逆!?異世界転送物語
猫助
転送魔法は慎重に
クウラ・ヒウルア
魔法を少しでも囓っている者は全てその名字に戦き、魔法を生業とする者は全てその名前に期待をし、日々机を並べる者は全てそのフルネームに畏怖と尊敬の念を抱く。名門魔法学校9年生にして僅か15歳の彼はそういう存在だった。
神話の時代からその名を残すヒウルア家の跡取りにして、魔法使いとしての最高傑作。実技でも座学でも上位3位から落ちることはなく、何十年と修行を積んだ魔法使いでも扱えない魔法を数時間の練習で自分のものにする。更に、伝説の魔女と同じで国に2人といない美しい黒髪黒目という容姿。その才能の片鱗を見せてきた頃から、良くも悪くも人々を惹きつけて止まない彼は、当然今日の実技試験でも完璧な転送魔法を披露した。
その魔法陣に、彼の活躍を妬んだクラスメイトが妨害魔法を施すまでは。
クラスメイトも決して凡夫だった訳ではない。神童と呼ばれながらも才能に溺れることなく努力を重ね、困難な魔法も正確無比に操ることができる優秀な魔法使い見習いの一人だった。しかし、クウラ・ヒウルアには遠く及ばなかった。その事実に自棄を起こしたクラスメイトはクウラのほんの一瞬の隙をつき、妨害魔法をかけた。
物を別の場所へ移動させる転送魔法に強力な妨害魔法を施すとどうなるかは魔法学校の1年生でも知っている。正しい転送魔法はめちゃくちゃな転移魔法となって近くにあるもの全てをおかしな場所へ飛ばしてしまう。今回の悲劇の原因は、妨害魔法をかけたクラスメイトが、クウラ一人だけを別世界に飛ばすという高度な魔法を妨害魔法に組み込めたことだろう。その事に気がついたクウラは咄嗟に自身の鞄と予備の杖を掴み、防御魔法と読み取り魔法を自身に施した。そして、光の渦に飲み込まれる寸前に犯人であるクラスメイトに簡単な制裁魔法を施し溜飲を下げた。
こうして稀代の魔法使い(見習い)クウラ・ヒウルアは、魔法のまの字もない現代日本に転送されてしまったのだった。
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