皇族なんていなかったはずだ。
「制御室へお越しください。ご案内致します」
そんなメイドアンドロイドに案内されて部屋を出る。
大きな扉をくぐって外に出た僕は、その光景に驚かされた。
部屋の外は、まるで宇宙船の中のように金属質な壁に覆われており、長い廊下となっていた。地面には先ほどの部屋と同じように絨毯がひかれており、廊下に外が見える窓がないことからも、ここが宇宙船の中であると言われも納得してしまいそうだ。
3分ほど歩くと、制御室と呼ばれている部屋に到着した。意外と近かったね。
その部屋は、多くのモニターや入力デバイスが並んだ一室で、その中央に一段高くなった椅子がある結構広い部屋だ。
「こちらにお座りください」
本当であれば、こんな場所には座りたくはない。でも、罠にしてはあからさまであるし、アンドロイドが人間に対して害を加えるとは思えないんだよなぁ。ほら、有名なロボット3原則とかあるじゃん。まぁ、この世界のAIに適応されているのかはわからないけど。
多少躊躇したが、結局僕は進められた椅子に座ることにした。
まだ身長が低い僕が座るには少し高く、座るのは苦労したが、何とか座ることができ、ようやく一息付けた、その時だった。
『管理者の存在を確認。統括AIの制限を解除。ラボラトリ、再起動します』
どこからともなく聞こえて来た声。その声の直後に部屋中の沈黙していた電子機器類が一斉に起動を始めた。
「制限の解除、ありがとうございます」
そして先ほどまでどこか機械じみた応答をしていたはずのメイドアンドロイドはまるで本当の人間の様な仕草で話しかけてきた。
「え?」
「ああ、先ほどまでのセーフモードで勘違いされましたか?これくらいの演算では処理能力の数千分の1%未満の負荷ですので、特に御気になさらず」
いやいや、制限解除しただけでそこまで人間じみた動きをするAIなんて見たことないんだけど。それに先ほどよりも表情や肌の色味も変わったような気がする。
そもそも僕がいた王国ではアンドロイドはおろか、AIですら船舶ナビであった通り、そこまで柔軟な会話ができるわけではない。
もしかすると、軍用とかもっと予算がかかったAIであればこのくらいの応答はできるのかもしれないが、今となってはわからない。
「ところで殿下って?」
そう、これまでの話の中で一番気になっていたところだ。
「殿下は殿下ですが?」
そうですよね。彼女の中ではそうなんだろうけど、なぜ僕に皇族の遺伝子があるのかがわからない。
「いや、僕って辺境伯の息子なんだよ。元ってつくけど」
「・・・はぁ。どこのご出身かまでは存じ上げませんが、殿下の中に帝国皇族の遺伝子は確かに確認されました。ですのでこの施設の管理者権限を復活できたのですが」
彼女は戸惑う表情を見せながらも答えてくれた。そんな表情も演算で表現できるんだ、と僕は方向違いの事も考えてみる。
要するに、僕の血の中には皇族の遺伝子があると、とりあえずはその事実だけでいいか。
「まぁ、色々と疑問は残るけど、今はいいや。それよりも、危ないところを助けてくれてありがとう。僕、どういった状態だったの?」
僕の記憶では軋みを上げる救命ポッドが最後で、なぜこのような施設に拾われたのかがわからない。
「殿下は救命ポッドで漂流中でした。私が発見できたのは34時間ほど前で、帝国法に則り、救助を実施。その後、要救助者が殿下だった、というところです」
圧壊しかかっていた救難ポッドで漂流していたのか。
「救難ポッドには何か残ってた?」
残ってたのならば、僕の私物がいくらかはあるはずだ。
「いいえ、救難ポッド内に確認されたのは殿下自身と殿下が身につけられていた宇宙服とこちらのペンダント型救難ポッドのみです」
ん??ペンダント型救難ポッド?
そんなもの持ってなんて・・・・いや、確か出航する前にマリアにもらったペンダントがあったはず。確かに首からかけてはいたけどそれの事かな?
「こちらのペンダントのログによれば、超空間より脱落したそうですね。その程度で脱出が必要とは、よほど脆弱な船だったのでしょう。しかし、このペンダントの保持も皇族の証ですが?」
いったいどういう事だろうか。
そもそも、そのペンダントはマリアからもらった物で、元々はお母様の持ち物だ。僕が生まれてすぐの頃の画像が中にあるのは見てるし、お母様が家から出る際には必ず身に着けていたものでもある。
「このペンダントが皇族証って??」
「
なんだそんなとんでもない技術は。
確か、王国にも貴族の身を守る為の科学技術は複数あるがここま小さなもので実現されたのはないだろう。
「仮に違う危機、例えば毒殺などがありますが、その毒素を自動で識別し、適切な対処を自動で行うなどがあります。いわば万能な保護機能ですね。まぁ、それ故に攻撃能力は持ち合わせておりませんが」
その状況状況に合わせて自動で判断し、実行するなど、さすが
「そんなペンダントをお持ちの殿下は確かに皇族と言えるでしょう。それに、そのペンダント型はとても数が少なく、皇族でも限られた方しかお持ちでない物のはずです。殿下の遺伝子情報は皇族欄に記載がありませんが、そのペンダントの持ち主は間違いなく皇位継承権を持つお方かと思われます」
なんでそんな重要情報を知っているのか、はさておき。どうやら僕が皇族、いやお母様が皇族である可能性が高くなってきたな。あの糞親父はほとんどゼロだろう。むしろあったらあったで驚きすぎて心臓が止まるかもしれない。
「わかった。まぁ、まだ僕が皇族なんて実感もないけど、その可能性は認めるよ。それと、いつまでも殿下呼びは少し恥ずかしいんだけど・・・」
「でしたらどう御呼びすれば?」
「ライル、ライルって呼んで」
「ライル様ですね。畏まりました、以後御呼びの仕方を統一致します」
さて、ようやく状況がある程度理解できて来たけど、結局ここはどこなんだろう。
とても高性能なAIを持った施設で、恐らく軍事施設かそれらに類するものなのは確かだろう。民間の研究施設にしては作りがどこかそっけない。
まぁ、質素なものが好きな企業もあるかもしれないけど、そもそも皇族に管理者権限が付与された施設とか、政府が100%関わってるでしょ。
「ところで、この施設ってなんなの?」
管理者権限があるという事は流石に教えてくれるはずだ。
そんな僕の思いを汲んでくれたのか、いや、単純に命令に従っただけかな。
「はい。聞くよりもご覧になられた方が早いでしょう。こちらへ」
なんの躊躇もなく説明する様だ。まぁ、僕にとってもそれがありがたいんだけどね。
立派な研究施設で違和感バリバリのメイド服の美女の先導に従いつつ、僕はとある部屋にたどり着く。
いや、部屋というには広すぎる空間だった。
「こちらがこの施設で研究、制作していたモノになります」
そういって彼女から説明されたのは宇宙船だった。
僕はその綺麗な宇宙にくぎ付けになった。
これまで見て来た宇宙船のなかで一番美しく、大きな船だったからだ。
前世の記憶を思い出してから、僕は宇宙船にあこがれていた。データや画像では軍艦もよく見ているが、僕の記憶のなかで一番の美しさを持つのは目の前の船だろう。
「・・・綺麗」
自然と漏れる言葉はしょうがないだろう。それほどまでに僕は魅了されたのだ。
「・・・ありがとうございます。試験艦エレビエルという名で、帝国の先進技術と古代技術を織り交ぜた最新鋭の新造艦です」
なぜか綺麗という言葉がうれしかったのか、彼女は艦の説明を始めた。
細かいところは殆どわからなかったが、どうやらこの艦は軍艦らしい。まぁ、軍主体でかつ皇族も関わっているとなると、当たり前だろう。
そして、そんな軍艦の中でも、新規に設計されかつ古代技術を埋め込んだ艦はこれが初らしい。
「まぁ、150年前の時点では、と但し書きが付いてしまうのが玉に瑕ですが」
最後の所でどこかさみしそうに彼女は話し終えた。
武装とか性能とかは、とりあえずいまはいいや。
「そんな最新鋭艦をつくるのがこの施設の目的だったの?」
確かにこの施設はとても大きい。先ほどちらっとホログラムで見たけど、この艦がいる場所が中央部として、このドックの10倍以上の空間が固まった研究施設だった。
最新鋭艦を作るために必要だ、と言われればそれまでだけど、僕にはそうは思えなかった。
「そうですね。半分は、といえるでしょう」
「半分?」
「ええ、残り半は古代技術の研究です。この艦には古代技術が複数乗せられています。その中でも特別なのが一つだけあります。それがこの艦の中心部にあるのです」
やっぱり、艦の研究だけじゃなかったみたい。まぁ、軍艦と古代技術を合わせた特別な艦みたいだから、それなりに研究施設が必要だったんだろう。でもそこまで重要な施設なのに、放置されたのだろう?
「へぇ、そんなすごいモノ積んでるんだ」
「はい。ご覧になりますか?」
「見れるの?」
「ええ、すでにこちらの施設内で殿下に見れない場所はありません」
もしかすると、彼女はまだ何か隠してるのかもしれない。とてもAIには見えない彼女の心の中は見えない。でも、僕に対して敵対しているわけでも、危害を加えるわけでもなさそう。だから、とりあえず今は信用しておこう。
「じゃぁ、お願いしようかな」
「かしこまりました」
それに、どこか彼女は楽しそうなのだ。
確信があるわけではないけど、彼女は僕の敵じゃないと思う。まぁ、人生経験が浅い10歳がいう事じゃないけどね。
そんな事を考えながら僕は最新鋭艦であるエレビエルへ乗り込む事になった。
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