第14話 ヤンデレたち、昼の対決

 お昼休みの時間、ツユリとユイはダッシュで僕の机に駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん!」「アキラくん!」「「一緒にご飯食べよ!」」


 言うなり二人揃って、ギッ、とものすごい顔で睨み合う。


 僕は笑顔で答えた。


「いいよ、三人で食べよう」


「「えっ」」


 三人で食べることになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ということで、僕ら三人は屋上を陣取って、三人でお弁当を広げていた。


「わぁ……! おいしそうだ」


 僕は二人からそれぞれ受け取ったお弁当を広げて、ニコニコだ。


 一方睨み合っているのはツユリとユイだ。


「何であなたがお兄ちゃんのお弁当を作ってきてるの」


「恋人だからだけど? むしろ、そっちが何でって感じなんだけど」


「家族だよ? お弁当作るのは当然」


「おいしい~」


 僕は軽めのヤンデレを二人から摂取しつつ、おいしいお弁当にありつく。もちろん二つまとめてだ。


 いやぁ、良い。


 お昼ご飯の肴にヤンデレがよく合う。


「お兄ちゃん今最低なこと考えなかった?」


「考えたかもしれない……」


「反省して」


「はい」


 怒られてしまった。


 でも確かに喧嘩を肴にお弁当を食べるのは趣味が悪すぎたかもしれない。反省だ。


「……今、アキラくんの心を」


「家族だもん。このくらい分かるよ」


「くっ……! 私よりもずっとアキラくんとの関わりが少ないくせに……!」


「逆に言えば、出会ってからの濃度は私の方が遥かに上。……ふっ」


「ッ!」


 勝ち誇るツユリに、ユイは震えている。


 そう言えば今日、ユイはひどい目に口げんかで敗北して可哀そうだったな。


 これは僕から何か、補填してあげるのがいいかもしれない。


「ユイ」


「な、何? アキラくん……」


 ションボリしているユイを手招きして呼ぶ。


 素直にユイが寄ってきたので、僕の足の上に座らせた。


「っ」


「おっ、お兄ちゃん!?」


 びっくりする二人を置いて、僕はお弁当の具を箸で掴んでユイの口元に運んだ。


「あーん」


「あ、あーん……」


 食べさせてあげる。ユイはモグモグしながら、だんだんじわじわと涙を目元ににじませる。


「あ、アキラくぅん……!」


「泣かないで。ほら、もっと食べたいかい。食べさせてあげよう」


「うん……っ」


「あ、ああ……」


 涙目で嬉しがるユイに、同じく涙目で声を漏らすツユリ。


 僕はツユリに言った。


「ツユリ、ツユリは朝してあげたから、我慢できるもんね」


「「ッ!」」


 ヤンデレ二人がハッとして顔を見合わせる。


 片や同居と言う自分の優位性を思い出すツユリ。


 片や同じ家に住んでいないという大きな不利を自覚するユイ。


 お昼時だというのに、空気が緊迫していく……。


 ヤンデレを楽しむ気持ちも先ほど注意されてしまったので、僕は二人を宥めた。


「まぁまぁ。二人とも、ひとまずお昼ご飯を食べようよ。ほら、ユイも下りて」


「下りたくない……」


「サービスタイムはココまでネ、シャッチョさん」


「お兄ちゃんそれ私たちが生まれる前くらいのネタじゃない?」


「諸説ある」


 ひとまず僕の仲裁で、睨み合いつつも二人はお弁当を食べ始めた。


 無言。


 無言である。


 この二人、ケンカを封じると何もしゃべらなくなるのか……困ったな。


「お通夜……」


 ボソッとツユリが呟く。同じことを彼女も感じていたらしい。


 僕はパンっ、と手を叩き、仕切り直した。


「空気が悪いので入れ替えよう」


「ここ風通しめっちゃいいけど」


 ツユリが言う。


 屋上で陣取る僕らの間を風が通っていく。


「そうだね」


 話が終わった。


「いやいやいやいやいや」


 僕はさらに仕切り直す。僕は不屈の男。


「比喩をツッコミで殺すのはマナー違反だよツユリ。めっ、だ」


「ツッコミにマナーとかあるの?」


「……めっ、てされるの良いなぁ……。私もアキラくんに『めっ』て言われたい」


「ドM……?」


 ユイの呟きに、ツユリが青い顔でドンびいている。


 マズい。ただでさえお互いを敵視している二人の心の距離がさらに開いていく。


 僕は咳払いをして、二人に語り掛けた。


「二人は僕とは仲がいいけど、お互いに『友達の友達』みたいな状態だろう? せっかくだから仲良くなってもらいたいな、と思ってね」


「仲よくする必要あるの?」


 ツユリの拒絶があまりに火の玉ストレートだ。


「……アキラくんがそう言うなら、まぁ」


 一方ユイは不承不承頷く。意外だ。


「何て言っても、私はだからね」


 違った。マウントの前振りだった。なんてことを。


 ツユリの額に青筋が走る。さらにさらに空気に緊張が走る。


「それで、アキラくん。私は何すればいい? 、私頑張ってツユリちゃんと仲良くなるよ!」


 先ほどの敗北の報復とばかり、ユイは言葉を重ねてツユリにダメージを重ねている。


 ツユリは憤怒を表情に刻んでいる。


「そうだね……」


 僕は言いながら考える。考えながら観察する。


 ツユリは憎悪と怒りの化身みたいなことになっている。ちょっと人間がしちゃいけない顔をしている。


 一方ユイは半笑いで勝ち誇りまくっている。傲慢の権化みたいな表情だ。一周回って可愛い。


 僕は悟った。


 これは適当なことを言ってうやむやにした方がいいと。


「じゃあしりとりを始めようか」


「何で?」


「え、アレ? アキラくん?」


「じゃあ、ユイの『アキラくん』の『ん』から始めるよ。ンジャメナ」


「待ってお兄ちゃん。ナチュラルに『ん』スタートさせるのやめて? しりとり終わんなくなっちゃう」


「な……ナン」


「ユイさんが速攻で終わらせようとしてる」


「ンガウィヒ」


「これお兄ちゃんがいる限り無限に終わんなくない?」


「次ツユリの番だよ」


「えぇ私!?」


 ツユリが悩み始める。


 ひとまずは狙い通り、マウント合戦はどこかに行ったようだった。

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